第321話【スカウト2】
<<戦国武将織田信秀視点>>
昨晩、夢の中に建稲種命(たけいなだねのみこと)様が現れられた。
我が武将 千秋 季光が大宮司を務める熱田神宮が一柱であり、ここ尾張の地をお守り下さっているという建稲種命様である。
ヤマトタケルの東征において武功を謳われる建稲種命様が我が織田家にお力を貸して頂けるとあらば、織田家の繁栄は約束されたようなものだ。
未だ我が領地小さきなれど、これから領土を拡大し、何とか周囲の大大名に押しつぶされない程の力をつける必要があろう。
建稲種命の言葉で、織田家の安定をこれまで進めてきた民百姓や商人への労りが間違っていなかったことが証明された。
これからは家訓として織田家に引き継いでいかねばならぬだろうて。
<<タケイナー視点>>
織田信秀という武将は実に賢明です。
領地経営に一番必要なものは民の信頼であることをよく理解しており、領民からも慕われております。
惜しむらくは、彼の周りには大大名が彼の領地を囲むように乱立しており、常に危機に晒されているところでしょうか。
少し力を貸してあげましょう。
那古野城にいた今川氏豊の心を少し乱しただけなのですが、乱世に心を蝕まれていたのでしょうか、うまく自滅してくれて、信秀が那古野城に入れるようになりました。
ここを拠点として安定した基盤を築けるようになると、今度は形ばかりが残っている朝廷に寄進し官位をもらうことで対外的な地位や権威も高め、元々の主家である斯波家をも凌駕し、実質上の尾張一国を手中に収めるまでになりましたね。
上手くいっているようで何よりですが、とうとうポルトガルがこの国にたどり着いたため、信秀には再度指示を出すことにします。
「信秀さん、タケイナーです。快進撃のご様子おめでとうございます。
初心を忘れずにこのまま頑張って頂きたいと思います。
それでは少し情報をお耳に入れたいと思います。
この日本より西の海を渡った遠い異国の地にポルトガルという国があります。
そこは優れた文化や武器、航海術を持ちますが、異国を奴隷にして食い物にする文化も合わせて持っています。
そのポルトガル人がこの日本に来ることになりました。
もしあなたがポルトガル人に会ったとしても決して心を許さず、彼等を追い返すようにして下さい。
もし彼らに侵略されたら、この国は滅んでしまうでしょう。
彼らの到着はあなたの子供の世代になるかもしれません。子供にもしっかり伝えて、彼らの良き文化を取り入れながら排除するように動いて下さい。」
彼には多くの子供がいますが、吉法師という幼子の心が綺麗なようです。
先に生まれていた信広さんは既に大人になっていて戦場で活躍していますが、少し好戦的過ぎてわたしの望みとはかけ離れているようです。
吉法師のすぐ下にも弟がいますが、頭は良いのですが素直過ぎて騙され易そうな甘えん坊ですね。
うん吉法師君が信秀さんの跡取りになれるように仕向けましょうかね。
吉法師君改め信長君いや一国一城の主を君付けは不味いですね。
信長さんが18歳の時に信秀さんが亡くなりました。
実は信秀さんの子供のひとりで信長さんの弟である信行さん、そうあの甘えん坊で流されやすい性格の子供ですが、彼に家督を譲らせたい一派が現れて、そちらに信秀さんが流されそうだったので、信秀さんには強制的に退場して頂きました。
そして信秀さんに代わって、今度は信長さんの夢に現れることにしました。
「信長さん、お初にお目にかかります。タケイナーと申します。
お父上の件、ご愁傷さまでした。
わたしのことお父様からお聞きになられておられますか?」
「うむソチが建稲種命様の名を騙る神であるか。」
「ご存じでしたか。やはりあなたはわたしが見込んだ逸材でした。
ところで、どこで気付かれました?」
「建稲種命様は尾張を守る神であるが、ソチが望むのは民の平穏と文化の隆盛であろう。
ということは、まずもってこの日本を統一し、国全体を平和にしなければならぬ。
建稲種命様の範囲を大きく超えておるわけだな。
それと文化の隆盛というのも今のこの時代にはそぐわぬが、いづれ異国との交易には不可欠なものであろう。
それを親父様の時代に持ち出したのは、解せなかったのだ。」
「さすがは信長様。実はわたしは、あなた達が神と呼ぶ世界から参った異世界管理局人事課のタケイナーと申します。
わたしの仕事はこの世界から文化や文明を他の世界、そうですね星と言った方が分かり易いかな。
その星を管理する管理者、つまり神様に紹介することです。
出来ればこの星の優れた文化を発掘して、その代表となる優れた指導者が亡くなった後スカウトしたいなあと思っている次第です。
お父様にお声掛けしたのは、お父様が優れた人格者だと思ったからでした。
残念ながらお父様がお亡くなりになられましたので信長様の元に現れた次第です。」
「にわかには信じがたいが、もしやソチが父上を?」
「そこまで推察されますか。ええそうです。お父上には申し訳ありませんが少しだけ早く退場頂きました。
信行様に家督を譲ると決められましたので。」
「なるほど、そうであれば是が非でも我が家督を継ぐ必要があるわけだな。」
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