第15話 デート前日
次の日の昼休み。俺はいつものように中庭に来た。
理香はすでに来ており、弁当箱を二つ置いて、そわそわしている。
本当に弁当を作ってきてくれたのかと感動を覚えると同時に、申し訳なさも出てくる。
「作ってもらっちゃって悪いな」
「私が好きでやってることだから気にしないでください」
理香は笑ってそういうと、弁当の一つを俺に差し出した。
「あんまり上手くできなかったんですけど……」
恥ずかしそうに呟いた。
俺は弁当を受け取ると、理香の横に腰かけた。
昨日もらった弁当よりも少し見栄えが良くなっているような気がする。
「美味そうだ。ありがとな」
手を合わせて小さく「いただきます」と呟く。理香は俺が食べるのをじっと見つめていた。
「見てないでお前も食べろよ。時間なくなっちまうぞ」
見られ続けているのが恥ずかしくて、理香から顔をそらして食べ進めた。
「ごちそうさま」
食べ終わり、もう一度手を合わせてから理香に空になった弁当箱を返した。
「美味しかった」
理香は嬉しそうに顔を赤らめ「ありがとうございます」と呟いた。そして、笑顔で「明日も作ってきますね」と言って弁当箱を受け取った。
しばし無言の時間が流れる。
「明日、どこで集まろうか」
無言の時間が辛くなってきて、俺は明日のデートの話に切り替えることにした。こっちの話も恥ずかしくはあるのだが、無言よりはマシだ。
「よかったら、家まで迎えに行くけど」
「いいんですか?」
不安そうに理香は言う。
「別に気にしなくていいよ、そのくらい」
俺が笑いながら言うと、理香は微笑んで「じゃあ、家で待ってますね」と言った。
顔が熱くなるのを感じて、俺は理香から顔を背けた。
見計らったかのように予鈴の音が鳴り響き、俺たちは軽く手を振って各々の教室へと向かった。
「じゃあ、明日迎えに来るから」
「はい。待ってますね」
放課後、理香を家まで送り届け、俺は理香と繋いだ手を離した。理香は軽く俺に手を振った。
恥ずかしさを隠すように速足で理香の家の前から遠ざかった。離した手がやけに冷たく感じる。
こんな調子で楽しくデートなんてできるのだろうかと不安に思えてきた。
家に帰ると、健太が鼻歌を歌いながら料理をしている音が聞こえた。
「ただいま。上機嫌だな」
「おかえりー。そう? 別になんもないけどなぁ」
俺は自分の部屋に向かい、カバンをベッドに向かって投げて食卓に戻る。
「彼女さんとデートするんだって?」
「愛莉か……」
「楽しんできなよ? 明日は俺も彼女が来るからちょうど良かったよ」
だから上機嫌だったのか。健太の彼女が家に来ると俺のことを気遣ってか健太はあまり楽しそうに見えない。それで一度彼女と揉めているところを見たことがあった。
そのことを俺には話さないようにしているようだから、俺もあえてこのことは話題に出さないようにしている。
健太は料理を食卓に運ぶと、自分の席に座って食べ始めた。俺も健太に倣って椅子に座る。
「それにしても彼女さん、なんで兄ちゃんに告白したんだろうね」
「どういう意味だよ」
「ああ、ごめんごめん。悪い意味じゃなくって」
健太は笑いながら俺に謝った。
「だってにいちゃん、愛莉さんとずっと一緒にいるのに、付き合ってるとか思わなかったのかなって」
「それ、本人から聞かれたから付き合ってないって言ってあったんだよ」
「ふーん」
納得していない様子だったが、健太はそれ以上何か言うことはなく、黙々と晩御飯を食べた。
俺は晩御飯を済ませた後、部屋に戻って明日に備えて寝ようとしていた。
突如、携帯が鳴る。
「誰だ……?」
理香からのメールだった。内容を確認したところで、明日の行く時間を決めていないことを思い出す。
「やべ……」
とりあえず10時ごろに向かうことを伝え、俺はもう一度寝る体制に入る。
明日のことを考えてしまって、寝付けない。遠足前の小学生のような気分だ。
何かいいプランがあるわけでもないのに、デートというだけで浮かれているのかもしれない。
そんなことを考えている間に、俺は眠りについていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます