第5話【魔窟を発見する】

<<マサル視点>>

アイカ村で一泊した翌日の早朝より俺たちはヨーシノの森に入った。


ビッグベアを仕留めたところを抜け、リズたちが襲われた場所にたどり着いたのは昼過ぎだった。


倒れて壊れた馬車を見てジャンはすぐにライアンの持ち物であることを確認した。


また、周りの焼け残りを見てそれがマリアンの得意とする火魔法によるものだと断定した。


これ程の広範囲で安定した火魔法を使えるのは王国でもマリアンくらいしかいないからだそうだ。


更に奥に進むと大量の魔物の死体があった。


おそらくここで最初に襲撃され、魔物を駆逐するも力を擦り減らしたところであのビッグベアが現れた。


先程の馬車の位置まで逃げ込んだところで追いつかれ、やられたのだろう。


おそらくマリアンの火魔法も魔力が尽き、ライアンも手傷を負っていたのだろうな。


いくら最強の冒険者だったとはいえ、充分な装備もなく不意打ちを食らってしまえばどうしようもなかったに違いない。


リズを逃がすのが精いっぱいだったのだろうと思う。


その後、騎士たちは手分けをして周りを調査した。


2時間ほど経った頃だろうか、東側の方向を調査していた騎士から合図があったのでジャンと共にそちらに向かった。


そこには何とも気味の悪い霧のようなものが立ち込め、そこに近寄ると胸の奥が重苦しいような感じを受けた。


合図をした騎士は、そこに蹲っており胸を押さえてうめいている。


「まずい、これは瘴気だ。すぐに離れろ。」ジャンは辺りにいた騎士に声を掛けその場を離れさせた。


ただ蹲った騎士は動けないのかそのままだったが、突然発狂したように笑い出した。


そしてこちらを向いたその顔は、青白く目に光がなくなっており不気味な笑みをたたえていた。


「しまった。瘴気に侵されてしまったのか。こうなってしまっては元に戻す手段がない。残念だがこちらに危害が及ばないうちに倒すぞ。」


ジャンは他の騎士たちにそう指示を出し、剣を構えた。


瘴気に侵された?


