第43話【その後】

<<マサル視点>>

事件は、ダゴー領にて秘密裡に処理された。もちろん、キンコー王国としても承知した上でだ。

フェアリー夫人の自白により、マリー嬢の洗脳から始まった足掛け20数年に及ぶ一連の事件は、全て明らかになり終息した。


ユーリスタ様は、ダゴー公爵と会談の翌々日、つまり事件解決の翌日にマリー嬢と会われた。

俺も同席し、マリー嬢に掛かっていた洗脳を浄化魔法で解き、全てを説明した。


マリー嬢は、ユーリスタ様への学生時代の数々の無礼や洗脳されていたとはいえ、暗殺を企てたこと等真摯に反省し、陳謝された。


ユーリスタ様はそれを全て受け入れ許した上で、マリー嬢にダゴー領における行政改革の推進役をやってみないかと勧められた。


マリー嬢もかつてはハローマ王国一の才女と呼ばれた程の能力の持ち主であり、ユーリスタ様の支援があれば見事にダゴー公爵領を立て直すことであろう。


2人は、学生時代をやり直すかのように行政改革に関する議論を繰り広げては、楽しそうに笑っている。

不幸な事件はあったが、これを機にマリー嬢には新しい人生を歩んで欲しいと思う。


<<フェアリー視点>>

わたしは、隠れホンノー族といわれる一族の末裔として生まれました。

わたし達の一族では、生まれた時から、キンコー王国とハローマ王国に対する恨みを延々と刷り込まれます。

わたしは、先祖返りとでもいうのでしょうか、魔族の血が色濃く出ており、洗脳する術に長けていました。

その能力を一族が見逃すはずもなく、わたしは、ダゴー公爵領に工作員として送り込まれました。


工作員といっても何をするわけでもないのですが、できるだけ上位貴族に取り入って、両国に損害を与えるような工作をすることが使命でとされました。

幸いわたしは、自分でいうのもなんですが、容姿に恵まれていたこともあり、街中でルイス伯爵に見初められました。

しかし、庶民と貴族では結ばれるはずもありません。

わたしはこの機会を見逃すわけにはいかなく、ワリー男爵家に女中として入り込み、男爵を含む全ての家人を洗脳し、男爵家の養女となりました。


程なくして、ルイス伯爵からワリー男爵に縁談の話しが舞い込み、わたしはルイス伯爵の夫人となったのです。


次にわたしが目を付けたのは領主の娘マリー・ダゴー公爵令嬢でした。

マリー嬢の侍女兼護衛としてダゴー公爵家に取り入ったわたしは、マリー嬢に付き添ってキンコー王国に行くことになりました。

キンコー王国の王立アカデミーに通うマリー嬢の同級生には、ネクター王太子やユーリスタ・ワーカー宰相令嬢など、国の将来を背負って立つと言っても過言でない人達がたくさんいました。

この機会を逃すわけにはいきません。

マリー嬢を洗脳し、彼らと敵対する様に仕向けました。

うまく刃傷沙汰にでもなれば、両国間にひびが入り、今後の工作がやり易くなるでしょう。

戦争でも始めてくれれば御の字です。

そう考えたわたしは、マリー嬢の洗脳を強め、けしかけるのでした。

途中まではうまくいっていましたが、1年程でマリー嬢は精神に破たんをきたすようになりました。

元々繊細な方でしたし、頭も良かったので、完全に洗脳しきれていなかったのでしょうか。

流石にこれ以上続けるのはまずいと判断したわたしは、マリー嬢を国元に返すよう工作し、国元に返しました。

ですが、公爵家には戻さず、療養が必要と洗脳した医師に言わせ、公爵家の別荘に閉じ込めることにしたのです。

わたしの監視下に置いておかなければ、危険だと判断したからです。


マリー嬢を手駒として使えるようになるまで20年近くの時間を要しましたが、やっと使えるようになったため、工作を再開しました。


わたしは、マリー嬢に一族のコペンを送り込み、マリー嬢の指示としてホンノー自治区の制圧計画を実行させました。

結果はマサルのせいで失敗に終わりましたが、全ての罪をマリー嬢にかぶせることはできました。


ハゲンのことについては、わたしの想定外でした。

ハゲンもキンコー王国を監視する為にわたしが送り込んだ一族の者です。


コペンがマリー嬢に重用されているのを快く思わないハゲンは、功を焦り勝手に計画し実行したのです。

結果的には、ここから足がついてしまったのですが。


次の計画を練っていた時に、困ったことが起こりました。


行政改革に成功し、国力を大幅に上げたキンコー王国に、ダゴー公爵が支援を求めたのです。

キンコー王国は、直ぐに支援団を派遣しました。

これがうまくいくと、両国間の友好関係がさらに深まってしまいます。

なんとしても阻止する必要がありました。

そこで、カクガーの森に忘れ去られた瘴気発生の魔方陣があることを一族の者に聞き付け、その封印を解いたのです。


その結果、カクガーの森には獰猛な魔物が溢れ、通行できない状態を作り出すことに成功しました。

これで、キンコー王国は、ハローマ王国の要請を断わらざるを得ないと思いました。


ところが、またマサルにしてやられました。それどころか、マサルはそこからわたし達一族の存在にたどり着いてしまったのです。


最後の策として、城で公爵もろともキンコー王国の支援団を殺害し、双方に罪を擦り付けることを考え、実行にうつしました。


実際それは成功し、見事に殺害できたかに見えました。


そこに、マサルさえいなければ。


わたしは今、ハローマ王国の地下牢にいます。

わたしの一族は全て捕らえられ、投獄されました。既に処刑されたものもいる様です。


わたしの人生は何だったのでしょうか。


<<ユーリスタ視点>>

マサル様から一緒にダゴー領に一緒に来て欲しいと依頼を受けました。

他ならぬマサル様からの願いであり、マリー様のことも心配だったので直ぐに行くことを決めました。


馬車で王都を出発しましたが、王都を出てしばらくして、人目がなくなるとマサル様は、

「ユーリスタ様、急ぎますので飛んでいきますね。驚かないでくださいね。」

と言い、「フライ」とつぶやきました。


すると、大きなシャボン玉のようなものが目の前に現れ、わたしが乗った馬車を中心として護衛達全てを呑み込んでしまいました。

何があったのかと、一同動揺していると、そのまま空に浮かび高速で移動を始めました。

まあ、マサル様のすることにいちいち驚いていては心臓がいくつあっても足りません。

わたしの護衛達や侍女たちも同様です。

もう慣れてしまいましたわ。


窓から下を見ると、様々な街並みが見えます。

かなりの高さがあるので下の様子は伺いしれませんが、遠くに見える港には大きな帆船が何艘も停泊しています。

あれはサイカーでしょうね。交易が上手くいって何よりです。

前方に大きな森が見えます。たぶんあれがカクガーの森ですね。


あの森を超えると、もうハローマ王国ダゴー領です。


カクガーの森の手前で、馬車が降下していきます。

ちょっと耳が痛いですが我慢しましょう。

地面に降りたところで、マサル様に耳抜きの仕方を教えて頂きました。


ここは、ホンノー自治区でしょうか。マサル様の報告にあった通り、今は平和を取り戻し、街の拡張工事で活気に満ち溢れています。


地面に降りてしばらく進むと一軒の屋敷の前に馬車が止まりました。


「ユーリスタ様、中でダゴー公爵がお待ちです。」


そうでした、景色に目を奪われ本来の目的を失念するところでした。


馬車の中でマサル様から今回の一連の騒動の顛末について聞いております。


それを終息させ、前進させていくための会談をダゴー公爵と行うのでしたわね。




無事、会談を終えたわたしは、ダゴー公爵の許可を頂いて、その2日後マリー様を訪ねました。


マリー様は、マサル様に魔法で洗脳を解かれ、20数年前に遡るフェアリーの行状について説明を受けられました。

全てを聞き終えたマリー様はしばらく放心状態でしたが、その後泣き崩れられました。

わたしは、マリー様に駆け寄り優しく抱き寄せる事しかできません。


その後、冷静さを取り戻されたマリー様は、わたしに深く謝罪の言葉をおっしゃった。


「ユーリスタ様、洗脳されていたとは言え、数々のご無礼申し訳ありませんでした。

謝って済むような話では無いことは重々承知しております。

ですが、どのようなことをしてでもお詫びさせていただきたいと思います。」


涙ながらの謝罪に、本当の被害者は彼女自身であることを、わたしは改めて思い知らされ涙が溢れるのでした。


彼女にもう一度青春時代を送られせて上げたいと思います。


そう、わたしが青春時代を取り戻したように。


「マリー様、ダゴー領の行政改革を推進されてみませんか?

わたしも全面的に協力させていただきますわ。

そして今度こそ良いお友達としてお付き合いさせて下さい。」


わたしの言葉に、マリー様は少し戸惑ったような顔をした後、直ぐに満面の笑みで「是非よろしくお願いします。」とおっしゃいました。


これから、わたしと彼女の青春が始まるのですね。



<<マリー視点>>


洗脳が解け、ユーリスタ様から温かい言葉を頂いた。


全ての事実をを知り、本来であればそのまま一生を終えてもしようがないわたしだが、ユーリスタ様に新しい命を頂いたような気がします。


これまでのことは、いくら洗脳されていたとしても水に流すことなどできないだでしょう。


それはこれから少しづつでも禊ぎをしていくこととし、心機一転、好奇心に満ち溢れていた青春時代をユーリ様と一緒に取り戻したいと思います。



<後日談>


マリーは、ユーリスタの指導の下、ダゴー領の行政改革をリーダーとして推進していった。

その姿は、公爵令嬢のそれではなく、村人達と一緒に鍬を持ち汗を流す姿や、建築現場で炊き出しをする姿など各地で見られ、領民全てに尊敬される存在となっていくのであった。


また内政においても、財政面や渉外面で持ち前の聡明さを発揮し、一躍ダゴー領がハローマ王国で抜きんでたものになっていったのは言うまでもない。

彼女が、ハローマ王国全体で活躍する日もそう遠くはないだろう。


ユーリスタとマリーの交友関係はその後ますます親密度を増し、それは家族同士の付き合いを越え、やがて両国の長きにわたる親密関係を築く礎になったことは、また別のお話しとしたい。



第2章完

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