#2 ポストに詰まった彼岸花
家のある土地の周囲は田んぼだらけで、外に出ると花粉に鼻を汚染されそうになる。田舎の風景を都会の人は理想的に語るが、実際は無い物ねだりだろう。小さい頃に近くの川で見た蛍はいつの間にか姿を消し、所々に点在する野焼きの跡には明らかにプラスチックゴミが混ざっている。洗濯物に付いた煙臭さは、都会だと普通に隣人トラブルの原因になると思う。
そんな田舎の風景だと、秋に彼岸花を見ることは多くある。田んぼの傍のあぜ道に群生して咲く朱はよく目立ち、昔の人が死と関連付けたのもなんとなくわかる。有毒なのも含めて、何か不吉な香りがする花だ。
それでも、当時の僕は貴重なプレゼントだと思っていた。小学校低学年の秋、まだ何もわかっていなかった頃だ。
何気なくポストを覗いた母親が、短く僕の名前を呼ぶ。チャイルドシートに座っていた僕は、ワゴン車のの運転席に乗り込むまでの母親を目で追った。
若干戦慄する母親から話を聞けば、ポストの中には大量に彼岸花が詰まっていたらしい。和ホラーと見紛うほどに、手折られた茎が。
原因は、幼馴染みだった。僕の家の裏手に住む彼女が彼岸花を摘み、ポストにギチギチに詰め込んだのだ。
翌日僕が問い詰めると、彼女はあっけらかんと笑う。理由は、とてもシンプルだったのだ。
「綺麗だったから、見てほしくて!」
いくら綺麗でも、詰め込まれてると怖いんだよ。今の僕ならそうツッコミを入れるだろう。
それでも、当時の僕にとっては貴重なプレゼントだった。彼女が、僕にとっての初恋の相手だからだ。
初めて貰ったプレゼントは記憶の中に残ったままで、家族の間では彼岸花のシーズンになると必ず語り草になる。だから、今年も思い出してしまった。
彼岸花の花言葉には、「思うはあなた一人」という意味もあるらしい。あの頃の僕には似合いすぎて、今の僕には似合わない。根に含まれる毒のように、時折僕の心に干渉する思いだ。
数年後の秋、僕は二度目の告白をするのだが、それはまた別の話。
思い出話に必要なノスタルジー 狐 @fox_0829
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