第12話 宝の真実

「おう、遅かったな」

「ああ〜、またブラフマー王に越されたっ!」

「……アンディートでいい」

「じゃあボクはムームア様でいいよ」

「アホか」


ははっと笑い合うと、ムームアは決められた席にちょこんと座った。お互い四ヶ月ぶりぐらいの再会だ。不老な者には四ヶ月など短い時間だが、お互いまだ王になって一年目。それに顔を合わせるのはこれで二回目だ。


「……」

「……」


話題がない。

お互いの共通の友人を待つ待ち時間のような、微妙な空気が流れる。だが考えていることは一緒、レナータ早く来ないかな、だ。


「またあいつが最後だな」

「そうだねー、初めて会議があった日もこんなだったね」

「あの時はお互いギスギスしてたがな」


アンディートは初めて会った時のことを思い出していた。ムスッと座る自分に色々質問してきて、鬱陶しいと感じていたなと心の中で笑う。今ではお互い何を話そうか迷っている。全く人生なにがあるか分からいなと。


「お前もあいつに変えられたくちか?」

「変えられた?」

「俺はあいつと戦って丸くなったと言われるようになってな」

「……そうだね、ボクもだよ。ほんとレナータの甘さが移っちゃったよ」


やれやれとオーバーにリアクションするムームアにアンディートはまた笑う。こうして笑うことも増えたなと思い、ムームアの笑い方も以前とは少し違うように感じたアンディートは、やはり自分と同じだったかと確信した。


「そういえば、アンディートは会議の時レナータに切りかかってたよね」

「……それは言うな」

「ははっ!やっぱり恥ずかしいんだ!」


はあっと溜息をつき片手で目元を覆うアンディート。最初に会った時とは違う彼の優しい雰囲気に、レナータとどんな事があったのだろうとムームアは興味が湧く。


「君はレナータと何があったの?イデアーレを占拠しようとしたっていうのは聞いてるけど」

「戦って負けた、それだけだ。おまえはどうなんだ?」

「ふーん。まあボクもそんな感じかな〜」


噂をすれば、と言うやつだろうか。外からガシャガシャと鎧の音が聞こえ、アンディートとムームアは顔を見合わせた。誰かが走ってここへ向かっている。勿論、彼女だろう。


          ──

 

「ごめん遅れた!!」

私がバァンッと扉を勢いよく開くと、やはりアンディートとムームアが先に席に着いている。前もこうだったな思い私が空席に座ると、二人は何だか私を見てニヤニヤとしているようだった。


「な、何……?」

「お前最初の時『済まない、遅くなった』とか言ってたなと思ってな」

「そういえば言ってたねぇっ!!」

「も〜、そんなの引き出さないでよ……」


そういえば初めの時は、仕事の出来そうな女王パターンBいったなぁと思い出す。すぐにムームアにバレたので今では恥ずかしい思い出だが。もう忘れて欲しいのに二人はまだニヤニヤしたままだ。

私はいいから始めるよとその場の空気と私の恥ずかしさを払拭するように両手をぶんぶんと振った。

するとムームアが手を軽く合わせ、そういえばとマジカルボックスを探る。


「じゃ〜ん、折角同盟を結んだし祝杯をあげようよ!!」


そう言いムームアが出したのは黄金の杯。私はムームアがそれを言い出したのに驚く。確か彼の父親が死んだのは……


「ムームアのお父さんって今と同じような状況で亡くなったんじゃなかったっけ……?」

「だからだよ。ボクはあの人とは同じ道を辿らない。その証明さ」


そう言う彼を見て私は安心する。彼は過去とちゃんと向き合うことが出来るようになったのかと。ムームアに何があったかはよく知らないが、彼は過去に辛い思い出があるように私は感じていたのだ。


