第19話 愛莉の異変
「ただいま」
「お、兄ちゃんおかえりー。……なんか嬉しそうだね。いいことあった?」
「……別に」
「ふーん?」
健太は怪訝な表情をして俺を見ていたが、俺は気にせず自分の部屋に向かった。
次の日の昼休み、俺は中庭で理香を待っていた。
「お待たせしました」
理香が慌てた様子で走ってくる。理香は息を整えて、俺の横に腰かけた。
そして、弁当箱を差し出す。
「ありがとな」
「いえ……」
俺が弁当を食べ始めると、理香はそわそわとして、口を開いた。
「昨日は、ありがとうございました」
そして頭を下げる。
「本当に、素敵な一日でした!」
「喜んでもらえたならよかったよ」
理香は顔を赤くしながら、笑って「はい」と返事をした。
それから俺たちは、次のデートの日程を話したりして昼休みの時間は過ぎていく。
「じゃあ、また放課後な」
俺は理香に手を振り教室へと向かった。教室に戻ると、珍しく愛莉と蓮は話しているでもなく互いに携帯を眺めていた。
「おう、お帰り」
「ああ」
蓮はあまり興味なさそうに俺に声をかけた。
「なんかあったのか?」
いつもの二人の様子ではなかったので、俺は蓮に訊ねる。
「ん、別になんもねえよ?」
蓮は顔をこっちに向けるでもなくそう答えた。
「そっか」
別に食い下がることでもないと思い、俺は話を切り上げる。気になりはするが。
「あんたは彼女のことがあるんだから、気にしなくていいのよ」
愛莉がそっけなく俺に言った。
「そうかよ」
愛莉の言い方に腹が立ち、吐き捨てるように言った。
横で蓮が微妙な顔で俺たちのことを見ているのが見えたが、無視することにする。
気にするなと言っているのだから、無理に首を突っ込むこともないだろう。
「ホントにいいのかよ」
蓮が小さく呟いたのが聞こえたが、俺が聞くよりも早く蓮が机に突っ伏してしまった。
放課後、俺は珍しく教室から早く出て校門へと向かった。
毎日理香を待たせているのも申し訳ない。たまには俺が待っていてもいいだろう。
校門に着いたがまだ理香は来ておらず、俺は校門にもたれて学校から出ていく生徒を見送っていた。
「珍しいな。お前が早く出ていくなんて」
理香よりも先に、愛莉と蓮が来た。昼休みのことがあって少し気まずい。
「たまにはな」
「ま、いいんじゃね? いっつも理香ちゃん待たせてたみたいだし」
それだけ言って蓮は学校から出ていった。愛莉は俺に目もくれず蓮と一緒に学校を出ていってしまう。
少し険悪な雰囲気になることは多々あるが、今回は喧嘩している気分だ。
「先輩、お待たせしてしまいましたか?」
「別に待ってないよ」
愛莉のことを少し考えていたら、理香が小走りできた。
「別に走らなくていいのに」
俺がそういうと、理香は微笑みながら「先輩と早く会いたくて」と呟いた。理香も顔が赤いが、言われているこっちのほうが恥ずかしい。
「手を繋いでもいいですか?」
理香が不安そうな顔をしながら俺に手を差し出した。
「……ん」
俺は何か言うのが恥ずかしくなり、理香の手を取った。理香は安心するかのように俺の手をぎゅっと握り、並んで歩き出す。
特に何か話すわけでもなく、ただ理香の家まで歩いていた。
「それじゃ、また明日な」
俺は理香を家に送り、自分の家に帰った。
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