第13話 試練
十年前
「え、ぇ?」
私は、何故か野道に寝ていた。そろそろ起きる時間かとスマホを手で探すと何か砂利のようなものに触れて私はゆっくりと目を開けたらそこは、だだっ広い大地。そしてそこにぽつんと横たわる私。脳内をクエスチョンマークだけが占める。
「ど、どうしよ……」
私は立ち上がり、どちらの道に進めばいいかキョロキョロと辺りを見渡し焦る。その時、森の方からガサガサと音がなり、もしかして人かもと、期待をしてそこに視線を向ける。そこには……
「ニンゲンッ!ニンゲンッ!」
「―っ⁉」
なんだ……?なんだ⁉あれは⁉あれはよくRPGゲームとか見る、ゴブリンとかいうやつに凄い似ている⁉
私は完全に自分を殺す気であろうそのゴブリン達に恐怖して、逃げようと走り出すが足がすくんで動かない。獲物を見つけて嬉しそうに走って私までたどり着いたゴブリンは、武器を振りかざした。
「(こんな訳の分からないことで、人生が終わるなんて……)」
私は涙を流しながらせめてもの抵抗に顔を腕で守るように前に出した。
ドガッ
……音がして、私はゆっくりと目を開いた。
そこにはゴブリンを蹴り飛ばす、青いマントを身にまとった鎧の男が。男は腰に下がった剣を抜くとそれで残りのゴブリンを切り倒して、最後に剣に着いた血をブンッと振り払う。
「ぁ…あ……」
「おい、大丈夫か嬢ちゃん」
男が振り向き、私に駆け寄った。私は誰とも知らないその人に縋り声をあげて泣いた。
「ぁっ、ううっ、ごわかっだぁ……!」
「こんな夜中に娘が一人出歩くな、危ないだろ?」
「ゔぅっ、ぐずっ…はいぃ……」
「……にしても、なんだその服?」
私を珍しそうにまじまじと見る男に、私は呼吸を整えて事情を説明する。寝ていて覚ましたら知らないところにいたなんて事を……男は信じてくれた。
「お前、行く場所は?」
「ないです……」
こんな鎧なんか着てる人がいる世界などに私の行く当てなんかない。ここは、アイテリアという世界らしい。完全にファンタジーだ。
「ん〜……、なぁ」
「何ですか……?」
「俺と一緒に来るか?」
そう言いニカッと笑った男。
それが師匠、ウェンビルとの出会いだった。
――
私が落ち着くと近くの宿屋に連れていってもらってそこで少し話そうと二人で椅子に座る。
「そういや名前聞いてなかったな。俺はウェンビル、旅人だ。お前は?」
「名前…ですか?」
「あるだろ、名前」
私は思い出そうとする。というか思い出そうとしている時点でおかしい。自分の普通は名前など簡単に出てくるものだ。私がどんな人間だったか、趣味、特技、家族、そいうものは思い出せる。だが、名前だけは出てこない。
ん〜?と考える姿にウェンビルさんは察したのか、ならと続けた。
「今決めよう!名前!!」
「ぇ」
「俺がかっこいいの付けてやるからな〜」
そう言い今度は彼がうんうんと悩み出す。私はそれより元の世界に帰る方法を探したいのだがと思うが、彼の真剣な表情にそれが言い出せなかった。というか女の子にかっこいいのはやめてほしい。
「ん〜、よし!決めた!」
「は、はい……」
「お前は今日から、レナータだ!」
「レナータ……」
案外、可愛い名前を貰った。私はそれを何度か繰り返し口に出すと、何だか自分の名前がずっとそれだったかのように感じた。
「どうだ?」
「はい、凄くいいです」
「そうかそうか」
やっぱり俺は天才だなと自画自賛する彼に私も嬉しく思うと、先程寝ていたはずなのにうとうとと眠気が襲ってくる。
私は頑張って起きようとするが、半目の私を見てウェンビルさんは笑うともう寝ろとベッドに寝かせた。
「明日は剣の特訓だ、しっかり寝ろよ!」
「……ぇ?」
剣……?私が疑問に思い体を起こして彼に問おうとした時にはもう、彼は隣のベッドで大きなイビキをかきながら眠っていた。寝るの早いなと私は思いながら、それは明日聞けばいいかと自分も眠りについた。
