第6話【リズ、緊張する】

<<リズ視点>>

ヘンリー叔父様達とナーラの街に向かった。


馬車に乗って叔父様と向かいあう。


魔物調査に行く途中なのであまり良い馬車じゃ無いと叔父様はおっしゃるけど、ふかふかの椅子でとっても座り心地が良い。


叔父様から何があったのか教えて欲しいと言われたので教えてあげた。


魔物に襲われた事、ビッグベアに追いかけられて覚悟した事、マサルさんが突然現れて、ビッグベアを一太刀で倒した事、アイカの村でビッグベアを売って宿屋に泊まった事とかを話したの。


そうそう上手く値切れた事も話したの。


でも、マサルさんが異世界から来た事や魔法が上手い事なんかは、話しちゃいけない気がしたから話さなかった。


叔父様にマサルさんは、どんな人って聞かれたから、「とっても強くてかっこいいけど、ちょっと変わってます。」って答えておいたの。


夢中で話してると、ナーラの外門に到着した。たくさんの人が並んでいたので時間が掛かるなぁと思っていたけど、騎士様が門番に声をかけると、直ぐに入れた。


ちょっとずるいよね。

待ってる人の横を通っているのが申し訳ない気持ちになった。


門をくぐると、お城がある中心部へ向かう。


ナーラの街は、お城を中心に円形になっていて、お城、上級貴族の屋敷、宮廷騎士の寮、お城で働く人達の寮、中下級貴族の屋敷、官庁街・守衛騎士の寮、の順に外に向けて広がり、一番外側が一般庶民住居となっているってヘンリー叔父様が説明してくれた。


お父さんと一緒に行商に来た時は、庶民街がほとんどでたまに守衛騎士様の訓練場に行くくらいだったので、それより内側に入った事がない。


官庁街より内側に入るには、貴族様用の門があって貴族様の許可が必要みたい。


外門からだんだん奥に進むといつもお世話になっている宿屋のミリーさんや常連客のメリーさんなんかが馬車の中にいるわたしを見て驚いていたので、挨拶をして手を振っておいた。


しばらく行くと守衛騎士の詰所に着いた。


「ちょっと引き継ぎをしてくるので待っていてくれるか。

ジョージ、ライアンの娘のリザベートだ。見ておいてくれ。」って若い騎士様にわたしを預けて建物に入って行った。


「ライアン様の御息女ですか、ジョージ・ハリウンと申します。


ライアン様には、御指導して頂いた事があります。

リザベート様にも4、5年前に一度お目にかかりました。」


わたしは、全然覚えていないのだけど、たぶんお父さんと一緒にここに来た時で4、5年前というと、確か外門のところに魔物が押し寄せて来て、騎士様達と一緒にお父さんが退治に行った時だろう。


わたしがそのことを話すと、ジョージ様は、「そうです、わたしはあの時入隊したばかりで、リザベート様と一緒にここで留守番をしておりました。」


思い出した。


あの日はたしか、お母さんが他に用事があってここにいなかった。


お父さんは、騎士様達と一緒に出て行っちゃって1人で心細かったんだ。その時一緒に遊んでくれた…

あっ思い出した、あの時のジョージさんだ。


「4年程前にこちらに父と伺った際に魔物の襲来に怯えるわたしの相手をしていただいたジョージ・ハリウン様ですの!」


懐かしさから緊張が解けて素が出ちゃった。気をつけないと。


わたしは、心細かった時にジョージ様が相手してくださったことを覚えていると伝えると、

「覚えていていただいて光栄です。ところで今日はライアン様とご一緒では?」


わたしは、お父さんお母さんが亡くなった事、その経緯、今ここにいる理由などをジョージ様に話した。


「それは、嫌なことを聞いてしまって申し訳ありません。

お悔やみ申し上げます。


でもヘンリー様と出会えてたのは、幸運でしたね。


もし何か問題がありましたら遠慮なく言ってくださいね。」


御礼を言っているとヘンリー叔父様が戻ってこられた。


叔父様は、ジョージ様を労ってからわたしに振り返り、優しく「さあ私も今日は終わりにしてきたから、屋敷に帰ろうか。」と言って下さった。


馬車は貴族門を抜けどんどん進んでいく。


あんなに人が多かったらのにほとんど人通りが無くなり長い石壁がどこまでも続く広い道を進んでいくにつれ、ちょっと心細くなってきたけど、叔父様がお城の中の話しをして下さっていたので、気を紛らわす事ができた。


この街で暮らしていくのは、ちょっと心細いけどジャン様やジョージ様みたいな親切な人達もいるし、庶民街には行商時代の知り合いもいるので、何とか頑張れそう。あーマサルさん早く来てくれないかなぁ。




<<ヘンリー視点>>

リザベートを馬車に乗せて、ライアンやリード家、マリアンの昔話をした。リザベートは、2人から何も聞いていなかったみたいで一生懸命聞いてくれる。


ライアンが男爵位を持っていた事も知らなかったので、本当に庶民として育てようとしていたのだろう。


しかしリザベートは、本当に真っ直ぐな良い子に育っている。


貴族のような裏表もなく、それでいて貴族にあった時の礼儀作法もキチンとできる。


この子が望まないのであれば、無理に貴族にしない方が幸せかもしれない。


その後、これまでの経緯について詳細を聞いた。


ところどころで言葉に詰まりながらも理路整然と要点をキチンと伝えてくれる。


行商で学校も満足に行ってなかったろうに全く聡明な女性に育っている。ライアンはともかくマリアンも聡明だった。


上手く教育したものだ。


マサルの事も聞いてみた。


聞いた限りでは突然現れてビッグベアを一撃で倒したという。


手負いだったとはいえ、ライアン達がやられた相手だ。

それを隙をついてとはいえ一撃で倒せるとは信じられない。


ならば魔法か?


胴を綺麗に落としたのであれば、風魔法になるが、4メートルもあるようなビッグベアの太い胴を1回の魔法で切断しきれるなんて聞いたことが無い。


考えられるとしたら伝説の勇者しかないが… 年甲斐も無く何を考えているのか。苦笑してしまう。


まぁ良い、ジャンが戻ってきたら、どんな男かわかるだろう。


ジャンには、マサルの能力や思想を確認し、当方にとって危険な存在かどうか等を見極めるように指示してある。


守衛騎士団の詰所に寄って今日の顛末を日報と引継書にまとめる。


長居する気もないが詰所の受付で待たせているリザベートが気にかかる。


たまたま受付にいたジョージに相手しておくように頼んだ。

年も近いし大丈夫だろう。


10分程で書き物も終わったので、事務の女性に今日はこのまま帰ると伝えて受付に急ぐ。


リザベートが不安がっているかと思ったらジョージと談笑していた。ジョージの奴、仕事はまだまだ半人前だが女の扱いは上手そうだ。


ちょっと嫉妬するがそこは大人、キチンと労っておく。


明日から庶民街の駐在として配置転換が良いかな。




<<ジョージ視点>>

訓練所から詰所に戻る途中、ヘンリー騎士団長に呼び止められた。


何か粗相でも と思ったが心当たりがない。


敬礼すると「ジョージ、ライアンの娘のリザベートだ。

見ておいてくれ。」と言われた。


敬礼して了承すると、団長は足早に中に入っていった。


ヘンリー様は、領主様の弟で領内きっての剣の使い手だ。


鬼神のヘンリーと恐れられている。あの人に剣で勝てるのは、ライアン男爵くらいだろう。


ンン… ライアンの娘?この可愛いお嬢さんは、ライアン様の御息女か。


そういえば、以前お会いしたことがある。確か4、5年前のことだったっけ。


以前お会いした事をお話しさせていただくと少し間が空いてから、はっとされた。どうやら思い出して頂けたようだ。


「4年程前にこちらに父と伺った際に魔物の襲来に怯えるわたしの相手をしていただいたジョージ・ハリウン様ですの!」


うっ嬉しい、名前まで覚えていてくれた。


あの時は、まだ10才くらいだったと思うがしっかりと覚えておられる。


まだ成人前だけどむちゃくちゃ聡明な女性な上にかわいい。


もっとお近づきになりたい。


何か会話を続けなきゃ。


そう言えば今日はライアン様をお見掛けしない。

一緒ではないのかなと思い聞いてみた。


リザベート様は少し顔色を曇らせ小さな声だがはっきりとした口調で話し始めた。


「父と母は、昨日ヨーシノの森で魔物に襲われ、亡くなりました。

わたしはとある方に助けて頂き、今日ヨーシノの森に向かわれる途中の騎士団の皆さまにお会いし、こちらまで連れてきていただきました。」


まずい、一番聞いてはいけないことを聞いてしまった。俺は焦りながらもお悔やみの言葉を絞り出した。


「ありがとうございます。

寂しい気持ちはありますが、親を亡くし1人になるなどこの世界では珍しくもないこと。

わたしなどは、皆さまの様な心強い方々がいて下さるだけでも大変恵まれていると思います。


これからもよろしくお願いいたします。」


なんてできた女性だろう。


よし決めた、何があっても俺が守るよ と心に決めていたら、団長が戻って来た。


団長は、俺の方を一瞥し、一瞬苦い顔をしたがすぐに余所行きの笑顔を俺に見せて、

「ありがとう。呼び止めて悪かったね。ご苦労さん。」

と言った。


この笑顔は、団員には滅多に見せない。


この前この笑顔を見た奴は、1週間後に最前線に配置されたっけ………………………

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