第164話 【皇太子との対面】

<<スパニ司令官ハリス視点>>

「いったい、いつまでかかるんだ!!


たかだか馬車1台を襲撃するだけだぞ!!」


わしはイライラが収まらず、副官に当たり散らす。


全く、最近の兵士は使い物にならん。




最初のヤライ攻略戦は簡単な戦のはずだった。


それなのに、無能な副官のせいで、1ヶ月以上時間を費やしたのに、勝利どころか外壁の1枚も壊せないまま撤退となった。


本国では、陛下からこっ酷く叱られた。


それで体制を整えて、再度砦に向かった。


前回は、少し相手を見くびり過ぎたようだ。


今度は倍の40000人を動員して、力任せに攻め立てた。



結果は悲惨なモノであった。


攻めども攻めども、全て高い壁と堀に弾かれる。


最新兵器の巨大バリスタやカタパルトも投入したが、強固な壁を傷付けることすら出来ず、壁の上から放たれた火弾により、次々と破壊されていった。


わしとしたことが、完全に冷静さを失い、気が付けば半数の2万人を失っていた。


この状況に兵士達の中には逃亡を企てる者が続出、最終的にわしの元には8000の兵しか残っていなかった。


「ハリス様、ヤライの族長の娘がロンドーに向かいました。」


ヤライとロンドーが婚姻関係を結び、関係を強化するという話は事前に聞いていた。


だからこそ、婚姻前にヤライを潰そうとしたのだが、間に合わなかった。


こうなったら、ロンドーまでの道で襲うしか無い。


ただ、ロンドーに向かう花嫁をスパニが襲ったとなると外交上問題が多い。


野盗に擬装して襲わせることにした。


戦果の出ない戦に、兵達の士気は下がる一方で、逃亡するものも増える一方だ。





2週間後、わしは最後の兵達と共に、敵に囚われた。


囚われた牢を監視しているのは、年端もいかない少女だ。


少し威してやれば、逃げられるに違いない。


「俺達を早く解放した方がお前達のためだぞ!


俺を誰だと思っているのだ、スパニの大貴族アマ、あっ?!」


気絶したわしが次に目覚めたのは、何処かも分からない暗い地下牢だった。




<<ロンドー皇太子アーク視点>>

昨夜、無事にヤライの姫が到着したと連絡が入った。

スパニの攻撃を受けていると隠密が報告してきたが、優秀な護衛がいたようだ。


政略結婚となるが、大切にしてやりたい。


おそらく向こうは、敵意を向けてくるだろう。


でも、それは仕方がないことだ。

ヤライにこれまでしてきた仕打ちを考えると当然だと思う。


明日の面会で、素直に謝罪しよう。

そして、これからの未来をふたりで作っていくことを誓おう。



ドン!!ドン!!


ドアが激しく叩かれた。


「こんな時間になんだ!」


「アーク様に申し上げます。

キャロ様謀反でございます。」


「なんだと?キャロが謀反を起こしただと!!」


信じられなかった。

キャロは、わたしに最も近しい側近であり、友だ。


「申し上げます。キャロ様の一手がヤライの姫様が滞在中の宿舎を取り囲みました。


キャロ様はこの王宮を取り囲もうとして、親衛隊と交戦中です。」


姫の方も心配だが、キャロがこちらに居るということは、こちらが主力ということか。


「申し上げます。親衛隊苦戦しております。


王宮内に侵入された模様です。」


「よし、わたしも行こう。」


報告に来た兵士を引き連れ、玄関口に向かう。


途中、敵側の兵を斬り伏せながら進んで行くと、玄関口は既に敵味方入り乱れ、収拾がつかない状況になっていた。


「アーク様、お逃げ下さい!」


ヤクルが、敵兵を斬り伏せながらこちらに近づいてくる。


「アーク、覚悟!!」


キャロが、人の波を掻き分けわたしのすぐ近くまで迫っていた。


となりにいる兵がキャロに斬りかかるが、返り討ちになる。


「アーク様ぁー!!」


ヤクルの声が響くが、人波に揉まれてこちらに近づけていない。


その間にもキャロは近づいており、すぐにキャロと数人の兵に囲まれた。


『もはや』そう思った時、全てが止まった。


正確に言うと、わたしと玄関口からこちらに近づいて来る青年だけが動いていた。


「皇太子アーク殿下でしょうか?」


そのエルフと思われる青年が、わたしに向かって話し掛けてきた。


「そうだが、君は?」


「間に合って良かった。わたしはヤライのデカ姫を護衛して来たマサルと申します。


デカ姫の命により、加勢に来ました。」


「それは有り難い。

ところで、この状況はあなたが?」


「そうですね。『時間停止』の魔法です。


このままだとまずいので、少し手伝って頂けますか?」


「何をすれば良いいのだ?」


「今、牢を作りますので敵兵を選んで貰えますか。


牢に移動していきますから。」


わたしは、キャロに加担した者達を指定していく。


マサル殿は、わたしが指定した者達を次々と魔法を使って牢へ入れていった。


「ふう、これで全部ですね。

じゃあ、時間を動かしますね。」


彼がそう言うと、周りが一斉に動き出した。


「じゃあ、後はお願いしますね。

お邪魔致しました。」


マサル殿が出ていこうとした時、1人の女性が入って来た。


「あー、デカさん、こちらも終わりましたよ。

もう安全です。


ランスもイリヤもご苦労様。

向こうでゆっくりさせてもらおうか。」


わたしは、今入って来た女性を見て驚いた。


彼女には50数年前に出会ったあの少女の面影があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る