新しい部屋に越してきた主人公が、謎多き先住者(幽霊)と出会うお話。
軽妙な対話劇。どことなくふわっとした、落ち着いた雰囲気が優しくて好きです。
終盤で明らかになる行貴の情報、そこにじわりとにじむ生々しさ。幽霊というとなんだか浮世離れしたものをイメージしてしまいますけど、でもその実それは「かつて確かに生きていた、でも今はもういない人」である、という、そんな当たり前のことを改めて思い知らされた気分です。
一番好きなのはやっぱり結末周辺、この物語の終わり方です。お金、というひどく現実的で即物的な心配と、そして過去を探す物語から、目線が「この先」へと移るところ。
お話の舳先が現実に向く瞬間。ふわふわとした物語世界のお約束のようなものが、最後に少しだけ「きゅっ」と引き締まるような、その瞬間が魅力的でした。