第七話 え? え? 王子!? ……まさか、もしかして俺、キャラ変わったんか?

 それからは病人みたいな生活が続いた。まさに上げ膳据え膳三食昼寝つき! て感じで。しかも、食事はリアンが俺の元の世界の好みを分析してかつ消化が良くて栄養価の高いものを、というので再現してくれて。

 どうやら魔法なんかも使えるらしいんだな。あと、精霊使いとか。この世界の全員が使える訳ではないらしいんだけど。このあたり、もっと詳しく聞かないとなぁ。……俺も、使えるのかなぁ。使いたいな。そしたら『ムササビの五能』から六能とかに……器用貧乏は変わらねーか。少し聞いてみたんだけどさ、今は体に障るとかで、静養して体力を回復させる事が先なんだとさ。


 こんなに持てなして貰っていいのかねぇ? リアンは医術の心得もあるらしいけど、まさに「マルチな能力者」って感じじゃね? 全部の能力がずば抜けて一流って……俺とは正反対じゃん。だけど、一つ困った事はさ……夕飯の後、リアンが体を拭いたり髪を梳いたりしてくれるんだけどさ。そんなの、俺が自分でやれば済む事なのに、リアンが全部やるって聞かないんだよ。王子の大切な人だから、ていう理由らしい。ほら、昔から西洋でも東洋でもさ、高貴な御方は風呂に入るのも着替えるのも侍女とか侍従にやって貰うじゃん。なんか、照れくさくて困るんだよなぁ。それに、こんなにして貰ってばかりいたらさ、怠け者のメタボ野郎になったら大変じゃないか!


 だから一人になった時こっそり起き出して、ストレッチをしたり腹筋背筋腕立て伏せスクワット……これは毎日続けるよにはしようかな、て。寝込んで一週間、運動をはじめてから……まだ三日目だけど。


 あとさ、何だろう? あっちの世界に居た時より明らかに痩せて色白になって来たような……。あれかな、陽の光を浴びてないし横になっている事が多いから、筋力が衰えたのかなぁ。それでさ、髪が伸びるのが異様に早いんだ。耳の辺りでシャギーを入れた短髪だったんだけど、もう肩あたりまで伸びて来ててさ。その癖、体毛や鼻毛や髭は薄くなってるんだよなぁ。


 まさか、まさか……俺さ、段々女体化したり……なんて無いよな!?! な?!


 あ! そうそう、時間経過はあっちの世界と変わら無いらしい。ただ、時空が異なる分時差みたいな感じにズレは生じるだろう、てさ。


 という事で、今俺は腹筋をしている際中だったりする。


 トントントン、とノックの音がする。あれ? 午後二時過ぎ……こんな時間に誰だろう。俺は慌ててベッドに潜り込み「はい!」 と返事をした。


「僕だよ、入るね」


 あ! 王子! こんな時間に来てくれるなんて! 自然に口元が綻ぶ。「どうぞ!」とすぐに返事をした。


「失礼します」


 リアンの冷酷な声と同時に王子が入ってきた。何だ、王子だけじゃないのか……。ガラガラとリアンは何か白いワゴン? を運んで来た。何だろう?


「そろそろお風呂に入りたいんじゃないかと思ってさ」


 王子は花の笑みで俺を見つける。見る者を和ませ、幸せにする笑顔……。


「お風呂、ですか。あ、はい」

「今から入浴して頂きます」


 リアンはいつもの調子で淡々と言った。


「え? 今、ここで?」


 驚くさ、でも当然の反応だろ? 


「ええ、こちらにバスタブをお持ちしました」


 リアンも当然のように答える。なんだかなぁ。そのワゴンみたいの、バスタブかぁ……。なんて思っている内に、リアンは手にしていたミントグリーンの布を床に敷き、その上にワゴンを置いて四隅にストッパーをかけた。蓋を開けると、薔薇の花とバニラが混じった香りが漂う。王子の香りだ……。ミルク色のお湯、赤と桃色、白の薔薇の花が湯船に浮いていた。


「さぁ、脱がしてあげるね。僕が体を洗ってあげる」


 王子は魅惑的に微笑むと、ゆっくりと布団をめくった。……え? ぬ、脱がし……? い、今何と???


「え? あの……」

「動かないで。そのままじっとして。まだ体が回復していないんだから」

「王子が特別にあなたをお風呂に入れてあげたい、と強くご希望なされたのです。有り難くお受けしなさい」


 戸惑う俺に、手慣れた手つきで浴衣をスルスルと脱がす王子。淡々と説明するリアン。もう頭がパニックだ!!! 


「惟光は色が白くて華奢だねぇ……儚げで守ってあげたくなるよ……」


 王子はそう俺に囁き、右手で俺の首筋を撫でた。王子の甘い吐息、触れられた首筋にゾクゾクゾクッと全身が震えた。……ていうか儚げ? 俺、もしかしてキャラ変わったんか? 


「綺麗だ……」


 王子は囁きながら更に左手を俺の左胸に這わせる。


「ふっ……」


 自然に声が出ちまう。これ、これってまさか……


「さ、王子。あまり裸にする時間が長いとまた熱を出されても困ります故、そろそろ湯船に」


 この時のリアンの冷静な声は、俺にとっては救いの神に感じた。正直ホッとした。もしあのままだったら、俺の理性が吹き飛んでどうにかなっちゃいそうだったから。


「うん、そうだね。ごめんごめん」


 王子はあっさりと引き下がって俺を抱き起こした。まだ、胸がドキドキしている……。

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