「いいんじゃねぇか」

「ん〜、そうだね!」


ムームアの楽しそうな様子に、私もアンディートもつられて笑う。二人を見てふと疑問に思う事があり、浮かれている彼らに問いかける。


「アンディートとムームアは同盟結んだの?」

「いや、まただな」

「確かに」


平然と言う二人に私は呆れた。実は今日は誰も従者を連れて来ていない。本来なら自分の身を守るために連れてくるべきだが、もう脅威である運命に選ばれし王が襲ってくることは無いので必要ないと断ったのだ。それは二人も同じようだった。

従者達がいたなら書類やらなんやらをマジカルボックスから華麗に取り出していただろうと思いながら、ふふっと笑いその役目を私がやる。


「はい、これ。契約書」

「用意がいいな」

「え〜、また?それ分厚いよ!」


立ち上がり二人の前に用紙を置くとまた席に戻った。移動距離が長くこの円卓は何故こんなに大きいのだろうかと内心愚痴る。

やはりアンディートもムームアも内容を一切読まずに最後の用紙にサインをして私の所までスイーッと机の上を滑らせた。


「いや、これってお互いが持つものじゃ……まあいいや」

「じゃあ祝杯あげるか」

「はーいっ」


ムームアがボックスから高そうな(私には価値がよく分からない)ワインを取り出す。私も杯なんて持ってたかなとボックスを探すと、アンディートが私と酒盛りをしていた時に使っていた赤い大きめの盃を取り出していた。


「アンディート!何それ?かっこよくないよぉっ!」

「何ってこれも盃だろ?」

「ボクだけ張り切ってるみたいじゃん……レナータは?」


私はそう言えばと思いマジカルボックスからそれを取り出してテーブルの上へ置く。

白に水色と黄色の模様が描かれ、手持ちがハート型になったティーカップだ。


「ティーカップかよ……こいつが一番ひでぇな」

「可愛いでしょこれっ!エンドから貰ったんだ〜」

「もうっ!なんでもいいよ!」


二人に呆れられながら私はティーカップの縁を指でなぞる。ずっと断っていたがエンドが何か贈り物をしたいとグイグイ押してくるので、分かったと言ったら直ぐにマジカルボックスからこれを取り出してきたのだ。いつの間に用意したんだと驚いたが私に似ているから一目惚れして買っていたと告げられた。凄く嬉しかったのでずっと持ち歩いている。


「じゃあ、前王たちにならってお互いに注ぎ合おうか」

「そうするか」


私が思い出に浸っているといつの間にかこちらまで来ていたアンディートが私のティーカップにワインを注いだ。お礼を言いワインボトルを受け取り、ムームアの方へ歩き出す。


「みんな毒盛ってないか確認しないの?」

「しねぇよ今更」


ムームアの言葉に何言ってんだとアンディートは返す。私もおかしくて笑いながら、ムームアの杯にワインを注ぐ。


「というか私の鎧、毒耐性あるから大丈夫なんだよね〜」

「レナータだけ狡いっ!」


私が自分の席に歩き出すと、ムームアが立ち上がりアンディートの方へ向かって行く。アンディートは注ぎやすいように盃を彼の方へ寄せた。


「ん?そういえばムームアのピアスとジャボの飾り戻ってるね?」

「ああ、これはあれのレプリカ。なんの価値もない飾りだよ」


そう言い親指でピアスを弾くムームア。私が先程言ったものは全てルナティスの復活に使ってなくなってしまったが、黄金に輝く懐中時計は彼の胸の前で揺れている。

そして全ての器にワインが注がれ、皆が着席する。


「誰が乾杯の挨拶する?」

「え〜ボクいやだ」

「レナータ、お前だろ」


え、そうなのと問うと二人共そうだと頷いた。こういうのはしたことが無いので少し緊張するが皆が望むならと私は立ち上がる。何だかティーカップ片手に立って挨拶しようとしている自分を客観的に見ると少し間抜けな気がした。