――
「もっとこう、ズバッと、バシッとだ!」
「こ、こうですか?」
「違う違う!こうっ!」
生きるためには剣を学べ!!と朝早くから叩き起されて、森の開けた場所へ連れていかれたと思うと、長めで頑丈そうな木の棒を持たされて剣術を教えられる。しかも彼は人に教えるのが苦手なタイプな人で、さっきからズバッとかビュンッとか抽象的な言葉でしか説明できていない。
「はぁ…はぁ……」
「よし、休憩だ!」
「はいぃ……」
傍にあった川の水を飲み、私は喉を潤した。そして汗をふぅっと拭うと彼はすぐに「休憩終了!」と言い私を連れ戻す。
休憩とはなんだったのかと思いながら、私はまた木の棒を握る。
「ん〜…お前は一撃一撃が軽いんだよなぁ」
「それはやはり初心者ですから……」
「でも俺は分かるぞ、お前には才能がある!」
鍛錬一日目でそんな事が分かるのかと私は疑問に思ったが、才能があると言われたらやはり嬉しいものだ。私は少し気張って棒を教えられた通りに振ってみる。
「筋はいいと思うんだがなぁ……」
「わ、私頑張ってみます!」
「おお、その意気だ!」
私が一生懸命素振りをすると、彼は嬉しそうに自分も良さそうな木の棒を探すと私の横に並び同じく素振りをする。私は元の世界に戻ったら剣道もしてみようかなと思いながら上の空でブンブンと木の棒を振るとウェンビルさんに叱られた。
――
「よし、こいっ!」
「はぁっ!」
ガツッカツッと木の棒がぶつかる音が響く。鍛錬を初めて数ヶ月、私はやっとウェンビルさんに実戦の練習をしようと言われてウェンビルさんに向かって教わった剣術をぶつける。私の精一杯の一撃を、彼は軽く払い私の木の棒を飛ばした。
カランと音がして、私は気が抜けてドサッと座り込む。
「も、無理ですよぉ……」
「しょうがないなぁ、ちょっと休憩な!」
そう言って私の前に座って胡座をかくと、彼は私をみてニヤニヤと笑っている。
「な、何ですか?」
「いや、俺は弟子ができるのが初めてでなぁ」
「弟子?誰がですか?」
「お前に決まってるだろ!」
まさか、俺は師匠だと思われていなかったのか…と落ち込むウェンビルさん。まさか私達が師弟関係になっているなんて思っていなかったのだ。私は慌てて声をかける。
「じゃ、じゃあウェンビルさんのこと、師匠って呼んでもいいですか?」
「師匠……師匠!悪くない!!」
ガハハッと笑うと彼、いや、師匠に私は機嫌直るの早い人で良かったと安心すると、また木の棒を握った。
「では師匠、ご教授お願いします!」
「よし、やるか!」
師匠の変わらぬ笑顔に、私も笑った。
――
「はっ!」
「くっ、させん!」
「も、らったぁっ!!」
私のフェイクの攻撃を防ごうとした師匠に本命の一撃を叩き込む。初めて実践訓練をした時と同じようにカランと木の棒が落ちる音が聞こえた。だが、今回は立場が逆だ。
「はぁ……やっと一本だな!」
「やったぁ!」
私は喜んでぴょんぴょん跳ね上がる。すると師匠が自分の木の棒を私に渡すと、今度からはこれなと言って笑った。私は理解ができず何がですかと問う。
「お前の攻撃は一撃一撃が軽い!だが、二刀流にすればそれがカバー出来る、手数を増やすんだ!」
「二刀流……ですか?」
「ああ、お前がある程度剣術を身につけたら言おうと思っていたんだ」
私はブンブンと二本の棒を振るうが、本当に出来るのか心配だった。それが顔に出ていたのか、師匠はニカッと笑って私の背をバシンと叩く。
「いったぁ……」
「俺が教えるんだ、心配するな!」
「が、頑張ってみます!」
私は二刀流とかかっこいいなと上の空で素振りをすると、また師匠に怒られた。
――
二年後
カキンッと金属のぶつかる音が響き、私は師匠に斬り掛かる。それを受け止めて押し返し、剣を素早く突き出と、師匠の首ギリギリでそれを止めた。
