衝撃の館

衝撃の館 前編



 僕は画家だ。

 たくさんの絵を描いている。



 僕は大学を卒業したあと、すぐにフリーランスのイラストレーターになったのだけれど、どうもそれだけでは大変だった。




 人間関係ってやつかな。しがらみってやつかな。あるいは責任感というやつかも知れない。



 取り敢えずそういうのがすごく嫌で、すぐにやめちまったのさ。



 最初の頃は、バイトで生計を立てていたよ。でも、それも何か、僕の性質に合わないっていうか。



 バイトも長く続かなかったんだよね。

 で、実家に帰ってニートやってたけど、



 家まで追い出されちまってさ。このままじゃヤバイと思って、止めていたバイトをまた始めようと思っているんだけど、



 そうそう、飲食店なんだけど、この前決まってさ、しばらく続けようって算段さ。



 で、出勤日が来週なんだけど、何せイラストレーターだった頃の蓄えがあってさ。



 どうせだったら、その蓄えをはたいて、今まで誰も行かなかった辺鄙な場所に行ってみようと思ったんだよ。



 絵画の構想を練るには最高な場所。


 イマジネーションってやつ。それが降り注がれるような場所にね。



 つまり、かの有名な旅館『衝撃の館』に僕は足を踏み入れたんだ。


 そこはめちゃくちゃ有名な心霊スポットなんだ。


 いやでもさ、心霊スポットの旅館って言っても、それがまだ営業しているんだよ。



 なぜか客足が途絶えないらしくて。


 それで、僕もその場所に行ってみて、絵画の一枚でも描いてやろうって思ったんだけどさ。


 一歩足を踏み出して、拍子抜けしちまったよ。



 何せ案外、普通の旅館だったんだな。


 これじゃあ、一人修学旅行と変わんねぇよ。っ思ってさ。


 僕は、部屋の中で、こうしてゴロゴロと寝転んでいるわけ。



 異変があったのは、その日の夜。

 僕は、部屋の中で、妙な音を聞いたんだ。




 虫の鳴き声みたいな。

 キイィ、キイィ。


 って音なんだ。



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