「え〜、本日はお日柄もよく……」

「そういうのいいから〜」

「早くしろ」

「ヤジ飛ばさないで!緊張してんるんだから!!」


軽く咳払いをして仕切り直す。うーんと少し考えたがやはりシンプルなのでいいかと改めてカップを軽くあげる。


「では、皆様ご起立を」

「おう」

「はーい」


二人が立ったのを見て、何だか色々あったなぁと思いにふけってしまうとそれを見透かしたのか早くと催促される。


「三大大国初の同盟を祝して、乾杯!!」


皆が持っている器を軽くあげ、同時に飲み干す。

ワインは従者達に勧められて飲んだことがあるが、これほど美味しいのは初めてだと思った。流石ムームアの選んだ代物。

全て飲み終えるとカランッと言う音が聞こえ、そこに視線を向ける。


「ぐっ…何だこれ……」

「アンディート⁉」


アンディートが盃を床に落とし、喉元を押さえている。顔には汗が滲んでいて苦しそうな表情だ。

アンディートの盃にワインを注いだのはムームア。すぐに彼を見ると、ムームアはふふっと笑っていた。


「油断したね、君達」

「ムームア!今更裏切ったの⁉」


私の問いにムームアはただ笑みを返すだけだ。


「くそっ…熱い……な、何を盛った……!!」

「何って、凄い精力剤」


シーンと場が静まる。精力剤……?私達は完全に毒を盛ったと疑ってしまったが、ムームアの悪戯っ子の様な笑顔を見るとただのイタズラだと分かり、安堵する。


「なんだ……ただの精力剤かぁ、驚かさないでよ〜」

「ただのじゃねぇよ!どうすんだこれ⁉」

「どうって……そこまで考えてなかったなぁ」


はぁはぁとだんだんと息が荒くなり、立っているのがキツイのかテーブルに手をつくアンディートを見てしょうがないと思い彼の側まで行く。


「はぁっ…あんま近寄んな……!」

「ちょっと待ってて……〈ヴェレーノ・ペーニ〉」


私がアンディートに手を当て魔法を使うと、彼の呼吸がすぐに落ち着き元の状態に戻る。

〈ヴェレーノ・スペーニ〉、上位の毒消しの魔法だ。


「へぇ、レナータってそういう系の魔法使えるんだ?」

「これはルポゼに込めてもらったもの。みんな心配性で頼むからって言われて一回分だけ使えるようにして貰ったんだよね。対象に接触しないと効果ないけど」

「はぁ、ムームアお前覚えとけよ……!!」


ムームアを睨みつけるアンディートに、彼はただ仲良くしたかっただけなのに……とぶーぶー文句を言う。仲良くしたいから強力に改造した精力剤を盛るなんてどんな子供だと思うが、イタズラが彼なりの挨拶だったのかなと思った。


「それより、余興はこんぐらいにして本題に入ろうよー」

「そうだな…こいつがまた何かやらかす前にな」


落とした盃をボックスへ戻し、再び席に座るアンディートに続き私も座る。少し間を開け、私達は多分同じことを考えているんだろうなと思い私はそれを確かめたくて口を開く。


「ねぇ、みんな宝について持ってきたものって一つじゃない?」

「やっぱりお前もか」

「これしかないよね」

「じゃあせーので出す?」


私がそう提案すると、二人とも頷き全員がマジカルボックスに手を入れる。私はそれを掴み出す準備をする。


『せーのっ』


ドスッと言う音が三つ聞こえて私達の前にそれぞれ、赤、青、黒の本が置かれた。

 

『【テゾーロ・オブ・ヴェリタ】』

 

三人の声が揃い、それがおかしくて皆で笑う。

やはり皆考えることは同じだったかと私は安心した。私はルイスから、前王クリファスが大事にしていた本があったと聞いていたので絶対にこれだと確信を持っていたのだ。それに私の物は中巻なので、上巻、下巻は必ず二人が持ってきているだろうとも。