「お、おぉ…お前成長早いな……」
「はぁ…はぁ……、緊張したぁ……」
毎日、毎日剣術の特訓をして、ついに今日、真剣での訓練で師匠に勝った。長かった…剣を教わってもう二年だろうか。私はある程度の魔物なら倒せるぐらいに成長していた。
「やっぱりお前には才能があるって言っただろ?」
「あの時はデタラメ言ってると思ってた」
「失礼だな!」
今日はここで野営するかと焚き火を炊き、丸太に座る。
ぼんやりと焚き火を見ていると、師匠は急にすまんなと謝った。
「何が?」
「お前に剣術を教えるので精一杯で、元の世界に帰る方法は何一つ分かってない」
「そうだけど……これから二人で旅して探せばいいじゃん!」
それもいいなとニカッと笑って私の頭を乱暴に撫でる師匠に、私は子供じゃないんだからと手をペシッと叩いた。元の世界かと、家族の事を思い出している時ふと師匠の過去が気になった。
「ねぇ、師匠ってなんで旅人になったの?」
「……」
私の問いに、師匠は寂しそうに笑った。辛気臭い話だぞと師匠は言ったが、私は少し考えたあと大丈夫と頷いた。
何があっても、師匠を慕う気持ちは変わらない。
「俺は…昔、死刑執行人だったんだ」
「死刑執行人って……あの、首を落とす人?」
「ああ」
今の師匠とはかけ離れたイメージの職に、私は驚く。でも何人もの首を切るなんてやっぱり心が病んじゃうのかなと心配に思う。
「俺には嫁さんがいたんだがな、罪を犯して死刑囚になっちまったんだ」
「それって……」
「ああ、俺が嫁の首を切り落とした。それからその仕事に嫌気がさしてな。辞めて旅人になったわけだ」
いつもとは違って真剣で、そして悲しそうな顔をする師匠に、私は涙が零れた。それを見て師匠を慌てているようだ。
「な、なんでお前が泣いてんだ!」
「だって…そんなの、かな、しい……」
「……俺なんかのために泣いてくれて、ありがとな」
師匠はそう言うと私の涙を乱暴に拭い、そうだと言ってポケットをあさぐる。そこから可愛い柄のペンが出てきて、それを私に見せるようにくるりと回した。
「じゃーん!フェイス……なんたらが出来るやつだ!」
「フェイスペイント?」
「そうだ!」
そう言って私の右頬に何かを描く師匠。私は顔を動かさないようにじっとしていると、描いてた筆が顔から離れる。何か変な落書きをされていないといいがと思い、師匠に何を書いたのと聞いた。
「雫の形だ」
「しずく」
「そうだ!涙は大事な時までとっとけ、そのまじないみたいなもんだ!」
「そっかぁ……ありがと、嬉しいっ!」
私が笑うと、師匠もいつもの笑顔で笑い返してくれた。
――
三年後
師匠と出会って五年がたった。私達は私が元の世界に帰るための方法を探しながら、旅を続けている。
「あ〜!ここもだめだったか!」
「もうっ、異世界に飛ぶ方法とか言って、デマじゃん!」
帰るすべはなかなか見つからない、私達は暗くなるまで噂で聞いた色々な所を周りどれも全滅でしょぼくれる。やはりそう簡単には行かないらしい。
「はぁ、今日はもう休むか。ちょうど近くに宿屋がある」
「そーだね、もう疲れたよぉ……」
私達は部屋を借りるとベッドに勢いよく座った。お互い荷物の整理をしていると、師匠が何かを隠しながら見ているのに気づく。私は立ち上がり、それを覗き込んだ。
「何それ?」
「お、おお!なんでもねぇよ⁉」
師匠は急いでそれをポケットに雑に入れた。そしてもう寝ろと私をベッドにグイグイ押して寝かすと、自分もベッドに寝っ転がりまたいつもの様にイビキをかきながら眠っている。
「ほんと師匠眠りにつくのはやいなぁ……」
そして私はベッドに寝っ転がりながら考えた。先程師匠が見ていたのは何かの用紙。それにはいくつかの素材の名前が書かれていた。
