第339話【売れっ子ラノベ作家になりたい3】

<<ノブナガ視点>>


我が名は織田上総介信長。


天正10年、天下統一間近となったところでまさかの謀反とは。


光秀があのようなことをするはずもなく、明らかにタケイナーの策略であったのだろう。


まあ、あのまま儂が天下を治めたとしても上手くは行かなかったかもしれぬ。


藤吉郎の柔軟性と家康殿の堅実性がうまい具合に嚙み合ったからこそ、後の平和な世が実現できたのであろうな。


塞翁が馬ということでタケイナーの所業については不問とすることにしたのだ。


本能寺の寝所で蘭丸から 明智謀反 の報告があった時、儂は自害することを選んだ。


親父が死んだ後、タケイナーが異世界とやらに連れて行ったのを知っていたからだ。


後世、儂が自害を選んだのは気が付いたのが遅く逃げ場所が無かったからだとか、死の間際に「是非も無し」と言ったのは、光秀の感情を慮ってのことだとか言われているようだが、なんてことはない。


自害すればタケイナーが異世界とやらで次の人生を用意するだろうし、「是非も無し」というのは光秀にではなく、儂の死を急ぐタケイナーに対して漏らした嘆息の言葉だ。


まあその辺りはどうでもよいのだ。


タケイナーが儂に用意したのは異世界での”戦力コンサルタント”という職業だ。


”戦力コンサルタント”とは、「拮抗した力同士の争いが長期化し、その世界の困窮が常態化しないように上手く調整し、自然に平和な世界に導いていくための指南をすること」が役割となる。


要するにその世界の女神が指名する者に天下統一させるように持って行けばいいだけのことだな。


これまでいくつもの星を周って成功へと導いてきた。


ある時は戦術指南、ある時は助っ人として乱入、またある時は謀略の画策と儂が日ノ本を統一に導くために使った数々のノウハウを駆使したわけだ。


そして今回、このサムエストという世界に来ている。


この世界は日ノ本で言うところの鉄砲伝来前と考えてもらえば間違いないだろう。


槍と剣が主流の武器であり、戦場ではもっぱら槍同士の戦いとなる。


槍で離れて突き合うことが多く、合戦の規模の割には死傷者が少ない。


そのため、合戦が長期化し民の困窮が長引くのだ。


こういった場合は飛び道具を持ち込むか、調略を用いて内部から崩壊させるかを選ぶのが定石である。


ただこの世界全体の人数は少なく、常の生産量もそれほど多くないため、飛び道具による大量の死滅はその後の維持活動に大きく影響が出ると考えられるため、飛び道具案は不採用とする。


ゆえに、調略による内部崩壊を実現させるように仕向けようと思う。


今回こちらの世界の女神に依頼されたのは、スタビアヌス王家が君臨するスタビアヌス王国に世界を統一させるというものだ。


このサムエストという世界には4つの大国に分かれており、そのひとつがスタビアヌスであり、その他にハリビアヌス、ホリビアヌス、ヘリビアヌスの3国がある。


そのうち、ホリビアヌス、ヘリビアヌスについては儂の調略により既に内部崩壊が始まっており、他国と争う余裕はなくなっている。


少し民衆を焚きつけてやれば民による革命が蜂起されるであろう。


まあ、全体の様子を見ながら刺激していくことにする。


さて、今儂はハリビアヌスに味方しており、スタビアヌスと対峙しているところだ。


争いが2国となった現在、慎重に事を進める必要がある。


というのも、勝者が大きな力を持ったままだと他国を蹂躙してしまう恐れがあるためだ。

それでは統一は出来ても民の安寧は保証されないし、世界の発展にもつながらない。


2国は維持した上で力のバランスをスタビアヌスに傾ける程度の関係を作る必要があるのだ。


これは日ノ本でいうと、朝廷と幕府の関係に似ているだろう。


お互いに牽制し合うことで互いの暴走を食い止める自浄作用を持たせるのだ。


儂が足利義昭を京に入らせ将軍家と朝廷の力を補完したのもこの辺りにある。


後世の論者は儂が朝廷を操る為だとかぬかしおるが、当時の朝廷にそんな力は残っておらんかった。


せいぜい悪知恵を働かせるくらいで、殺る気になれば赤子の手をひねるより簡単だったのだから。


まあそんなことはどうでもよい。



現在の儂の戦略はハリビアヌスに一時的に勢いを持たせると共に反王家派のヒルガ侯爵家の謀反を促し、有力貴族中心とした共和制を樹立させることにある。


ハリビアヌスには穏健派の貴族もそれなりに存在するので、共和制を取ることでスタビアヌスとの盲目的な反目は避けられるであろう。


そして先日ハリビアヌスに潜入しハリビアヌス王に取り入った儂は対スタビアヌス戦の戦術を与え、ハリビアヌスの軍師として今日のこの戦に臨んでいる。


儂が与えた戦術は行軍中に休息しているスタビアヌス軍を渓谷の上から急襲するというものだ。


桶狭間で今川勢を打ち破った時の戦と同様の戦法である。


想像もつかない難所から急襲することで敵の混乱を誘い槍衾を作らせない。


それにより、数で劣るハリビアヌスに有利なように持って行き勝利に導くのだ。


一方で儂はスタビアヌスが一方的に敗退することも望まん。


混乱したスタビアヌスの兵が逃げ易いように後方に間隙を設けるのはもちろん、大将首に今後のスタビアヌスには不要な貴族の嫡男を選んである。


さあ戦の始まりじゃ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る