「【宝の真実】とか、あからさますぎるよね」

「だけどそこが見落としになるんじゃねぇか?」

「私もタイトル見た時本当にこれか疑ったもん」


アンディートは上巻、ムームアが下巻を持っているようだ。私達はそれぞれ中をパラパラと捲ると最後のページで止まる。


「これ読んだ?」

「ボクは読んだけど」

「俺は読んでねぇ、だがこのページがな」


そう言いあるページをピラピラと揺らすアンディート。私も本の最後のページが気になった。


「この虫食いみたいに間が空いてるページ、絶対上巻、中巻、下巻が合わさって読めるものだと思う」

「面倒臭いなぁ……どうする?」

「お互い順番に読みあげればいいんじゃねぇか?」


なるほどと私はメモを取るための用紙を出して、皆にいいよと合図する。


「俺からだな……『うん』」

「『め』」

「『いにえ』」

「『らば』」


          ……

 

そうして私達は読んでいき、私の手元の用紙に全てを繋ぎ合わせた文章が出来上がる。どうなんだという視線を受けて、私はそれを読み上げる。

 

「『運命に選ばれし王よ、それを求めるがよい。このアイテリアにある宝の中でも頂点と言える代物、我はそれを守るものなり。我はその宝に相応しい人物を待ちながら眠りについている。さぁ、我を起こせ。三人の王が協力し、試練を乗り越えよ。我は待っている、このスフィーダの塔の最上階にある場所へ辿り着ける強者達を。トリムルティの宝を抱きながら。』……以上です」


「……意味わかんねぇ」

「『トリムルティの宝』?それがボクらが探してる宝の名前なの?」


これだけ長い運命に選ばれし王の歴史がありながら、私達は自分たちの求める宝の名前を今日初めて知る。

トリムルティというのに聞き覚えもなく、結局どういう宝なのかは分からない。


「この『我』って言うのは誰なんだろう」

「『それを守るものなり』って言ってるから宝の守護者みたいなもんなんじゃないのー?」


守護者。トリムルティの宝を守るために存在するのなら、それなりに長生きなのだろう。それが私達と同じ不老の存在なのか。その人物は眠りについているらしいのでもしかしたら普通の種族かもしれないと色々浮かぶ。


「『我を起こせ』とか、全体的に見て俺達と戦う気満々だよなこの『我』ってやつ」

「……やっぱり?」

「え〜!もっとスマートに話し合いで解決しようよ!」

「そう言ってもあっちは問答無用で殺しに来るかもしれねぇぜ?」


脅かさないでよと怒るムームアだが、そう穏やかに済むものではないだろう。文面からしてかなり挑戦的なものだし、何より宝がそんな簡単に手に入るとは思えない。


「それより『スフィーダの塔の最上階にある場所』って、どこ?」

「ここってこの部屋しかないはずだよね?ボク色々調べたけど」

「ここの上に壁の残骸みたいなのが残ってるだけだったな」


皆でしばらく考えていると、私はこの最後のページに何か線の様なものが見えた気がして、それをじっと見た。

最初は気のせいかと感じたがこれは必ずそうだと確信する。


「このページ何か他に書かれてない?こう……うっすらだけど」

「どこ?ん〜……あぁ、言われてみれば!」

「見た感じこれも三つ合わせるやつじゃねぇか?」


そうかもしれないがどうやって合わせようかと私がわたわたしてると、アンディートは焦れったいと言うように本のページをワシっと掴んだ。


「んなもんこのページ千切ればいいだろ」


そう言い貴重な、貴重な!!本のページをなんでもないかのようにちぎるアンディート。私とムームアはああっと声を上げたが、やはりそうするしかないかと諦め、彼をならい二人でページを慎重にちぎる。

もう移動が面倒なのか、二人とも私の方まで来てページを渡すとわきから覗きこむ。

私は三つのページを合わせて透かして見るが、先程の虫食いのような文字が綺麗に文章に見えるだけで他には見えなかった。おかしいなと私がクルクル回しながら見ているとアンディートが貸せとそれを私から取り上げる。