「魔眼を持つドラゴンの鱗……」
そこに書かれていた物の一つを口に出す。師匠は前に装備を新調したいと言っていた。メモのいくつかの素材には横線が引かれていたが、それにはまだ線が引かれていなかった。まだ手に入ってないのだろう。武具の新調にはお金がかかるので、師匠は私に遠慮して言い出せない様だ。
でも確か、魔眼を持つドリューというドラゴンが巣にしている洞窟があると色々な噂を聞いて回っている最中に耳にしたのを思い出す。
「確かにこの近くだったよね……」
私はゆっくりと身支度をして、宿屋から飛び出た。私が一人でドラゴンを倒して、その素材を持って帰れば師匠は絶対に喜んでくれる。日頃のお返しが出来ると、私は早足でその洞窟に向かった―
――
「はぁっ...はぁっ...」
『ギャオオォオオッ!!』
魔眼を持つドラゴン、ドリューは予想より強かった。私の双剣は硬い鱗に跳ね返されて、鋭い爪は私の体を引き裂く。死の恐怖。私は構えた剣の切っ先をカタカタと震わせる。
「はっ!」
『ガオオオォアアアアッ!!』
ドリューの尾がビュッと音を立てて私に激突する。その衝撃で私は硬い岩の壁にぶつかり、口から血を吐いた。痛い、痛い……。そして出口に視線を一瞬だけ向けると、撤退のシュミレーションをする。
この洞窟の出入り口は狭い。ドリューの大きな体より私の小さな体の方が早く抜けられるだろう。
覚悟を決めて、持っていた毒のポーションをドリューの目にぶつけると、動きの止まった隙に私は出口に走り出す。
その時、出口に人影が見えた。
「レナータ!」
「師匠⁉」
「話はあとだ!早くこっちに!」
私は驚いて足を止めてしまう。私の攻撃を受けて暴れてたドリューは、目を光らせその魔眼を
──師匠に向けた。
師匠が手に持っていた剣を構える。その体は抵抗しているのか、震えていた。師匠の赤くなった目が捉えているのは、私だ。明らかにいつもとは違う様子に胸騒ぎがした。
「し、師匠?」
「……」
師匠は何も言わずに私に斬り掛かる。それを双剣で受け止めて、師匠を何度も呼ぶをが、やはり返事は帰ってこなかった。ドリューの魔眼とは、人を操るものなのか。私がそう理解したとき、師匠の剣が私の頬を裂く。
「ねぇ、やめて!師匠!」
「……」
師匠の本気の剣が、私をどんどん追い詰めていく。ドリューは私達を見て楽しんでいるのか、一切攻撃してこない。それに怒りを感じて斬り掛かりたくなるが、師匠に背を向けるのは危険すぎる。
出口は師匠が壁になっていて出られないし、それには師匠を一人残して逃げるのも嫌だった。
「師匠!元に戻って!お願いっ!」
「ぁ……」
私の呼びかけに少し反応を示したのを見て、私は師匠の斬撃を受け止めながらまた叫ぶ。正気に戻るかもしれないと祈りながらただただ呼びかけた。
「まだ一緒に旅をしようよ!」
「……」
「私、まだ未熟者だから!師匠がいないと──」
その時、師匠の振り上げた剣が、止まった。
「し、師匠……?」
「レ、ナータ……」
師匠は自我が戻ったのか、元の青い瞳で私を見ている。私は安心して、早く逃げようと言うが師匠は動かない。ドリューは相変わらず私達を観察していて動く様子は無いので、今がチャンスだ。
「は、早く!」
「もぅ、時間が無い……」
どういうことだと思っていると師匠の目が赤くなったり青くなったりするのを見て、私は師匠が必死に魔眼の支配に抵抗しているのが分かる。
「俺を…殺せ……」
「む、無理だよ!」
「いいから、早く……!」
殺す、殺す?無理だ、無理だ無理だ!
私にはそんなこと出来ない!!
師匠と過ごした今までの時間がフラッシュバックしてきて、私は嫌だと叫び頭を横に振る。
「もう…持たないっ!!」
「でもっ!!」
無理だ
「俺が……また、自我を失う前にっ!!」
出来ない!
「殺せ!!」
嫌だ!!
