第6話 王達の会議
アズモンド、イデアーレ、ディアストリク王国のちょうど中心にある砂漠地帯、サンドゥ砂漠。
ふだんは狂暴な魔物ばかりがおり、誰も近づかないその砂漠に私は降り立った。
「ここが会議の会場なの?」
「はい、そうでございます」
ついに運命に選ばれし王達の会議当日になった。
朝早くから準備して、会議の際には必ず身につけなければならないという王冠とマントを身につけたあと、サージェと飛行魔法で飛びある建物の前まで来た。会議に同伴出来る従者は1名だけらしく、サージェ以外の従者は国にお留守番してもらった。
真っ白の神秘的なその建造物は砂漠の中にあるにも関わらず壁に傷一つなく、ついさっき建てられたような綺麗さ。
だがまるで上の部分を無理やり消滅させた、2階が急に破壊されたかという様な妙な造りが気になった。
この建物は材質がこの世界にあるどの物質とも合致しなくて何で出来ているか分からないらしい。
「スフィーダの塔です」
「へぇ、塔?めちゃくちゃ一戸建てなんだけど……」
「上部にある中途半端な外壁から、元々は塔を造る予定だったのではないかと先代の王達は推測したようです」
「なるほど……とりあえず入ろうか」
塔の入口に立つと、3メートルぐらいある扉がゴゴッと音を立てて自動で開き、扉を押そうとした私の手が空を切る。
ぶわっと中の冷たい空気が私に浴びせられ、ちょっと寒いなと思いつつ中へ入った。
左右に石柱がズラっと並び、その先にはまた扉が見える。内装は思ったよりシンプルで、その石柱以外に物らしい物は無い。もっと甲冑とか飾ってあるのかと思っていた。ガシャガシャと自分が歩いた時の鎧の音と、後ろからサージェの着いてくる足音だけが響いた。
正直緊張している。事前にブラフマー王とシヴァ王がどんな人物か軽く聞いてはいるが、ちゃんと協力関係を築けるか心配だった。情報についてもそれほど多くないのでイメージと違ったらどうしようという不安もある。
いよいよ恐らく会議室であろう場所の扉の前へに来た。大きく深呼吸をしていると、サージェが前に来て扉に手を当てた。
「私が開けます」
「分かった……ああ、緊張する。仕事の出来そうな女王パータンBね」
「仕事の出来そうな女王パターンBでございますね。承知致しました」
重そうな扉をサージェが片手で押し、ゆっくりと開いていく。
まず見えたのは50人用かと思うほど大きな円卓に、均等に置かれた3つの椅子。1番扉に近い席が空席になっており、私の席はあそこかと確認する。
「済まない、遅くなった」
「……」
「ほんとだよもう!ボク達結構待ったんだからね!」
黙って左側に座っているのは柑子色の髪をした男性。
アズモンド王国20代目国王、アンディート・ブラフマー。
彼は元奴隷だったらしく、即位してすぐに奴隷制度を廃止した事でかなりの話題になっている。アズモンド王国の奴隷制での利益は凄まじく資金の大凡はそれで稼いでいたが、アンディートの行いによって結構な危機と聞いた。
そしてさっきから私を無言で睨みつけてくるのでなんなんだと少々警戒する。
恐らく連れてきた従者だろう人物は右目に傷のある屈強そうな男で、アンディートの傍に立っている。
そして遅れた私にぷんすこ怒りながら右側に座っているのは灰色の髪の男の子。
ディアストリク王国38代目国王、ムームア・シヴァ。
彼は12歳という歴代最年少で即位した。元々王族、それも運命に選ばれし王の息子で、連続して同じ家系から王が選ばれるのは初めてらしい。ディアストリク王国については……よく分からない。王が新しくなっても国に大きな問題はなく、そして外にあまり情報が漏れないようになっている。国に入るのは簡単だが、出るのが凄く難しいらしい。
ニコニコと笑うその笑顔は、何故だか少し違和感を感じた。
連れてきた従者は金髪の女性。プレートアーマーをしているところをみるとたぶん戦士だろうか。
キリッとした顔でマントを大袈裟に翻し手前の椅子に着席した後、足を組む。少し偉そうにしていた方が王らしいかなという軽率な考えからだ。
「君がヴィシュヌ女王?本当に女性なんだねー」
「私が女なのがそんなに意外か?」
「だって女王って珍しいもん」
そうなの?と視線でサージェに問いかけると、レナータ様でイデアーレ王国の女王は3人目になります、と耳打ちされる。王の男女比率は均等だと思っていたがそうでは無いらしい。
「さっきね、ちょっとブラフマー王と話したんだけど彼ね、従者5人も召喚したんだって!凄いよね?」