「さっきの文章、メモ取ってあるよな?」

「うん、取ったけど……」

「じゃあ失敗しても文句言うなよ」

「え?」

「〈ファイア〉」


そう言いアンディートが魔法を唱えると、ページを急に燃やし始めた。私は急いで水魔法の準備をするが、ムームアがそれを止める。


「な、なんで⁉」

「うるせぇ、集中しねぇと本当に消し炭にしちまう」

「たぶん、炙り出しじゃない?」


焦るわたしとは対照的に二人は冷静で、炙り出しと聞いて私はアンディートがページを燃やすつもりでは無いことに安心する。ページを見ると先程の虫食いの文字が消えてゆき、他の模様が出てくる。


「最初のが消えたってことは魔法がかかってたんだぁ」

「……よし、出来た」


アンディートが炙ったページを軽く振り、私に渡す。私がそれを再び透かして見ると三つのページが合わさって、地図になっているのが分かった。二人も同じ様に紙を見上げ、おおっと声を上げた。


「この地図が示してるのって……」

「ここだな」

「……意味ないじゃん!!」


私はページをばら撒きたい気持ちに駆られるがそれを押さえてそれをゆっくりテーブルに置く。宝を守って待ってるねと言われてもそこに行けなければ意味が無い。

私は天井を見上げた…と、その時私が最初にこの塔を見た時の感想を思い出した。


「まるで上の部分をちぎったみたいな……」

「どうした?」


ちぎった……?本当はスフィーダの塔はちゃんと塔の形をしていて本当は上の階があったとしたら。この塔の周りには壁に使われているのと同じ物の瓦礫があった。地図はここを示している、この塔は、この塔の上部は──


「空」

「は?」

「空にあるんじゃない?」

「……レナータがついに壊れた」

「前々からやべぇなとは思ってたがな……」

「ちょっと!それどう言う事なの⁉」


私が真剣に答えを探しているのに、二人はやれやれと言ったように呆れている。私は至って真剣。というか前々からとはどういうことなのか!!


「絶対そうだよ!」

「なら証明しろ」

「そうだね」

「……も〜っ!分かった!来て!!」


私は若干キレ気味に二人の手を掴むとバンっと足で(行儀が悪いが)扉を開けて翼を出して塔から出るのと同時に、思い切り飛び上がる。そのままスピードをグングン上げて空を飛んだ。恐らく手を掴まれている二人にはそれなりの圧がかかっているだろう。


「レ、レナータ!アホかお前!俺も飛べる!!」

「──っ!!」


アンディートは少し暴れていて、ムームアは何か叫んでいるが聞こえない。私はさっきの仕返しに自分が出せる最大のスピードでどんどん上昇して行った──


          ──

 

「……あったね」

「……あったな」

「……そうだね」


雲をつきぬけどんどん空気が薄くなってきた上に、私がそろそろ体力の限界かと思った時、それを見つけた。

 

スフィーダの塔と同じ外装の建物が、そこに浮いていた。

 

私達はぽかんとそれを見つめていた。自分で必ずあると言ってここまで来た訳だが、実際にこうして目の前にあるとなんとも言えない気持ちになる。その時、手の力が抜けてアンディートの手を離してしまった。


「あ」

「──っ⁉〈ヴォラーレ〉!!」

「あはははっ!」

「笑うな!あとお前も落とすんじゃねぇよ!」

「ごめんっ!つい、ね……」


ムームアを荷物のように抱えながら、アンディートとその建物をグルグルと見て回る。が、何処にも入口らしきものが無い。


「そこにあっても入れないんじゃ意味ねぇな……」

「でも、絶対どっかにあるよ!入口!」


そう言って私がバンッと壁を叩くと、そこにポッカリと穴が空き私は転がるように塔の中へ入った。


「いたた……優しく扱ってよ!もう!」

「ご、ごめん……。それに壁、壊しちゃった?」

「いや、そうでもねぇみたいだ」


空いた穴からアンディートが入ると、その穴が渦を巻き無くなった。どうやら魔法がかかっていたようで、残念なことにもう一度出ようとすると壁に反応はなく、一方通行のようだった。


