第338話【売れっ子ラノベ作家になりたい2】
<<シロウ視点>>
目の前の靄が晴れてくると真っ白な世界だった。
「あなたが今回の転生者シロウさんなのね。お待ちしておりましたわ。」
目の前で俺に微笑みかけているのは可愛い女の子。高校生くらいかな。
長い髪に白いワンピース。頭に飾ったティアラも可愛いな。
これでトロフィーを持っていたら、芸能プロダクションの新人発掘オーディションで優勝インタビューしているアイドルの卵だと思うだろう。
「スカウトのタケイナーさんから聞いてるんだけど、あなた信長さんのところで彼の活躍を小説にしたいそうね。
いいわ、それすっごく良いアイデアよね。彼のここでの活躍を上手く小説にできたら、世界中でこの世界が注目されるわ。
そしたらわたしもマリス先輩のように注目されるかも。
うん、是非立派な小説をお願いね。
ところでシロウさん、あなた前の世界では有名な小説家だったの?」
「えーーーーーと、書き始めてから10年くらい経つんですけど....
誰も読んでくれない携帯小説作家です。ハイ。」
「えーーーー!駄目じゃない。しようがないなー。じゃあ小説を上手く書ける能力をあげるから、しっかりお願いね。
じゃあ信長さんところへ送るわ。えい!
あっそうそう、今信長さん合戦の途中だから気を付けてね。」
気を付けてねって....あっチートを貰ってな.....
「うわっ、目の前に槍が!!」
咄嗟にしゃがんで躱す。
「あっぶねー。次は右か!」
自然と手が出て突き出された槍を掴む。
えーーー!!運動音痴の俺がこんな事できるなんて。まさかチート!
『転移者の基本特典ですよーー。身体能力だけは高くなってまーーーす。』
女神様の声が頭に響く。
なーんだって思うけど、まあ何もないよりはましか。
掴んだ槍はそれを持っている雑兵ごと投げ飛ばした。
それからは突き出された槍を躱し、斬りかかられた刀を奪い取りながら、その場を離脱していく。
小高い土手に上って下を見ると2、300人くらいが戦っていた。
「これが合戦か。でも鎧が中世っぽい。」
そんなことを考えながら呑気に見ていたら、ビシューと矢が飛んできた。
「あっぶねーなー。」
矢を避けて向こうから見えない位置に移動する。
しばらく見ていたら、均衡が破れたようで、右側陣営が崩れ出した。
一度崩れ出すとたちまち雑兵は逃げ出す。
兵の内9割を占める雑兵達が散り散りになるんだから、陣が保てるわけもなく、右側陣営はあっという間に白旗を揚げた。
おっ、日本の甲冑を身に付けた武将が白旗の中から出てきた。
手には首!!
人間の首じゃん、あれ血が滴ってるよね。
武将は手に持った首を高く上げて勝ち名乗りをあげる。
「我が名は織田上総介信長なり!!
敵将討ち取ったりーー!」
信長さんだった。
俺は今勝ったばかりの兵達に混ざって行進しています。
なぜこんなことになったかというと.......
「あれが織田信長か。
女神様にあの人に付いていけって言われたよな。
首を持っているのはドン引きだけど、ちょっと近くに行ってみよう。」
独り言を言いながら、信長さんのところに向かう。
「おい!お前見掛けない奴だな。どこの兵だ!」
しまった。俺訊問されてるよ。
戦中だし、たしかに不審な奴だよな。
「ミカエル兵長、彼は敵の槍を掴んでは投げ飛ばし、剣を奪っては投げ飛ばし、矢を掴んでは投げ返しと、獅子奮迅の活躍をしていました。
我らが囲まれた時も助けてくれたのです。」
少し綺麗な飾りが付いた鎧を着ている若者がフォローしてくれた。
「ユリウス様がそう仰るのであれば彼は我らの味方に違いありませんな。ハハハ!」
兵長は俺の肩を軽く2回ほど叩くと笑いながらその場を去って行った。
「あなたの活躍、見ていましたよ。
鎧も武器も持たないのに、僕達の危機にどこからともなく現れ、救ってくださった。
本当に感謝しています。」
うーん、よくわからんが、こちらに転移してきたタイミングで俺はこの青年を助けたことになってるみたいだ。
とりあえず乗っておこう。
「お怪我がなくって良かったです。」
短期のバイトばかりしているとなんとなく空気は読めるようになるんだよな。
「私はシーザー伯爵家の次男でユリウスと言います。お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「シロウと言います。」
「シロウさんですね。これから城に戻って戦勝会側あります。一緒に行きましょう。」
というわけで、ユリウス君に「さあさあ」と背中を押されながら軍の行進に交じってしまったわけです。
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