第399話【プロフェッサーゼロス4】

<<カーチス視点>>


ゼロス率いる特別小隊、そこは新人研修を断トツでクリアした俺にとっても戦慄せざるを得ない場所であった。


小隊の待機場所となる小隊室で俺が見たものは、隊服がボロボロに割け、全身血まみれの隊員十数名がうずくまってる光景だった。


どの隊員も屈強な体躯で、力には自信のあるカーチスをしてもその中の誰ひとりとして敵わないだろうと思えるような猛者ばかりである。


その屈強な猛者がまるで無数の猛獣の檻に放り込まれたかのような状況に、カーチスが戦慄するのも無理はない。


「おや、新しい隊員かい?そういや新人の生きの良いのが来るって言ってたな。」


目の前の光景に慄く俺の耳に場違いのように聞こえる澄んだ声が届く。


はっと我に返って声の主の方を振り向くと、そこにはこの場に似つかわしくない痩せぎすの優男が立っていた。


「たしか、カーチス君だったね。第109小隊へようこそ。わたしが隊長のゼロスだ。よろしくな。」


ゼロスと名乗る優男、歳は俺より10歳ほど上だろうか。その細身の体躯には似つかわしくない威圧とでも言おうか、そう、『自分は絶対逆らえない』と思わせる圧力を感じさせた。


目力だとか、威圧だとかそんなものではない。それが圧倒的な恐怖だと分かるまでには、それからなお数日間を要するのであった。



「君達、いつまでさぼっている気かね。さあもう一度訓練に戻るよ。」


目の前に転がる傷だらけの猛者に投げかけるその冷徹な声に、俺は戸惑う。


いったいどんな訓練をすればこんなことになるのだろうか?


「さあ、カーチス君もせっかくだから訓練に参加するといいよ。」


そう言うと、ゼロス隊長は壁に向かって手をかざす。


そこには真っ黒な闇が拡がり、その闇は多数のうめき声と共に転がっている傷だらけの男達を無遠慮に飲み込んでいった。


その中に、悲鳴を上げる俺が混じっていたのはいうまでもあるまい。




そして数日後、第109小隊室にはその数日前よりも壮絶な光景が広がっていた。


そして俺の無残で哀れな姿もそこに加わっていたのだった。





<<マサル視点>>


イリヤ達が企画した花見は思った以上に隊員達の結束を高めたようだ。


それまではお互いの成果を競って多少のギスギス感も漂っていた隊長達であったが、それもすっかり取れて古くからの仲間のように、お互いを気遣うようになっている。


それは下の隊員達も同様であり、総責任者としては有難い限りである。





「マイクさん、前方右側ホールドベア3体!フォーメーションAで対応!」


ウルティマさんの指示が指令室に響きわたる。


「了解、ムラマサ!援護頼む!」


「オーケー、任せとけ! 皆んな行くぞ。」


「「「おーーーー!」」」





「マサル様、このデッドマウンテンでの訓練、なかなかハードですが、白兵戦対策としてはかなり有益ですね。」


イスレムさんが冷静に演習成果を報告してくれている。


「前回の戦いで苦戦した敵の瞬間移動による奇襲や魔道具による遠隔攻撃、これを再現してくれる魔物がここにはたくさんいます。


よくこんな都合の良い世界がありましたね。」


「あったというか、創ったんですよ。魔物も同時にね。

ちょうど創りかけの星があったんで、もらってきたんです。」


「創りかけを...もらったって....」


異世界を創る運営課のことはあんまり詳しくは言えないからね。

ここは上手く誤魔化さなきゃ。


「ええ、ここはわたし達ラスク人から見たら神の世界じゃないですか。神が新しい星を創るなんてよくあることみたいですよ。


まあ、わたしはこの世界のことはよく分からないですがね。」


「....ええ、そういうこととして理解しておきます。

ところでお言葉ですが、マサル様は既にそちら側に近いと思いますが....」


イスレムさんの最後の言葉は少し引っ掛かるものがあるけど、この人かなり感が良いからな、あんまり余計なことは言わないでおくに限る。


「うーーーん、まあそんなとこですね。」


「ハーーーー」


盛大なため息をつかれてしまったな。



とにかく、白兵戦対策の訓練は上手くいっているようだ。


指令室からの伝達もスムーズだし、各班間の連携も上手くいっているようだな。


後は、時空空間対策と遠隔攻撃に対する備えだな。


前回の戦いでは俺自身が時空空間に拘束されるという失態をしてしまった。


あの時はたまたまウルティマさんが魔道具を止めてくれたおかげで事なきを得たが、あれが無かったら大変なことになっていた。


何か時空空間から抜け出す手段を考えておかないとな。


うーーん、隊員達の装備についてはもう少し考える必要があるな。


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