第十話 毒味役、果たして俺の運命は……?
アルフォンスに自分の名前をしっかりと名乗って挨拶をした後、「これを着てください」とリアンに渡された服装は……白衣に白い帯、白い足袋に草履。俗に言う白装束、てやつだった。何だ何だ? 死に装束、てか? 丑の刻参りとか? いや……さすがに頭に三角の白い布は渡されなかったけどさ。
という事で、俺はボルドー色のカーペットが敷かれた長い廊下を、リアン、アルフォンス、続いて俺……という順番で歩いている。しかし、慣れない着物の上に足袋に草履は歩きにくいなぁ。その内慣れるんだろうか。……これが最初で最後かもしれないけどさ。
白い天井には等間隔に豪華なシャンデリアがついていて、煌々と辺りを照らし出している。左右に部屋がいくつもある。三百番代の部屋番号が振られていて、何だかホテルみたいだ。という事は、恐らく俺がいる部屋は三階なんだろうな。誰か住んでいるんだろうか。シーンと静まり返った廊下。ただ黙々と歩く俺たち。何か考えていないと、どこか異世界に入り込んでしまいそうでおかしくなりそうだ。……て、ここ自体が異世界なんだけどな。
死に行く場所に続く廊下……なんて事考えないようにしないと。毒味、問題なければそのまま王子に出す、て事はだ。きっと上等な素材で極上の朝食に違いない。洋食かな? 和食かな? それとも中華風か、或いは異世界料理かもしれない。小説に書く上で必要だったから、和食と洋食のテーブルマナー講座に参加した経験、役立つと良いなぁ。どうせなら上品に、されどたらふく食べて逝たいぞ!
少し歩くと、廊下が開けて一気に明るくなった。所謂、踊り場に出たんだな。上に続く階段と、下に続く階段に別れている。斜め上には窓が。あ! すげー! 薔薇と百合のステンドグラスが窓に! なんて感動している内に、リアンとアルフォンスはどんどん下に降りていった。慌ててついていく。おっと、走ったらつまづいてコケそうだ。気をつけないと。階段は行き来し易い高さに出来て居ると思う。あれだ、迎賓館にたいなイメージかな。踊り場がもう一つあって、そこには甲冑が飾られていた。ほら、漫画やアニメでよく見るじゃんん、まさにあんな感じ。夜中とか動き出しそうでこえーよ。で、また廊下と部屋が見えてきて。チラ見してみたところ、やっぱり二百番代の番号がふられてる。そこは二階なんだな、きっと。
一階に着いた。まだ階段が下に続いているから地かもあるんだろう。向かい側にはエレベーターらしき扉を発見! 左奥には明るく広々としたロビー? 玄関かな? やっぱり高級ホテルみたいだ。階段をおりて右手の廊下を歩いて行くと、左斜め前に真っ白なカーテンで仕切られた大きな部屋が見えてきた。ガチャガチャ何やら色んな音がする。
「その右手の白いカーテンで仕切られた場所が厨房です。朝食を召し上がって頂く場所はその少し先の右手の部屋です」
リアンはそう言って少し足をはやめた。ドクン、心臓が跳ねた。いよいよだ。
「こちらです、どうぞ」
そう言って、リアンは白い扉の部屋を開けた。リアンに軽く会釈をしたアルフォンスは、俺を案内するように先に立って歩く。中はツルツルに磨かれた木製の床に白い壁。廊下と同じシャンデリアが天上に一つ。三十畳くらいの部屋だった。白い丸テーブルがと五つの白い椅子が二十ほど並べられている。そうだ、披露宴の席みたいな印象だ。
「ここに座ってください」
とアルフォンスは入口に近いテーブルに着くと、その中の椅子の一つを引いた。「恐れ入ります」と軽く頭を下げて、その椅子に座る。まさか、後ろに椅子を引いたりは……されなかった。良かった。
「ここは使用人たちが食事をする場所です。今から担当の者が朝食を運んで参ります。全て揃ったら、自由に召し上がって頂きます」
静かに扉を閉めて、リアンは近づきながら説明した。
「俺、このまま座って食べるだけで大丈夫なんでしょうか? 運ぶのとか、お手伝いした方が……」
戸惑いながら聞いてみる。
「食事を作る者、給仕する者、運ぶ者、毒味をする者、と担当が決まっていますから。召し上がって頂くだけで大丈夫ですよ」
とリアンは微笑んだ。銀縁眼鏡の縁がギラッと光る。死へのカウントダウンが始まった気がした。
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