俺は、魔法のマニュアルから瘴気を抜く方法を検索すると、「浄化」の呪文が検索出来た。


こちらに襲い掛かってくる瘴気に侵された騎士。


それをいなしながら倒そうとするジャンと騎士たち。


俺はジャンを押しとどめ、とりあえず「浄化」と魔法を発動した。


すると、あたりの瘴気が消えていき、瘴気に侵されていた騎士がその場に倒れこんだ。


その騎士の顔に徐々に生気が戻り、俺がその騎士を抱き起すと徐々に回復していった。


今までの記憶は無くなっているようだ。


ジャンたちは、俺の魔法に驚くと共に仲間の回復を喜んだ。


「マサル殿ありがとう。


大事な仲間を失わずに済んだ。


しかし、瘴気を浄化するなど上級の神職でも難しい事をいとも簡単にやってしまうとは……」


喜ぶ皆を制し、俺はジャンに瘴気の正体と何故発生したのかを聞いた。


「瘴気は通常はほとんど発生しない。


瘴気は魔素が何らかの理由で変換されるものであり、大抵は大気に紛れて薄まり人体に影響がないレベルになるからだ。


まれに魔素溜まりと呼ばれる魔窟などの中で発生したものが溜まって一気に噴き出すことがあり、これらが人や動物に影響を与え、魔物にしてしまうことがある。


今回はそのケースだと思われる。」


ということは、どこかに瘴気を生み出す魔窟があるわけだ。


魔窟を何とかしないとビックベアのような強力な魔物が次々に生み出される可能性が高い。


全員で瘴気の吹き出し口である魔窟を探して1時間程経った時、ジャンが魔窟を発見した。


直径1メートルくらいの穴から、瘴気が漏れているのが判る。


辺りは鬱蒼とした森なので瘴気が溜まりやすいのだろう。


1人見張りを外に立てて俺とジャン、騎士3人の5人で中に入る。


瘴気に当てられないように、全員に風魔法のシールドを張っておく。


中は真っ暗なので、ジャンが灯りの魔道具を灯して前を歩いていく。


しばらく進むと、だんだん前が見えなくなるくらい瘴気が濃くなってきた。


「そろそろ発生源か?」俺は浄化の魔法を唱え、辺りの瘴気を消した。


すると目の前に小さな穴が開いており、そこから瘴気が吹き出していた。


穴に近寄ってみると、穴の中から唸るような音がする。


近くにあった石を落としてみる。地面に当たる音で大体の深さを測ろうとしたが、いくら待っても音が返ってこない。


俺は魔法のマニュアルを検索し、下に降りる方法を探る。


風魔法のフリーフォールが良さそうだ。登りはフライで大丈夫そう。


後は穴を広げるためにパワーハンドを使って力任せでいこう。


俺は穴に両手を突っ込んで一気に穴を広げた。


突然の荒技にジャン達は何事かと驚いていたが、これまで色々な魔法を使うのを見ていた為、なんとか納得したようだ。


「本当にマサル殿は、規格外だなぁ」と溜息をついていた。


下に降りて調べてくると伝えて、フリーフォールの呪文を唱える。


ふわりと浮いたのでそのまま穴に飛び込む。


ゆっくり5mも降りると周りに瘴気の霧が立ち込め何も見えなくなる。シースルーの呪文を唱えて、透けて見える感じをイメージすると霧が晴れたように周りが見えてきた。


だいたいイメージ通りだ。


魔法は、呪文を適切に選び、細かいところは強く詳細にイメージすれば思い通りに動作しそうだ。




<<ジャン視点>>

我々騎士団は日々厳しい訓練を受けているので体力には自信がある。


アイカ村を出て、かなり速い速度で行進している。


新人騎士の中には、へばってきているものもいる。


そろそろ休息が必要かと思い指示を出す。


地面に腰を下ろすと横にマサル殿が来た。


全く疲れを感じさせない。

それ程鍛えているように見えないが、思った以上に体力がありそうだ。足手まといになるかと思ったが嬉しい誤算だ。


団長からは、この男に怪しいところがないか調べるように言われている。


何か特殊な能力を持っているかもしれないから気をつけるようにと念を押された。


気にし過ぎだと思うが一応用心しておこう。


ビッグベアを倒したところまで後どのくらいかを尋ねた。


たぶんここで半分くらいだと言う。リザベート嬢を連れてこの距離は大変だったと思い労うと、リズを乗せた馬と並走して走ったらすぐだったと事も無げに話す。


この体力があれば、まんざら嘘でも無かろう。


ビッグベアを本当に倒したのかも怪しいと始めは思ったが、道中での会話や態度を見る限り、信用できそうだし、嘘を言っているように見えない。


休息を終え、一気に目的地まで向かう。


ライアン殿達がビッグベアに襲われたのはこのあたりか。


馬車にも見覚えのあるし、このくらいの焼け跡を作れるのは王国でもマリアン殿くらいだからだ。


少し離れた丘の上に墓標らしき木片が建ててある。


これが2人を弔った後だろう。


墓標に全員で敬礼し、周囲の探索に入る。しばらくして部下の1人が大量の魔物の死体を見つけた。


これだけの魔物に不意打ちを食らったら、いくらライアン殿達が規格外でも持たなかったろう。


リザベート嬢が逃げられたのは本当に奇跡だと思う。


しばらくすると、更に先を行っていた部下の焦って呼ぶ声が聞こえた。


何事かと急いで向かうと、辺り一面瘴気が充満し、その部下タリャは蹲り動かない。


とりあえず他の部下を避難させた後、タリャに近づこうと足を踏み出した時タリャが突然笑いながら立ち上がった。


しまった瘴気にやられたか。


以前同じようなことが騎士団であり、瘴気に侵された騎士が仲間の騎士を虐殺したと聞いた。


タリャには申し訳ないが、被害を拡げるわけにはいかない。


断腸の思いで全員にタリャを殺害する指示を出した。


戦闘が始まった直ぐにマサル殿が、俺に任せて欲しいと言ってきた。出来れば我々の手で、と思っていると「浄化!」と聞こえた。


だんだんと瘴気が消えていき、タリャも足下に崩れ落ちた。


すぐにマサル殿が駆け寄り、タリャを抱かえて様子を見ている。


「状態が正常に戻った。もう大丈夫だと思う。」


マサル殿の言葉に全員が歓声を上げ喜んでいる。


わたしも嬉しいが一方で驚愕している。


浄化だと!教会の中でも上級司祭くらいでないと使えないような上級神聖魔法だぞ!


何故マサル殿が使える?


タリャの状態を確認した時もまるで状態異常が見えてるようだった。


彼は一体何者なのだろうか。


しばらく呆けているとマサル殿が瘴気について聞いてきたので説明した。


「そうすると、この近くに魔窟が有ると言うことか?」


頷くと、


「では探しに行こう。」


マサル殿が、歩き出したので全員に命令し魔窟探しが始まった。


およそ1時間後わたしは魔窟を見付けた。


入り口を背の高い草に覆われた直径1メートル程の洞窟のような感じで、表から発見することは難しい。今回発見できたのは僥倖な事だ。


わたしとマサル殿、後3人に声をかけ5人で魔窟に入る。


しばらくすると瘴気が濃くなり前が見えない。


戻ろうとすると、また「浄化!」と聞こえた。


もう驚かないぞ。


霧が晴れ前を見ると小さな穴が開いており、そこから瘴気が吹き出しいるようだ。


ここまで来て残念だがこれ以上は装備が足りない。


諦めようとした時、ガツっと大きな音がしたので穴の方を見るとマサル殿が、手で穴を大きく広げていた。


なっなにを?と思うと同時に「ちょっと行ってくる。フリーフォール!」


マサル殿が突然穴に飛び込んだ。腰が抜けるかと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る