国際連合は活躍する

第44話【リザベート念願の官僚になる】

<<リザベート視点>>

今日はキンコー王国 王立アカデミーの卒業式。


ヨーシノの森で、ライアンお父さん、マリアンお母さんと死に別れた後、日本っていう違う世界の国から来たマサルさんに助けられ、お母さんの兄のヘンリー・ナーラ公爵の養子となって3年。

この3年で、マサルさんやユーリスタお養母様により始まった王国内の行政改革は大きく進み、キンコー王国はこれまでに類を見ない隆盛を誇っています。

わたしも、アカデミーで研究会「次世代の農村を考える会」を主宰し、この改革を手伝ってきました。

「次世代の農村を考える会」に所属していた数十人の先輩達が王都や様々な領内で頑張っているみたいでとっても嬉しい。


明日から、わたしもキンコー王国内務省の官僚として社会人になるのです。


実は、ユーリスタお養母様を除いて女性が官僚になるのは、わたしが初めてみたい。



さっき王国代表として挨拶されたクラーク・ナーラ大公爵叔父様から、挨拶の中で「次世代の農村を考える会」のことを、「この大陸各国を見渡してもこれまでに無い研究成果を生み出した」って褒めて頂いた。

わたしが王国初の官僚になったことも、挨拶の中で自慢げに紹介されたのは恥ずかしかったけどね。

クラーク叔父様、ちょっと大袈裟って思うけど、叔父様からしたら、ユーリスタお養母様みたいな優秀な人でも、政治の世界に入れなかった時代のことを思い出して、感無量になったみたい。


わたしもどこまで出来るかわからないけど、今後女性の社会進出が進んでいくように、頑張らなくっちゃ。


お養母様やマサルさんが始めて実を結びだした改革なんだから、わたしももっと大きくしたい。

これってマサルさんの将来のお嫁さんとして内助の功って言うやつ? キャ。





「マークさん、明日からの領地視察のスケジュールを確認したいのですが。今大丈夫ですか?」

卒業式から3ヶ月、わたしは王城内にある内務省の行政改革推進室にいる。


この部署は、わたしの入省と同時に作られた新しい部署。

女のわたしが、まだ旧態以前の考えを持った貴族や職員にいじめられないようにって、ネクター王や宰相様が作ってくださったの。

でも1番喜んでいるのは、ユーリスタお養母様。

何のしがらみも無く自由に使える部署が出来たって。


お養母様が、室長を兼任するみたい。

行政改革推進室は、室長、わたし、マークさんの3人と、事務を担当してくれる男女3人の6人体制。


マークさんは、元々お養母様の護衛をされていた騎士様なんだけど、この部署ができた時に、移動願いを出したみたい。


王立アカデミーの卒業生でお養母様が学生時代に書いた論文に感銘を受けて、自分も行政改革に携わりたいと思っていたんだけど、騎士の家に生まれたから断念したらしい。


お養母様の護衛をしていて、やっぱり改革に携わりたいと、この機会に移動願いを出したの。


一応、わたしの護衛ということで体裁を作っているけど、頼りになる先輩で同僚ってとこ。


わたしとしては、先輩としていろいろ頼りたかったけど、しばらく一緒に仕事をしている中で、マークさんから「マーク先輩って呼ぶのは、やめて欲しい」って言われたから、今はマークさんって呼んでいる。


わたしの今の仕事は、行政改革のPRと各地域の進捗確認や地域での相談役ってとこ。


ハーバラ村で改革を1から始めた時の知識が役に立っている。

その時の仲間達も改革の最前線でがんばっているしね。


あっ、そうそうジョージさんにもたまに会うよ。騎士様なのに、「キンコー王国きっての敏腕現場監督」って呼ばれていた。

本人もすごく気に入っているみたいだから、いいんだけどね。

この前会った時は、ハローマ王国での活躍譚を3時間くらい聞かされたっけ。

まあ、マサルさんの活躍談も入っていたので面白かったけどね。


あと、「次世代の農村を考える会」の卒業生達も、自分の領地に戻って頑張っている。

今回視察に行くところにも何人かいるので、旧交を温めたいな。



「リザベート様、明日からの領地視察についてなのですが...」


「マークさん、リザベートさんって呼んで欲しいってお願いしたよね。」


「失敬、リザベート...さん。明日からの領地視察についてなのです...だけど、一応20日くらいで考えているよ。

3領地を回る予定。いやあ、カトウ運輸が作った「トラック馬車」ってやつ、あれのおかげで、たった20日間で3領地も回れるんだよ。しかも快適だし。」


マサルさんが会頭を務める「カトウ運輸」はこの世界唯一の輸送業で、大陸でも最大規模を誇る大商会になっている。

キンコー王国中に張り巡らされた物流ネットワークのおかげで、王国が大きな1つの街になったみたいだって思う。


そのカトウ運輸が開発した「トラック馬車」っていうのがすごいの。

よくわからないんだけど、サスペンションっていうのかな、馬車の下に大きなバネがついていて、馬車が揺れにくい。

それと、マンモスサイの腸を加工して作った「タイヤ」っていう物が車輪についていて、車軸と車輪の隙間に挟まっているベアリングっていう金属の玉との組み合わせでこれまでにないスピードで安定して走ることができるようになった。

