第31話 愛莉の答え
次の日、俺は起きる気にならず、遅めに家を出た。そして、三叉路で愛莉とバッタリ会ってしまった。
少し考えれば遅めに行ったら愛莉と会うことなんてわかったはずだが、そんなことすら頭から抜け落ちていた。
「……おう」
「……おはよ」
俺たちはお互いに話すことはなく、学校に向かった。
「ちょっと付き合えよ」
教室に入るなり、蓮は俺と肩を組み廊下へ引っ張っていった。愛莉はそのまま自分の席に向かって行ってしまう。
「昨日どうなったんだよてめえ」
「どうって……告白したよ」
そして、蓮にも昨日のことを掻い摘んで話した。
蓮は「なるほどなぁ」と腕を組んで俺の話を聞いている。
「だからお前らそんなにぎくしゃくしてんのか」
蓮は楽しそうに教室に戻り、自分の席に着いた。
「愛莉ちゃん、今日帰りにカラオケ行こうぜ。もちろん将太も一緒に」
「いや、今日は……」
「なんだよー。昨日は俺一人置いて二人で遊んでたくせに」
「私は別にいいわよ」
「じゃあ決まりな!」
「おい! 俺は……」
「じゃあ放課後な!」
蓮は俺の言葉を遮り、机に突っ伏した。俺はため息を吐いて愛莉の方を見る。
「まあいいんじゃない?」
愛莉はそれだけ言って前に向き直ってしまった。
今日ほど授業が短く感じる日はないだろう。正直、気まずくてカラオケを楽しむどころではない。
できることなら行きたくはないのだが、放課後になったところで、蓮が俺の肩を掴んだ。
「まあまあ」
蓮がニヤついているのが見える。俺は深くため息を吐いて、カラオケに行くことを決めた。
「愛莉ちゃんさ、なんで将太に返事してやんねえの?」
部屋に入るなり、蓮は愛莉に向かって言った。俺と愛莉は二人して蓮を睨みつける。
「おま、何言ってんだよ」
「えー? だって愛莉ちゃんって将太のこと好きなんだろ? なのに返事を先延ばしにしてる意味がわかんねーし」
それを今俺の前で言うのか……。蓮に少し呆れつつ、愛莉の様子を窺う。驚いたように蓮を睨んでいるが、顔が赤くなっているようだった。
「そういうのって、二人っきりの時にするもんじゃないの?」
愛莉の言う通りだ。確かに返事は聞きたいが、今この場で聞いてフラれたりしたらと思うと……。
「じゃあ俺は部屋から出とくからよ。終わったら呼んでくれ」
「おい、蓮!」
「じゃ、ごゆっくり~」
俺の声を無視して蓮はヒラヒラと手を振って、部屋から出て行く。二人残された部屋では、モニターから流れる広告の音が鳴り響いていた。
「あいつ、勝手よね。私にもタイミングってものがあんのよ」
愛莉が頭をわしわしと掻きまわして呟く。
「とりあえず、蓮連れてくる」
「……どうせ! 言うつもりだったから……」
部屋の外に見える蓮を呼ぼうとドアに近づくと、愛莉が話し出した。
まさか、と愛莉を見る。
目に少しの涙をためて、見たこともない真っ赤な顔で俺を真剣に見つめていた。
「ずっと一緒にいたら気付いてくれるんじゃないかなって思ってたけど、あんたが私と付き合うのはありえないって言ってたから諦めてた。でも、私は……」
愛莉は一旦言葉を切った。そして深呼吸して、もう一度俺を見る。
「私は、将太が好き。ずっと前から、好きだったの」
「俺も、愛莉が好きだよ」
目を逸らして呟いた。愛莉には聞こえていたようで、顔を背けた。
「俺は、愛莉以上に好きなやつなんていないんだって気付いた。だからもう一回言うぞ。……俺と付き合ってくれ」
愛莉は俺に近づいて、軽く抱きしめた。
「うん……私も、将太と付き合いたい」
耳元でそう呟かれる。俺は呆然として頷き、愛莉は俺から離れた。
「蓮、もう入ってきていいわよ」
愛莉は何事もなかったかのようにドアを開け、蓮を部屋の中に入れた。
「どうなったか……って将太の顔みたらすぐわかったわ。おめでとう、お二人さん」
「うるさい」
愛莉が蓮を軽くマイクで叩いているのが目に入ったが、俺はそれどころではなかった。
「どうせ付き合ったんだったら、明日デートでもしたらいいんじゃねえの?」
蓮が何か言っている。
「うるさいわね」と愛莉が一蹴しているのが聞こえ、カラオケは続いていった。
……
「じゃあな」
カラオケを出たところで、蓮とは別れた。
「明日、デートする?」
歩き始めたところで愛莉が聞いてくる。先ほどの蓮の話を真に受けたのだろうか。
「ああ、俺も暇だし、どっか行くか」
「じゃあお昼ごろ、あんたの家に行くから」
「わかった」
俺はほぼ真っ白な頭で受け答えしていた。
「ただいま」
家に帰ると、いつもなら弟が「おかえり」と言ってくるはずなのだが、今日は返事がなかった。
キッチンに行くと、弟が料理しているのが見える。
「なんだ、いるんじゃんか」
「ああ、兄ちゃんおかえりー」
弟はどこか気の抜けた様子で料理している。
「兄ちゃんさぁ。明日出かける?」
「ん、ああ出かけるけど、それがどうかしたか?」
俺がそう返した途端、弟は元気になった。
「あ、ホント? ならよかった。明日、彼女が家に来るって言い出してさぁ。兄ちゃん、彼女が家に遊びに来てるときはすっごい気まずそうにしてるから」
そういうことだったのか。確かに弟の彼女が家にいるときは俺の動ける範囲が限られるからあんまり好きではないのだが、そこまで気にしなくてもいいのに。
「まあ思う存分彼女と遊んでろよ」
「そうする! ありがとね、兄ちゃん」
なぜか弟に感謝され、今日の夕飯は少し豪勢になっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます