第九話 初っ端から焦った! 最初の試験(試練?)は毒味役!?
クソッ、あんまりよく眠れなかった。午前四時前あたりになると、咳き込んで起きちゃうのが何とも……いつもならそのあと八時くらいまで眠るんだけど、今日は五時に迎えに来る、て話だったしな。顔を洗って髪を整えて……着替えは寝間着と普段着の浴衣しかないから仕方ねーか。
部屋に洗面所とバスルーム、キッチンや冷蔵庫も備えつけられている辺り、マンションみたいな感じだよな。他の部屋がどうなってるか知らないけど、これから掃除とかベッドメイキングとか。出入りする機会沢山出てくるだろう。
洗面所で鏡を見る。うーん、改めて見ると……何だか痩せたなー。肌も青白いというか。まさか、「病弱キャラ」に立ち位置が決まった訳じゃねーだろうなぁ? 髪も肩の下あたりまで伸びて、様変わりしたというか。ほら、実際の話はともかく、昔の純文学系に出て来るような病弱な美少年みたいな。結核でサナトリウムにいる設定とか。そんなイメージに様変わりして来てるんだよな。自分で言うのもなんだけど。漆黒の長髪に着物がよく似合うというか。あのさー
……もしかしたら、王子はそういった病弱キャラがお好みなんだろうか……
ふと、そんな考えが頭を
よし! 以下の三原則を心に刻み込むぞ!
『「ムササビの五能」が異世界で無難に生き残る為の三原則』
①自惚れるな!
②調子に乗るな!
③モブは分をわきまえ謙虚であれ!
うん、後から追加事項が増えるかもだけど。取りあえずこれを肝に銘じよう。さーて、顔を洗って気分を切り変えよう。この洗顔フォーム、シンプルに白い無地だけど自家製なのかな? レモングラスの良い香りがする。洗い上がりツルツルしっとりだし。備え付けのスキンケアは、ローズウォーターにローズオイル、て感じか。趣味で小説を書いていると、こういった関心のある分野だけは無駄に知識が増えて行くんだよなぁ。色々調べるし、場合によっては体験教室にいったりしてさ。ヘヘッ。
こういう自家製のボディーシャンプーとかスキンケアとか。そういうのを作る担当なんかもいいなぁ。あ、庭師なんかもいいな。そういや庭師の話、前描いたっけな。
さて、寝言は寝てから言うとして、お次は髪を梳かそう。髪にはラベンダーウォーター……かな。これも良い香りだ。櫛も上等な感じだな。猪の毛とか? そういや、動物とかどんなものが居るんだろう? あと、買い物なんかはどうしてるのかな。娯楽施設とかはあるんだろうか……?
トントントン
あれ、ドアノック? リアン? もうそんな時間??? やべっ、色々妄想し過ぎたか!?
「はいっ!」
元気よく返事をして急いでドアの近くに立った。こんな少し走ったくらいで息が切れるなんて、随分と軟弱者になったもんだ。これじゃ使い物にならない、なんて匙を投げられないようにしないと。
「おはようございます。リアンです」
「おはようございます、どうぞ」
ガチャリと扉が開いた。さぁ、近侍見習い初日! 呼吸を整えるんだ! やってやるぜ! いつものようにビシッと黒スーツを着こなし、これ以上ないくらいに姿勢を正して入って来るリアン。あっ、今日も銀縁眼鏡の縁がキラーンと輝いた。 あれ? リアンの後に、ちょこちょことついて来る小柄な少年。深緑色のスーツを着こんで、オレンジ色のふわふわした髪をスーツと同じ色のバンダナで留め、小さな顔にパッチリとした萌黄色の瞳を持つ可愛らしい少年だ。小さなピンク色の唇の両脇に、笑うとエクボが出来る。そう、彼は俺を見てにっこりと微笑んだのだ。余裕の笑みで。俺もソツなく微笑み返して軽く頭を下げた。子供と言っても、ここでは俺の先輩なのだ。
リアンは軽く俺に頭を下げると、厳かに言った。
「近侍見習い初日。最初に、殿下にお仕えするの相応しいかどうか試験を行います。内容は簡単です。殿下にお出しする朝食を食べて頂きます。殿下にはあなたが食したものをお出しします、三時間後にね。あなたがもし毒を食らったのなら、およそ二時間後に体調に異変をきたすからです。異常がなければ殿下にお出し出来る訳です」
(……それって、つまり……)
どう返答して良いか迷う俺に変わるように、少年がにこやかにあとを引き継いだ。
「初めまして、アルフォンスと申します。僕のお役目は殿下の食事全ての御毒味役です。前の御毒味役は、毒に当たって、解毒作用が上手く行かなくてそのままお亡くなりになりました」
軽やかにサラリと話す少年。死にまつわる重大な内容の筈なのに、軽やかなピアノの音色みたいに話す。何となく、ショパンの子犬のワルツを思わせる話し方で。
「そうです。まずはそのお命を賭けて頂きます」
眼鏡のエッジに右人差し指をあてながら、通常通り淡々とリアンは告げた。
「……なるほど、つまり毒味をするのが、最初の
俄かに身近に感じる死への恐れで、カラカラに乾いちまった喉。少しだけ声がかすれたけど、落ち着いて内容を復唱した。正直、ビビってる。だけどこの場で断るという選択肢は無かった。王子を失望させたくなかったし、もしかしたら初日にこのまま死んだ方が、王子の記憶に綺麗なまま残るのではないか? そう思ったんだ。ちょっと、尋常な精神状態じゃなかったかもな。
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