第395話【モーリス教授奪還作戦10】

<<????視点>>


ガシャーーン!


「ヒィーー」


思わず手に取ったガラスビンを大理石の床に叩きつけると、近くに居た秘書が、悲鳴をあげる。


裏向けた手を手首の下から上に振ると、『早く出ていけ!』の意味だと判じた秘書が、怯えたように慌てて部屋を出て行った。


「おのれーー!」


作戦の失敗を報告に来たカーチスは、さすがにその位の事では動揺もしなかったようだが。


しかし、あれだけの緻密且つ大規模な作戦行動がまさか失敗するとは夢にも思わんだわ。


戦力の半数を陽動で引き離し、独房の交替時間を考慮して最も人が集めにくい時間に襲撃させた。


その上、マサルをまんまと罠に掛けて時空空間に閉じ込めたというのに。


計画した作戦は全て成功したはずであったが、終わってみれば陽動も含めたこちら側の戦力は壊滅状態ではないか。


しかもモーリス奪還にも失敗しただと!


マサルさえ抑えればと向こうの戦力を侮っておったか。


まあ、捕まった奴らが多少情報を洩らせしたとしても、わしのところまで辿り着くことは無かろうがな。


しかし、戦力分析をやり直して心してかからぬと、足元を掬われるやもしれんわ。





<<異世界管理局調査室長ジーク視点>>


「マサル君、この度の敵の襲撃を退けたこと、ご苦労様。思ったよりも敵の陣営は大きそうだな。」


「ジーク室長、今回の襲撃については、俺の想像を超えた規模と緻密な計画で実行されました。

俺にも油断があったのかもしれません。反省するばかりです。


しかし、まさかあんな魔道具が仕掛けられていたとは。」


「その件なんだが、例の魔道具から、いろいろと判ったことがあった。


詳細については後で報告書を回しておくが、敵の内通者が異世界管理局に居ることがわかったのだ。


既に取り押さえて訊問中ではあるが、他にも居るかもしれん。

気を付けてくれたまえ。」


マサル君が頭を下げて部屋を出ていった。


「ふうーー」


一歩間違えれば大変なことになるはずだった。


最大戦力であり、作戦の要諦でもあったマサル君を時空空間へと閉じ込めてしまうという周到な計画。

そしてその罠に仕掛けるように巧妙に仕組まれたいくつもの陽動作戦。


こちらの布陣を見事に逆手に取られた形であった。


しかし指令チームの動きは的確であったな。相手の陽動に見事に引っ掛かったのは別としても、動くべきところに的確に配置変更をさせていたな。


あの指揮系統は目を見張るものがある。


そして、あの武闘劇。たまたま居合わせたとはいうものの女性4人で敵方120名のほとんどを制圧してしまうとは。


いやはや恐れ入った。


そういえばあの指令チームのリーダー、イリヤさんだったか、あれはマサル君の娘さんだったな。


そして指令チームの中心となる3人と独房で無双した2人も同じラスク星の異世界人というではないか。


やはりこれもマサル君の功績となるのかな。ははははは。


恐れ入ったものだな。


さて、内通者と襲撃犯の尋問にでも行くか。


尋問は久しぶりとなるが、『落としのジーク』と呼ばれた俺の出番だな。




モーリス教授奪還作戦 完


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