第320話【スカウト1】
<<異世界管理局人事課スカウト係タケイナー視点>>
わたしの名はタケイナー。アースに派遣されている人事課のスカウト担当です。
わたしがここに来たのは今から500年程前になります。
いやあ当時は本当に大変でしたね。
とにかく戦闘中の場所が多かったんです。
こちらに来て、まずは当時最大の面積を誇っていた『明』という国に行きました。
ですが、政情が不安定でもあり、優秀な人材を見つけることが出来ません。
次に当時文化の最先端と言われていたヨーロッパ地域に向かいました。
こちらでは東アジアから侵略を繰り返して迫りくるオスマン帝国の脅威があり、その脅威に恐々としていました。
ヨーロッパ地域では華やか宮廷文化が咲き乱れており絵画や音楽、文学等の文化を異世界に輸出するには都合が良かったのですが、反面、オスマン帝国の中央ヨーロッパ支配により、国土の拡張が不可能になった各国が船舶を使った未開地の開拓にしのぎを削り始めたのもこの頃の文化の象徴でした。
しかし未開地を侵略し、そこの原住民を奴隷として扱うことを是とする文化は輸入するには野蛮過ぎると思います。
華やかな宮廷文化とは相反するようではありますが、侵略による利益が宮廷の華やかさを彩っていると考えますと、ヨーロッパ地域の宮廷文化を他の世界に輸出することを躊躇われたのです。
こうしてアースでの適当な文化探しが行き詰っていたところに思わぬ情報が入ってきたのです。
「黄金の国ジパング」
明国より東方は未開の地として全く候補にしていませんでしたが、ヨーロッパの西の端にあるポルトガルという国まで来た時、明国より海を渡った東にジパングと呼ばれる国があることが分かりました。
しかもその国には豊富な黄金と質素ながら堅実な文化があるというのです。
この情報は商人であり冒険家でもあったマルコポーロという人が民国を訪れた際に聞き及んだというのです。
そしてヨーロッパ各国ではジパングを目指して準備を始めているようですね。
そんな中、わたしは一足先にジパングに向かいました。
もしジパングというところに輸入すべき優秀な文化があったとしても、この野蛮なヨーロッパ人に蹂躙されてからでは遅いですからね。
さて、ジパングに到着しました。
ここがおそらくそうですよね?
黄金の国と呼ばれていましたが…
黄金色には……、出会いませんね。
一部の寺院には、金色の派手なものもありますが、全体的には質素なイメージです。
どうやらこの国でも小さく分けられた領土通しで多くの戦いが起こっているようですね。
やはりここもヨーロッパのように野蛮な文化を持っているのでしょうか?
とりあえず、都と呼ばれている京に行って見ましょう。
京の都?に着いてみましたが、酷い有り様です。
戦いの多かったヨーロッパでも都と呼ばれているところでこんなに酷いところはありませんでしたね。
期待していましたがどうやら無駄足のようでした。
もう少し西の方には華やかな地もあるにはあったのですが、一部の富裕層だけが華やかで、庶民は酷く貧しそうでした。
これじゃ輸入するほどのものでもありません。
諦めて他を探そうかと思ったのですが、京よりも東に少し行った辺りに優れた領主がいるという噂を聞いたので、行ってみることにします。
他に行くあてもありませんからね。
どうやら田舎の小さな城にその領主はいるようです。
名前は織田信秀さんとおっしゃいます。
その頃の信秀さんの領地は大変小さく、周りには大きな領地を持つ領主達に囲まれていて、恵まれているとは言い難い状態でした。
ですが、彼はなかなかの御仁だとお見受けしました。
商業を奨励したり、農民も大切に扱っていたのです。
領地も少しずつではありますが、拡大傾向にあります。
この方であれば新しい文化を作ってくれるんじゃないかと、少し期待してしまいました。
わたしは彼の夢に入り込み、接触しました。
「信秀さん、わたしはタケイナーと言います。
少しお話しをしたいのですが、よろしいでしょうか?」
わたしの姿を見た信秀さんは腰の刀に手を掛けましたがすぐに手を引き、頭を垂れました。
あくまで夢の中の話しですからね。
わたしも信秀さんの意識の中にある神の姿を少し真似た姿で現れましたから、どうやら神のお告げだと思ってくれたようです。
「信秀さん、わたしはあなたの所領経営をお手伝いしたいと思っています。あなたはこの所領を豊かにさせたいと思っていますか?」
「いかにも。」
「では、あなたは所領が大きくなってもこれまで通り、農民や商人を保護していきますか?」
「いかにも。我が織田家では『政は民が基本』と教えられておりまする。
民なくしての所領など有りますまい。戦や天下も民の安堵のために必要なものと考えておりまする。」
「わかりました。それを守って頂けるのであれば、わたしはあなたの助けになりましょう。」
「有難く存じます。建稲種命(たけいなだねのみこと)様。」
うん?誰かと勘違いしてるかな?まあその方が都合がいいか。
こうしてわたしは織田信秀さんをサポートしてこの国に新しい文化を芽生えさせることにしたのです。
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