「俺に…二度も家族を殺させないでくれ……頼む……」
涙を流し、最後に私に笑った師匠に
「あ……ああぁああアぁっあアっっ!!」
強く、剣を突き刺した──
――
それからどうしたかはよく覚えていない、気がついたら、森の中にぽつんと立ってた。
夜だったはずの空には太陽が登り始めていて、私は急いでさっきの洞窟に戻る。
息を潜めて洞窟に入ると、そこには目を閉じ眠るドリューの姿しかなく……師匠の遺体はなかった。
私は洞窟を離れると、途方に暮れた。
そして、どんどん涙が溢れてくる。
大声をあげて泣き叫ぶ私の傍には、初めてあった時のように慰めてくれる師匠はいない。
その現実だけが、私の胸を締め付けた。
――
現在 スフィーダの塔
試練の部屋到着後
side:アンディート
「ど、どうなってるの⁉」
「知るか!」
レナータがドラゴンに怯えたかと、その光った目を見て彼女が斬りかかってきたのだ。俺はその一撃を避けて、レナータの目を見た。
「目が赤い!恐らくだが操られてる!」
「そんな!」
彼女の猛撃に俺達はただ避けることしか出来ていなかった。一撃でも当たれば致命傷を負うのではないかと言うほどの威力に、受け取めるのも出来ずにいる。
そして次に気がかりなのが後ろにいるドラゴンだ。
俺はムームアと後退して、作戦を練る。
「レナータとドラゴン、同時に相手するのは無理だ」
「なら──」
「俺はレナータを食い止めるから、お前はドラゴンを倒せ」
ムームアは文句を言いかけた口をキュッと閉じると、覚悟を決めたような顔をして頷いた。俺は改めて薙刀を握ると、レナータにそれを振りかざす。
「おい、聞いてるかバカ女王!」
「……」
「簡単に支配されやが、って!」
「……」
銃声が聞こえる。どうやらムームアも戦い始めたようだ。俺も負けじとレナータに食いかかる。
彼女は強い。ただの力勝負なら俺は負けるだろう。だが……
「〈身体能力強化〉!」
「……」
自分の力が増すのを感じながら、俺は彼女の様子を伺う。やはり……
「魔法もアビリタも使えねぇみたいだな」
「……」
彼女は何も言わない。俺は、殺す気でまた薙刀を振るう。殺す気でいかなくては、俺が殺される。短期戦で終わらせたいと、俺は彼女の腕を狙い切りつけようとするが彼女の剣で簡単に防がれる。
「〈ブレイズ・シュティーク〉〈ブレイズ・バースト〉!!」
彼女の目の前に、強化された炎の凝縮したものが爆発して、劫火が彼女を焼く。やはり、魔法やアビリタ防ぐことはしない。
「このままじゃ死ぬぞ!」
「……が、があぁあっ!!」
「──っ!」
彼女が叫び出すと、角と、翼、尾が出てきて本来の竜人の形態になる。ついに来たかと思っていると、変態はそれだけでは終わらなかった。
「おいおい、勘弁してくれ……」
肌が、青い鱗に覆われて顔は竜に近いものとなった。あれが竜人の本気なのだろう。俺は自分の習得している防御系のアビリタを全て使用して、彼女に立ち向かった。
「あぁああぁああっ!」
「正気に、戻れ!」
俺の薙刀を受け止めると、それを押し返して俺の腹部に彼女の剣がかする。それだけで血がどくどくと流れて俺の服を赤く染めた。その痛みに耐えながら、レナータの追撃を受け止める。
「く、そっ!」
「あぁあぁああっ!」
「〈フレイム・ノヴァ〉!」
彼女に炎魔法が当たる、が、彼女は止まらない。痛覚が鈍っているのか、普通なら焼かれた激痛で隙が出来るはずだが、彼女ただ叫ぶだけだった。その痛々しい姿に僅かに顔を顰め、薙刀を強く握り直す。
「止まっ、て、くれっ!」
「があぁぁああっ!!」
薙刀で彼女の剣を弾きながら、魔法で攻撃する。暴れ回るレナータは一切の防御無しで被弾したのにも関わらず、俺に斬撃をあびせた。俺は自分の体を魔力の渦で覆い、悪魔の姿に形態変化する。また腹の傷から血が溢れるが、そんなこと構ったことか。
「あの、時と似てるなっ!」
「ぁあぁああっ!」
「イデアーレで、戦ったあの時っ!」
「がぁぁあっあぁっ!」
彼女の猛撃は止まらない。どれだけ呼びかけても、俺の声は届かない。至近距離で魔法を放とうと前に出した手に刃が迫り、急いで引っ込める。今のは一瞬判断を間違えれば腕が無くなっていただろう。
「お前が何抱えてるか知らねぇが……」
「ぐぁあぁああぁあっ!」
「そんな簡単に、乗っ取られてるんじゃねぇよっ!!」
「ああぁあぁぁああっ!!」
レナータの過去なんて知らない。先程のドラゴン見た時の怯え方を見ると何かトラウマがあるのだろう。彼女を救いたいという気持ちを、彼女にぶつける。しかし、思いのこもった俺の斬撃は尽く弾かれて、彼女には届かない。