馬も、軽く引けるようになったみたいで、同じ頭数でも運べる荷物量は2倍になったそうだ。


マサルさんってば、やっぱりすごい。


改革により経済が活性化したこと、物流ネットワークが広がったことで、街道以外を移動する場合でも、これまでのような大層な護衛は必要なくなった。

これも、様々なところへ移動する時間が短くなった理由だと思う。


これまで護衛を専門としていた冒険者たちは、街道や主要道路のところどころに設けられた「駅」と言われる休憩所で警備と管理の仕事をしている。

駅では、市も開かれ商売や食事もできるので大変賑わっている。

駅での収益の一部は税としてその領地に治められるので、各領地では駅を利用してもらうための工夫合戦をしている。

それぞれ見世物小屋や特産品の試食会等独自色があって面白い。


駅は、元々はわたしのアイデアだったのをマサルさんがうまく取り入れて具現化してくれたの。

こんなに広まってみんなの役に立っているのだから嬉しい。


それ以外にも、「次世代の農村を考える会」時代にみんなで考え提案したものも、たくさん実現している。

わたしは卒業したけど、後輩のみんなもいっぱい頑張ってくれたら嬉しいな。




翌日、わたしとマークさんは、トラック馬車に乗って視察に出かけた。

最初は、北に向かってターバ領へ。

ターバ領は、ターバ伯爵が治める領地で、王都に近接していることもあり、主に北方の領地の様々な物資が集まる交易地だ。

カトウ運輸の大規模物流センターもあり、ここ数年は、好景気に沸いている。

ターバ伯爵も穏和な方で、わたしも晩餐会や舞踏会で何度かお会いしている。


今回の視察では、カトウ運輸が地域に与える影響を調べることになっている。


ターバ伯爵領の首都ターバに到着すると、代官のライスさんが迎えてくれました。


「リザベート会長、ご無沙汰しております。

この度は、女性初の官僚就任おめでとうございます。


旧知の俺としてもとても嬉しいです。」


「ライス先輩、ありがとうございます。

もう卒業したんだから、会長はやめてくださいね。

しばらくお世話になります。」


そうなんです。ライスさんは、アカデミー時代に「次世代の農村を考える会」に所属されていた2年先輩なんです。


ライス先輩は、卒業後地元であるターバ領に戻って、役人として改革推進をされていました。

カトウ運輸の招致についても積極的に地元に働きかけ、結果今の好景気に導いた功労者でもあります。


その貢献を認められて、この若さで代官職を与えられました。


代官っていうのは、警察署長と裁判所長官、税務署長を合わせたような、行政全般を担当する職です。


元々、ターバ領の有力貴族の子息だったこともありますが、凄い事ですよねー。


そんなわけで、わたしはライス先輩にマークさんを紹介して、3人でトラック馬車に乗ってターバ伯爵の城まで向かいました。


ライス先輩ったら、トラック馬車の乗り心地に大興奮。

いっぱい質問されました。


マサルさんに、市販出来ないか打診しなきゃ。


<<マーク視点>>

ユーリスタ様の養子であり、「ユーリスタ様、マリアン様の再来」と言われるリザベート様が、卒業後官僚になることを希望されている、との情報が王城を中心に駆け巡った。


女性とはいえ、アカデミーで入学から卒業まで首席の座を守り通した学力や、アカデミーの教師や生徒に大きな影響力を与え、今の改革を一般に浸透させたと言われる「次世代の農村を考える会」の代表であった実績等、女性とはいえ官僚に出来ない理由などあるわけが無い。


だけど、旧態以前の考えを持った貴族や官僚も残っている中で、「彼女をどの様な形で官僚に迎えるか?」という議論で持ちきりだったそうだ。


結果、内務省の管轄ではあるが、ユーリスタ様直属で何のしがらみも無い部署を新設することで落ち着いた。


メンバーには、内務省で過去に事務職を経験したことのある主婦を2人、リザベート様と同期入省の男を1人、それにわたしを入れた5人に、室長を兼任されるユーリスタ様を含め6人になる。

全く既存の内務省から影響を受けないメンバーだ。


これは、改革を誰にも邪魔されずに推進して欲しいとの思惑と、国王肝いりの初女性入省なのに、余計な横やりを入れられたら面倒と思う内務省の気使いが混じっているようだ。


まぁ、どちらにせよユーリスタ様とリザベート様の邪魔をするような輩は、このわたしが排除するだけだが。


わたしは、ユーリスタ様の護衛として職務を全うするつもりだったが、リザベート様の入省、部署新設の話しを聞いて、どうしても改革推進に携わりたい想いが強くなり、ユーリスタ様に直談判した。

結果、職員として職務を与えられることとなった。

もちろん、お2人の護衛は、しっかりとさせて頂くつもりだ。


ユーリスタ様の論文を読んで10年、騎士の家系に生まれ、諦めていたはずの夢がこうして叶ったのである。



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まーくん

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