第28話 健太の意見
気が付けば窓から日差しが差し込んでいた。結局考え込んでしまい、あまり寝ることはできずに寝不足のまま俺は学校に向かった。
「おはよ」
教室に入ると、愛莉はもう来ていた。蓮はまだ来ていないようだ。
「おう」
俺は愛莉の顔を直視することができず、軽く挨拶を返して自分の席に座り、机に突っ伏した。
「何よ……」
愛莉がぶつぶつと文句を言っていたが、気にしている余裕はなく、俺はそのままホームルームの時間まで寝た。
昼休みになり、俺は教室から出る。そして、廊下を歩き始めたところで中庭に向かう意味がないことを思い出した。
「何やってんだ……」
俺は教室に戻るでもなく校内を歩き、図書室に来ていた。
中に入ると、数人の生徒が本を読んでいるのが目に入った。別に本を読みに来たわけではないが、俺は本棚を見て回る。
「先輩……?」
突然後ろから声がかかる。振り向くと理香がいた。
「理香……」
「……何か借りに来たんですか?」
理香は少し引きつった笑顔を浮かべて俺に話しかけた。別れてから時間も経っていない。無理しているのだろう。
「ああ、いや。そういうわけじゃなくて……。理香はなんか借りに来たのか?」
「はい、友達に勧められて、ちょっと読みたい本があって」
「そっか……。じゃあ、俺は行くわ」
「はい。それでは」
俺は話を切り上げ、図書室から出た。あのまま図書室にいたら気まずさでどうにかなってしまいそうだ。
昼休みが終わるギリギリに教室に戻り、席に着いた。
「どこ行ってたのよ」
席に着くと、愛莉がムスっとした表情で俺を見た。
「腹減ってなかったからぶらぶらしてたんだよ」
「あっそ」
愛莉は不機嫌そうに前を向いてしまう。横を見ると、蓮はまだ来ていないらしい。
俺は机に突っ伏して寝る体制になった。
授業が終わり、クラスメートが教室から出ていく。俺はそれを眺めていた。
愛莉は俺が動くのを待っているようだ。
「行くか」
俺は愛莉に声をかけ、教室から出た。愛莉は特に返事をするわけでもなく、俺についてくる。
「大丈夫なの?」
校門を出たところで、愛莉が口を開いた。
「何がだよ」
「彼女と別れてから、あんたの様子がおかしいから聞いてんの」
「考え事してるだけだよ。気にすんな」
「ちょっとは私にも相談しなさいよ」
愛莉と理香のことで悩んでいるのに、その本人に相談することができるわけがない。
「あんたが調子悪いと気になるのよ」
呟くように愛莉が言った。
「なんだそれ」
俺たちはそれから特に話すでもなくまっすぐ家に帰った。
「ただいま」
健太はまだ帰ってきていないようで、返事はなかった。
俺はカバンを部屋に放ると、キッチンに向かう。
「たまには変わってやるか」
気分を切り替えたいというのもあって、俺は少し早いが晩御飯を作り始めた。
「ただいまー」
鼻歌交じりに健太が食卓の方に入ってくる。そして、俺の顔を見てビクッと体を跳ねさせた。
「兄ちゃん! 帰ってきてたの?」
「ああ、おかえり」
「今日俺の当番だよ?」
「まあ、たまにはな。最近変わってもらってたし」
「なんか企んでない?」
健太が訝し気に俺を見た。
「失礼なやつだな。別になんもねえよ」
「まあいいけどさ。じゃあ俺、先にお風呂入っちゃお」
健太はそう言って風呂場の方へと消えていった。
俺はできたご飯を食卓に並べ、先に食べ始める。
「どうするか決まったの?」
風呂から出てきた健太が、椅子に座りながら聞いてきた。
「……」
「決まってないんだね」
無言を否と取って、健太はため息交じりに言った。
「時間が経てば経つほど辛くなってくるよ? 前の彼女さんを選ぶとしたら猶更。それに、愛莉さんもすごく兄ちゃんのこと心配してるんだから」
「そうだな……」
愛莉に心配をかけてるのは感じている。しかし、俺はまだ結論を出しかねていた。
理香と別れたのは、愛莉のことが好きだったと感じたからだが、それは本当にそうなのか。
昔から一緒にいたからそう思っているだけじゃないのかと感じてしまう。
「じゃあさ、兄ちゃん。愛莉さんに彼氏ができたらどう思う?」
「それは……」
健太の言葉に俺は返事に詰まる。
もし愛莉に彼氏ができたら。素直に喜ぶだろう。愛莉が俺に彼女ができた時のように。
「幸せになってほしいと思うよ」
これは本心だ。確かに愛莉に彼氏ができたら、ちょっと嫌かもしれない。それは、俺が彼氏になりたいとかそういうわけではなく、今までのように遊べなくなるのが寂しいからだと思う。
「はぁ……」
健太は大きくため息を吐いて立ち上がった。
「もうさっさと愛莉ちゃんに告白しなよ」
「なんでそうなるんだよ!」
「愛莉ちゃんのこと好きな癖に他に彼女作って、しかも結局愛莉ちゃんのこと好きだからって別れたのに、なんで今そんなに悩むことがあるのさ」
「それは……」
「前の彼女さんに申し訳ないって? そんなの別れ話する時から気付くべきだったでしょ。正直、俺が彼女さんの立場だったらもう一度やり直そうなんて思えないよ」
いつになく、健太が怒っていた。
「愛莉さんも前の彼女さんも可哀そうだよ……」
そういって健太は部屋から出て行ってしまった。
「わかってるよ……」
俺はいなくなった健太の席を見つめ、呟いた。
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