第203話【移住者の受け入れ】
<<マサル共和国住民課課長タリム視点>>
わたしの名はタリム。
マサル共和国の住民課課長を仰せつかっております。
わたしは4ヶ月前までナーカ教国の総務課に所属していました。
ナーカの総務課では、住民の生活支援がわたしの主な仕事でした。
ハーン帝国崩壊でナーカに避難して来た難民達や併合した旧ハーン帝国に残っていた人々の衣食住の確保や精神面でのケア等は近年における最大の取り組みでした。
その経歴を買われ、ここマサル共和国で住民課課長に任命されたのです。
移住して来られる方達は、多くが何らかの問題を抱えておられるようです。
受け入れ時には、当然犯罪者も混ざっている可能性が高いため、そのチェックは重要ですが、心に傷を負った方々を刺激しないことも重要です。
わたしは魔族と人族の混血ですから、魔法は多少なりとも使えます。
教皇様や宰相のカイヤ様のような純粋な魔族では無いので、派手なものは無理ですが。
わたしの得意分野は『光魔法』です。
特に怪我の治癒や心の癒し系の魔法が得意です。
今回は、わたしのナーカ時代の部下を2人連れて来ました。
2人共混血ですが、ひとりは鑑定が得意です。
犯罪歴や強い悪意を読み取ることが出来ます。
もうひとりは記憶力に優れています。
顔や名前、その他の情報をすぐに記憶してしまうその能力は、ハーン帝国からの大量難民を受け入れた際には非常に助かりました。
今回の移民受け入れは、5回に分けて4000人づつと聞いています。
この3人で確実に受け入れ出来るように頑張る所存です。
<<マサル共和国建設課課長ニーズ視点>>
わたしの名はニーズと申します。
ナーカ教国の隣にある小国バース王国から参りました。
バースでは都市計画を担当しておりました。
今回マサル共和国に派遣されたことを光栄に思っております。
バースは非常に小さな国でその土地の活用にはいつも苦慮しておりました。
こちらでは新たな街づくりが出来ることが楽しみです。
都市計画を行う上での懸念事項としては次の3点です。
1つ目は、生活環境の格差です。
大国と小国では、どうしても元の生活環境に根本的な差があります。
その差を上手く調整しながら、当面は最低限必要となる様々な施設を用意していくことが必要です。
2つ目は、貧困の差です。
今回の移民にも貧困からの脱出を目的の方々が多くおられます。
また、裕福な移民の方々もおられます。
そもそもの生活水準が大きく違うため、今のままでは同じ生活環境を提供すること自体に無理があります。
当然、生活保護等の制度は国として考えていますが、生活水準を全体的に均一にするには、教育と労働環境が必要です。
国営の工房や商店等を建設し、労働環境を用意していったり、学校等教育施設も急ピッチで用意していきます。
3つ目は種族による生活習慣の違いです。
今回の移民には人族だけでなく、魔族や亜人も含まれていると聞いています。
人族の中でも生活習慣は国によって様々ですから、当然魔族や獣人とは比較にならないでしょう。
その辺りは充分にヒヤリングして、より暮らし易い環境を用意していきたいと思っています。
バースは半ばナーカ教国の属国のような位置付けでしたから、わたし自身魔族との交流も多かったため、この辺りを買って頂いたのではと思っております。
バースは、国自体が非常に困窮しており、そこに住む住人に至っては言わずもがなの状態でした。
教育も仕事もなく、日々口に糊するのがやっとの生活でしたが、あの日マサル様や他国の大勢の方に助けて頂いた御恩は忘れません。
精一杯移民の方の生活環境を整備し、恩返しをしていきたいと思っております。
<<マサル共和国行政課課長スピーナ視点>>
行政課の主たる仕事は、国民生活を維持・向上させることです。
税の徴収や予算の策定等の財務的な面、街の警備や、上下水の管理等住インフラの運営、医療や生活補助等の住民支援等が主な仕事です。
今回移民受け入れに対しては、住民課や建設課と強調して作業を纏める役割を担っています。
住民課のタリム課長や建設課のニーズ課長とは、何度も協議を重ね綿密な連携をとっています。
マサル様から支給された『トランシーバー』、非常に役に立っております。
これさえあれば、不測の事態にも備えることが出来ると思います。
既にこの街マサル共和国の首都『マサル』には主要な建物が建っており、上下水道はもとより住民が入居するための集合住宅もたくさん建設が終わっています。
2万人の収容を予定していると聞いていますが、建国が決まってからまだ4ヶ月にも満たないのに既に生活するためのインフラは揃っています。
さすがはマサル様と言うしかありません。
本日は移民の第1陣が到着予定です。
カトウ運輸の本社の皆さんや国際連合事務局の皆さんが受け入れの応援に港や庁舎に集まってきてくれています。
非常に頼もしい限りです。
特にカトウ運輸の皆さんはスラムや孤児院出身の方も多いため、移民の精神ケアには活躍を期待しています。
現在わたしは港の管理室から『双眼鏡』を使って全体の様子をチェックしています。
何かあればすぐに飛び出していけるように待機しているのです。
おや、船着き場に小さいお子さんが2人おられます。横にはリザベート様?
ああ、あのお2人がマサル様のご子息とご令嬢ですね。
まだ8歳とは思えない利発そうなお子様達です。
事実、2歳飛び級で入った小学校を卒業し、その頭脳は3歳にして大陸の最高学府キンコー王国アカデミーに首席入学できるほどの学力を持っておられたとか。
亜人大陸での活躍譚は多くの吟遊詩人に語られ、既に演劇化が決定しているとか。
魔法の能力も素晴らしく、今回の街の造成や建築にも関わっておられたそうです。
さて、移民第1弾4000人を乗せた船が到着したようです。
今船着き場に着岸し、1人目が降りてきました。
カトウ運輸の楽団による歓迎演奏が行われています。
最初の1人、おや! あれはローバー先生ではありませんか。
我が祖国の行政改革の時には大変お世話になった都市計画のプロフェッショナルです。
その後も続々と名のある研究者の方が降りてこられます。
ローバー先生達は、まっすぐにマサル様のご子息達の方に向かわれました。
2,3言葉を交わした後、ご子息がしきりに頭を下げておられます。
何かあったのでしょうか?
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