第4話 扉の声




 少女が、例の虫と一緒に部屋に入ってから、いったいどれ程の時間がたったのだろうか。


 一向に部屋から出てくる気配は無く、彼は少し心配になった。


 しかし、少女に、部屋を覗くことは禁止されているのだから、彼はもどかしい気分だった。



 少年は扉の前まで来た。そうして、そのまま何もできなかった。



 彼は声を掛けようかと思った。



 しかし、彼女が言う事によると、重要な用事があるらしかったので、彼女の集中を妨げたくないと、声を描けるのをやめた。



 けれどもやはり、彼は気になって、気になって、仕方なかった。


 すると扉の向こう側から、声が聞こえてきた。それは、少女が小さく喘ぎ声をあげているような声だった。



「…………何をしているんだ?」

 と少年は疑問に思う。




 彼女の扉の向こうから聞こえる彼女の喘ぎ声は、だんだんと大きくなっている。



 少年は不安な気持ちになった。また、それと同時に、ちょっとドキドキした。


 いったい、あの扉の向こうで何が行われているのだろうか。


 彼はどうしようもなく、貧乏ゆすりをしていた。


 彼はふと、ここで扉をいきなり開け放ったらどうなるかと考えた。


 少女が虫と一緒にどんな事をしているのか、その答えが分かるから。



 しかし、それをしてしまうと、少年と少女の信頼は、ここで途切れてしまう。


 しかし彼は、それでも見てみたかった。


 あの虫は、いったい何なのか、少女は、あの虫とどんな事をしているのか。



 彼女はまだ声を漏らしている。

 小さく、遠慮がちに。


 彼は、決意を決めた。自分の知的探求心には逆らえないと思った。



 きっと、自分がこの扉を開けたとしても、縁を切られるなんて事にはならないだろう。


 きっと笑って許してくれるだろう。そんな考えが、彼の頭の中に浮かんできて、




 少年は震える手で、扉に手を、掛けた。



(完)

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