「ああっ!」

「なんだ」

「これじゃ従者達連れてこれないっ!!」


私が全力で壁を殴るが、下にあるスフィーダの塔と同じで傷一つ突かない。出せるだけの力を出し手足で懸命に壁の破壊を試みるが二人にやめろと止められる。


「そんなの魔法使って連絡すればいいじゃん、〈メサージュ〉…〈メサージュ〉!……あれ?」

「もしかして通じないの?」


私もアンディートも〈メサージュ〉で従者に連絡をするが、誰にも繋がらない。


「あぁっ!!エンドっ!ルポゼ!アタリル!ディーフェ──」

「全員呼ぼうとするなっ!お前のとこただでさえ多いんだから!」

「も〜、僕らだけで行くしかないのぉ……」


ため息をつき傍にあった階段に座り込むムームア。その階段は螺旋状になっており上に伸びている。この上に『我』と名乗る人物がいるのだろうかと、私も横に座った。


「おい、座り込むな!」

「まさかいきなり入れるなんて思ってなかったから……」

「ほんとだよ!ちょっと見学に来たのにっ!」


でも、と言いムームアは立ち上がる。


「動かなきゃ始まんないよね。行くよ、二人とも!」

「お、おう」

「なんか男らいしなぁ……」


三人で螺旋階段を登っていく。三人分の足音が反響して聞こえるだけで、それ以外には何も聞こえない。すると一つの扉が、私達の前に姿を見せる。


「もしかして……」

「試練ってやつじゃないかな?」

「はっ、望むとこだ」


私達はそれぞれ神器を取り出して、自然と開く扉に警戒しつつ室内へ入る。そこは……何も無い。ただの広い部屋だった。その広さはムームアと戦った場所と同じくらいだろうか、かなり広い。だが室内装飾などは一切なく、あると言えば次の扉に向かってレッドカーペットが敷かれているだけだろうか。


「なにもないね」

「どっか踏んだら斧が横から出てくるとかないよねぇ?」

「それはお前の城の話だろ」


ムームアの城って横から斧出てくるのかと驚きながらも、ふと何かの気配を感じて全員がそこに視線を向ける。

次の部屋へ続く扉の前に、赤いく大きな魔方陣が浮かぶ。

そこから召喚されたのは──


「う、そ……」

「何だ?ドラゴン?」

「……レナータ、どうしたの?」


私は目を見開き、そいつを見た。体がガタガタと震えて、握った剣が音を立てる。あいつは……あのドラゴンは……


「ぁっ……ぃやっ……な、んで……」

「おい、どうした⁉」


力が抜け私は膝をつくと、そいつから目が離せなくなる。

ぼんやりとアンディートとムームアの声を聞きながら、赤く光ったあいつの目を見た私は、

 

意識を失った──


          ──

 


「…ぁ、れ…?なにしてた、んだっけ……?」


立ったまま意識を無くしたのかと不思議に思っていると、酷い頭痛がして頭を抑えた。記憶を探るが上手く思い出せない。そして……血の匂いがする。

私は二人を探さなければと後ろを振り向こうとするが、ふと止まる。自分は何故か負傷していて、手握った剣にも、服にも血が付着している。


「いつ…戦った……?」


思い出せない、思い出せない……!私は何をしていた⁉


「いや…だ……思い出せない……」


何も思い出せない恐怖に私がフラフラと振り返り歩き出すと、コツッと何かを蹴った。

私は視線を落としてそれを視界に捉えた時、ドクンと心臓の音が大きく聞こえた気がした。


「な……んで……」

 

私の足元には、

 

血にまみれたアンディートとムームアが転がっていた。

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