「頼む、正気に戻ってくれっ!」
「ああぁああぁあぁあっ!」
「お前を殺したくないっ!!」
「ああぁあ──」
一瞬、彼女の動きが止まる。俺は何故と思ったが、この一瞬を逃すともう勝ち目は無いかもしれない。彼女の剣を薙刀で弾き飛ばすと、俺は彼女に刃を突き刺した──
――
side:ムームア
絶叫が聞こえて、ボクはそこ視線を向ける。アンディートがレナータに薙刀を突き立てていて、殺してないよねと心配になる。自分の戦いに集中していたせいで分からなかったが、レナータもアンディートも見たことの無い姿になって戦っていた。
「もうっ、人間なのボクだけじゃん!」
あっち側の戦闘も気になるが、今は自分の戦いに集中しようと相手を捉える。ドラゴンは闇でできたブレスをガアッとボクに向かって放つ。
「〈ヴォラーレ〉っ!!」
それを飛行魔法で素早く回避すると、お返しと言わんばかりにボクの魔力の弾丸を打ち込む。ハンドガンを打ちながら、空間から出したアサルトライフルで弾丸の雨をドラゴンに浴びせた。
『ガアアアァァアアッッ!』
「レナータをあんなにしちゃって、ボク怒ってるんだから!」
ドラゴンがボッと闇でできた球体をボクに放つが、それを横に飛んでかわす。服の端が少し消し飛んだのを見て、今のは不味かったなと焦る。それに気を取られて、ドラゴンが目前まで来ているのに気づかなかった。
『ゴァアアァアアアッッ!』
「──っ!」
鋭い爪がボクの体を切り裂こうと迫り、ボクは後退するが背中が壁にぶつかった。骨が軋む音がして苦痛に顔を歪める。
『ガァアアァァアッ!!』
「──くっ!いっ、たぁ……!!」
ボクの肉をその爪が裂き血が吹き出る。首にかかっていた懐中時計のチェーンが切れて何処かへ吹っ飛ぶのを見て、ボクは心の中でお兄様に謝った。でも今のボクは前とは違う。
「お前が死ねばっ!」
『グガァアアァアッ!』
「レナータはいつものレナータに戻る!」
『ガアァアアァァアッッ!』
ボクがこいつを倒せば支配の解除ができる。この戦いは、ボクの手にかかっていた。自分を変えてくれた彼女を救いたい。その思いを込めて、ドラゴンに向かってマシンガンを三つ出すと手で指示を出す。
「〈トリガーハッピー〉ッ!」
ドガガガッと音を鳴らしてめいいっぱいの攻撃をドラゴンに叩き込む。だが、その硬い鱗に弾丸は弾き返されて効いていない。ドラゴンがニヤリと笑うとその尾を素早く振り、ボクを再び壁に叩きつける。
「ぐぁっ!く……このっ!」
口の端から血が流れるがそれ拭い、また立ち向かう。ボクが殺されれば、みんな死んでしまう。それだけは絶対にさせない!!
『ガァアァアアアッ!』
「〈ホーリー・バレット〉!」
『グガァアアァアッッ⁉』
光属性の弾丸を放つと、ドラゴンが先程とは違う反応した。硬い鱗に少し傷がついたように見える。だが、今の技は威力がそこまで高くない。ボクは何決め手になるものはないかと焦り考えるが、ドラゴンの高く上がった足が僕を踏み潰した。
「があぁああぁっ!!」
ゲボッと口から血を吐き、ニタニタと悪うドラゴンを見上げる。どんどん圧がかかり、体中の骨がバキボキと折れる音がしながら、内臓が破裂して口からゴポゴポと血を流すボクは死に向かっていく──
「のは、幻のボクだけどね」
そう言いドラゴンの背後に回っていたボクはドラゴンの後頭部に大砲を当てて、さっきのドラゴンがやったようにニヤッと笑ってとっておきの一撃を至近距離で放つ。
「〈クレイジー・キャノン〉ッ!!」
ドガンッと起きな音が鳴り、ドラゴンの頭が吹き飛ぶ。するとドラゴンの体がズズッと闇の塊になり散っていった。
ボクは勝利した事に飛び上がって喜び、急いでレナータを見ると彼女の動きは止まっていて、人間の姿に戻るとそのままふらふらと倒れ込んだ。
「アンディート!大丈夫⁉」
「正直、死にそうだ……」
アンディートはいつの間にかいつもの姿に戻っていた。
ははっと笑う彼に駆け寄り体を支える、が、ボクも体力の限界が来ていたのかそのまま二人で倒れ込んだ。もう、動けそうにない。
「ボクら、死ぬのかなぁ……」
「アホか、ちょっと休むだけだ……」
そう言って目を伏せたアンディートは気を失っているようだった。ボクも視界が白くなり、気持ち悪さを感じながら意識を手放した──
――
「ぁ、ぁあ…な、んで……」
倒れ込むアンディートとムームアを見て、自分の双剣を見る。自分がやったのか?二人を、この手で殺したのか……?
