第八話 近侍見習い始動! よし、まずは「ムササビの五能」の底力(?)を発揮してやる!

 それからまた一週間ほど過ぎた。少しずつ起き上がって部屋の中を自由に歩く事を許されるようになった。シャンデリアはクリアクリスタルで出来ていて薔薇と巨峰の飾りでゴージャスになものだった。窓の外は広大で英国風だ。何種類もの薔薇の花が植えられているところからして、王子は薔薇好きなのかもしれない。そういや、薔薇の香りするしな。


 明け方咳込んだり、夕方から明け方にかけて少し熱が出たりする時もあるけど、昼間は嘘みたいに元気だし。やっぱり『異世界酔い』みたいなもんで、体が慣れてくればまた元の健康体に戻ると思うんだ。


 髪は伸びて仕方ないから、リアンに申し出て切ろうとしたら……


「髪、そのま伸ばした方が素敵だと思うな」


 と王子。俺の髪を撫でる。ゾクゾクッと快楽の予感に……て何考えてるんだよ、俺。


「綺麗な漆黒の髪だ、濡れているみたいに艶やかで、素敵だ。……こうして、両サイドの髪をたわませて、後ろで緩く一つに縛るとよく似合う……」


 と、王子直々に髪を結ってもらったり。大丈夫かな、体調崩してから髪はリアンにアロマ(?)水をつけて梳いて貰ってるだけの事が多いし、ベタついたり臭かったりしないかなぁ……なんてハラハラもしたけど。王子がそういうなら、という事で髪は切らないで伸ばす事にした。よし、普通に風呂に入れるようになったら髪に手入れに時間をかけよう。


 あとさ、王子曰く。俺には和服が似合うらしい。だから普段着や寝る時は浴衣で。仕事が始まったら着物だ最初の内は動き難いと思うから狩衣とか直垂ひたたれなんかを考えてるんだって。平安。鎌倉、室町時代あたりの貴族の服装かなぁ。まぁ、王子にお任せしようと思うんだ。


 そうそう、この世界の言語だけど、転生だけじゃなくて転移してくる人もいるから、あちらの世界の全ての言語はテレパシーで通じるし話せるんだって。一応、この世界の言語というのはあるみたいなんだけど、ここに来る事でみんな自動的に無意識にテレパシーで通じちまうという。だから例えば、俺が日本語を話してこちら側の人間がこちらの世界の言語で会話をしても、互いにテレパシーで通じる上に声もしっかりと自分の言語に変換されて伝わる、そういう事らしい。これ、ある意味「チート能力」て感じにカウントされるのかな? まぁ言葉の心配はしなくて済むから大丈夫そうだ。


 更に、服装や文化なんかもあちらの世界と共通している事も多いし、好んで取り入れるたりしている場合もあるんだとか。王子は日本の古典文学が好みらしいから、俺と話合いそうかな、なんて。へへっ。


 そして気になる事の一つに……。この世界に女性は存在するのか? もしかしてほら、オメガバースとかアルファとかさ、所謂BLの世界なのか……て事なんだけど。一応、男女半々くらいの割り合いらしい。そして同性・異性、自由恋愛らしい。まぁ、王族となるとそうそう自由に恋愛や結婚なんか出来ないだろうけどさ。サラリとしか教えられなかったんだけど、リアン曰く


「今に分かりますよ」


 と意味あり気ににっこりしてさ。なんか、気になるけど複雑そうだし、ゆっくり覚えればいいか。俺、趣味で小説を書いてはいたけど、百合やBLは手を出した事なかったなぁ。こんな事になるなら少しくらい書いておけば良かったかな。でも、この世界特有のものがあるかもしれないし。何せ優秀過ぎる弟と常に比較されて来たもんで、順応力は誰にも負けなねーもんな。きっと大丈夫さ! 多分、恐らく……うん、きっと。


 トントントン、お? 何だ? ドアをノック、誰だろう? 「はい、どうぞ」 と返事をしながら心の中では王子かな、なんて期待している俺。少しだけな。


「失礼します、リアンです」


 なんだ、眼鏡野郎リアン一人だけか。


「だいぶ体調も安定されて来たようですので。早速ですが明日から近侍見習いに入ります。明日朝五時にお迎えに参りますから、今日はよく休んでおくように!」


「あ、はい!」


 おっ! やった! やっと動き出すか!? よし、俺の「ムササビの五能」の底力、発揮してやるぜ! 呑み込みのはやさと順応力の高さは任せろ!


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