思い出せない……!
また……大切な人を殺した⁉
「ぁ、あぁ、やっ……いゃああぁあっ!!」
私は剣を地面に落として、膝をつき泣き叫んだ。取り返しがつかないことをしてしまった。傍にはあったアンディートの手を掴むと、何度も謝りながら二人に懺悔する。どんどん意識が遠ざかる。恐く、発狂だ。だが、二人を殺した私なんて──
「またか……お前」
「──っ!」
握っていたアンディートの手が私の手を握り返して、さっきまで伏せられていた目は私を見ている。死んでない……?
「は〜い、ボクも生きてる〜」
体を仰向けにして手をあげて振ると、ムームアはゆっくりと体を起こした。
「お前また発狂しようとしてたな?いつもの早とちりしやがって……」
「はや…とちり……」
「運命に選ばれし王の遺体は残らねぇ」
「ぁ」
私はそうだったと思い出して、気が抜けて倒れ込んだ。二人とも死んでいなかった。安心したが、勝手に死んだと思って騒いでいた自分が恥ずかしくなる。
「よ、よかったぁ……」
「よくねぇよ、みんなボロボロだろ」
「もーボク動きたくないよぉ〜」
その時、背後でガガッと音がしてそこに視線を向けると、ドリューが塞いでいた扉が開き次の部屋への通路ができた。私達は頭を勢いよく上げ顔を見合わせて急いで立ち上がる。さっきのが試練だとするなら……
「やっとトリムルティ宝に……」
「この次も試練だったりしてね」
「不吉なこと言うなよ」
私達は若干早足でその扉を抜けて、次の部屋へ入る。
その部屋は如何にもとでも言うような、金銀財宝が無造作に散らばった宝物庫だった。部屋自体は城にある謁見の間に似ている。
しかし、その宝の一部は一本道を作るように並んでいる。その道を視線で辿りながらその先を見ると、一つの椅子があり誰かが座っていた。
それは真っ白な少女だった。目を瞑り、椅子に寄りかかるように座っているその少女はピクリとも動かない。
「あれが…『我』とか言ってた人かな?」
「でも寝てるね」
「ん、あいつなんか持ってんな」
少しだけ近づいて見ると、彼女は小さめの宝箱を膝に乗せていた。本には『トリムルティの宝を抱きながら』と記述があったので、恐らくあそこに入っているのが私達が求める宝だろう。
「どうする、あの子の所まで行ってそぉっと宝箱奪っちゃう?」
「そんなこと出来ないでしょ……起きるよ、きっと」
「だが行動しねぇと何も始まんねぇよ、とりあえずあいつの側まで行くぞ」
アンディートがスタスタと歩き出したので、私達も続く。そして彼女まで五メートルというところぐらいで、彼女の目がゆっくりと開いた。私は神器を取り出し、警戒態勢をとる。
「お主らが試練を乗り越えた強者達か……?」
少女の思ったより可愛らしい声とアンバランスな喋り方に戸惑いつつ、二人に視線を見向けられて私達が代表して答える。
「私達は運命に選ばれし王、試練は乗り越えました」
「なるほど。ならば我と戦うに相応しいであろう」
そう言って椅子から立ち上がり膝に乗っていた宝箱を椅子に置くと、彼女は私達をじっと見た。全てを見透かすような赤い瞳に私は緊張気味に様子を伺う。
「長かったぞ……我が眠りにつき千年以上が立ったが、ここ迄たどり着いたのはお主らだけだ」
「それはとても光栄です。念のために聞きますけど、戦わずにその宝をいただくことは……出来ませんか?」
「愚か、そのような都合のいいことがあるわけがなかろう」
ですよねーと思いながら、私は剣を構えた。あちらはなんの構もせず、武器も見当たらない。魔術師なのだろうか。
「その前に、我の話を―って、もうこの喋り方面倒臭い!」
「⁉」
急に彼女が地団駄を踏んだかと思うと、ため息を着きながら私達を睨む。そしてビシッと私達に指を指したかと思うと大きなため息をついた。
「あなた達!遅いのよ!」
「ぇ」
「私はここで、千年!千年以上も待ってるの!肩がこるわ!」
「は、はぁ……」
急な態度の変わりように、私達はぽかんとしながら彼女の話を聞いた。先程までの喋り方はどうやら単にそれっぽいからやっていただけらしい。
「あなた達、運命に選ばれし王になって何年経ったの⁉」
「まだ一年も経ってないです」
「はぁ⁉ひよっこじゃない!全く!」
ひよっこ……、まあ確かにそうだが外見が年下の子にそう言われると少々恥ずかしいものだ。
「貴方は、トリムルティの宝を守る守護者なんですか?」
「ばっかねぇ!私は、神よ。この世界の」
「神……?」
何言ってんだと思うが、彼女の頭部にある見たことのない輪っかや背から生えているこれまた見たことのない翼に、そうだとしても納得できるかもしれないと思う。
「私はアイテル。このアイテリアの創造主。分かった⁉」
「は、はい」
「それにしても……」
彼女は私達を見ると、またため息をつく。そして眉間に皺を寄せながらなにか考え込むと閃いたぞとでも言うかのような表情をし、再び私達を指さす。
「あなた達が私に負けたら、私は世界を一度消滅させて作り替えるわ!」
「⁉」
「せっかく面白いシステム作ったと思ったのに千年も待たせるんだもの、つまらない!」
「でも、それだけの理由で!」
「私にとっては大切なことなの!」といい彼女は笑った。そして私をじっと見ると、やはりあなたねと続ける。
「な、なにが……?」
「あなた達がここに来れたのは、あなたのおかげじゃない?」
「私はなにもしてない、ただ皆と力を合わせただけ」
私はいつの間にか敬語で話すのも忘れて、彼女の悪い笑みに何故か汗を流した。嫌な予感がする。
「ふふっ、その二人のお友達にはちゃんと伝えたの?」
「何を──」
「あなたが異世界から来たってこと!」
アンディートとムームアに振り返るが、彼らは驚いた顔をして私を見ている。わざと伏せていた。自分が異端者であると知られたくなかったのだ。
「おい、どういう事だ」
「私がねぇ、面白いと思って異世界からひょいっと連れてきたのよ、その子!」
「レナータ、ホントなの?」
「……」
私はコクリと頷いた。そして私の世界のことを話す。魔法ではなく科学の発展した、魔物もいない平和な世界。そして私がただの、人間だということ。二人は真剣な顔でそれを聞いてくれて、私は申し訳なさでいっぱいになる。ここまで自分に協力してくれと言ったのにも関わらず、その私自身が隠し事をしていたことが後ろめたかった。
「黙っててごめん……でも私──」
「別にいいじゃねぇか、異世界人でも」
「ぇ……」
「そうだよ、なんかカッコイイじゃん!」
二人は私は咎めたりはしなかった。ただ、それがなんなんだと言わんばかりにアイテルを睨みつける。彼らは私の話を信じ受け入れてくれたのだ。
「こいつが異世界人だが、何人だろうが関係ねぇよ」
「ボクらそんな簡単にここまで辿り着いてないんだから、舐めないでよね!」
二人は気合い入れろと私の背をバシッと叩くと、笑ってくれた。私は嬉しくなって、剣を握りしめる。
「あ〜!あぁ〜!!そう言うのいらないから!鳥肌立っちゃう!」
「そんな訳だから、私達は伝承の通り三人で協力して戦う!」
「世界を壊すだとか意味わかんないことさせねぇ」
「よ〜し、ボクらが世界の救世主になろうよ!」
私達が武器を構えると、アイテルは「もぉっ!」と言って自分の魔力を剣形にして翼で飛び上がると、戦闘体勢に入る。
そしてそう言えばといい、私達はに手を向けると回復魔法をかけて私達の全ての傷が癒えた。
「ボス戦の前の回復は定番でしょ?」
「後で後悔しないでよね」
まさか神と戦う日が来るなんて、私は人生何があるか分からないなと心の中で笑った後、アイテルに斬りかかった。
その一撃を合図に、神と三人の王達との戦いが始まった──
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