「そう…だな。歴代最高が5人だったか?」
「そうだよ!まだ7人の王しかなし得なかった偉業だよ~、ヴィシュヌ女王は何人召喚した?」
「私は……8人だ」
私の発言に私とサージェ以外の人がどよめく。やっぱり5人以上って凄い事だったのかと改めてここで実感した。
「8人⁉ホントに?よく生きてたね!」
「召喚後は少々苦労したがな。本当だ」
「へぇ~、残念だったねブラフマー王。君が1番だったのに」
「チッ」
ブラフマー王に舌打ちされた後また睨まれたので、私何も悪くないんじゃと心の中で愚痴ったあと、さっきから彼の私に対する敵対心のようなものが気になった。
私は彼に何もしていないし、恨まれる様なこともしてないはずと自分の行動を振り返るが特に思い当たることは無い。
「ブラフマー王。私は貴方に何かしたか?先程から私との会話も避けているように感じるが?」
「お前は何もしてねぇ、ただ女がでしゃばってんのが気に入らないだけだ」
「ブラフマー王は女の人が苦手なんだって」
「苦手じゃねぇよ、嫌いだ」
シヴァ王の発言にあからさまに嫌そうに返すブラフマー王。私とは全然会話をしてくれないけど男であるシヴァ王は良いみたいだ。そういえばシヴァ王もさっきちょっと話したと言っていたなと思い出す。
何も性別の違いぐらいでそんなに敵対心剥き出しにしなくてもいいのではと思うが、男尊女卑の考えが強いのだろう。
「そうは言っても、我々はこれから協力関係を結ぶ事に成るだろう。そう駄々をこねられては困るのだが?」
「ああ?誰が駄々こねてるって……?」
少し私も苛立って煽ってしまった。火に油を注ぐとはまさにこの事だと自分で反省する。ブラフマー王から今にも殴りかかってきそうな程の怒気を感じた。
「まあまあ2人とも!冷静になりなよ。ここで戦っても何の利益もないよ?」
「そんな事ねぇ、こいつを殺して王を交代させる」
「……少し大人気がなかった。すまない、ブラフマー王」
素直に謝る私にブラフマー王は少し驚いたあと、やり場のない怒りを机にガンっとぶつけムスッとした顔で黙り込んだ。どうやら許してくれたらしい。
代々王たちの仲は良くないと聞いていたが、自分達もそうなるかもしれないと少し不安になる。シヴァ王とは何とか良い関係を築けそうだがブラフマー王は少し難しくなるだろう。
「それとさ、ヴィシュヌ女王。協力関係って言ってたけどもしかして宝のこと?」
「勿論だ。そのための運命に選ばれし王なのだろう?」
「ふーん、ボクの見立てだとさ……ヴィシュヌ女王って何か嘘っぽいよね。そんな人と協力関係なんて出来ないよ」
ぎくっとする。嘘っぽい……とはおそらく今している演技の事だろう。数十分の間に見破られるなんて予想外だった。
「ボク昔から貴族達がお父様に媚び売る演技見てたから分かるんだよね。そういう、偽った顔って言うのかな?」
「……」
「どうなんだ、お前」
ブラフマー王からも問われ、どうしようかと迷う。まさか仕事の出来そうな女王パターンBが見破られるなんて、結構演技には自信があったんだけどなと少し落胆する。ここでシラを切るとこれからの関係にヒビが入ってしまうかもしれない。それにもうそうこう考えているこの沈黙が、演技をしていたという肯定になってしまっているだろう。
「あ~うん。そうだね、ごめん」
「!」
「やっぱりね!流石ボク!」
パッと軽く両手を挙げ降参の意を示すと、わーいわーいと喜んでいるシヴァ王と若干引き気味のブラフマー王。こんなすぐにバレるなんて思ってもなかったが、まあ自分らくし過ごす方が楽なので案外ラッキーだったのかなと前向きに考える。
「私のことはもう良しとして、宝の話進めようよ」
「開き直るの早いな~。そういえば宝についてなんだけど」
シヴァ王は乗り出していた身を背もたれへ戻し、指をつんつんと合わせる仕草をしながら「ん~」とわざとらしく考えるような様子を見せる。
「ボクさ、自分の国さえ手に入ればそれでいいんだよね。だから宝の攻略に正直興味無い!」
「え、でも運命に選ばれし王の役目はどうするの?」
「そもそもさ、宝って何なの?膨大な富?最強の武器?それともなんでも願いが叶うとか?」
「それは……」
「ほら、分からないよね。もしかしたら宝って言うのは嘘でボク達の今の凄い力を奪われるかもしれないじゃん」
確かに宝が実際どういうものなのかは誰も知らない。だからこうやって会議をするのだと思ったのだが。
しかし自分の今の力が奪われるという可能性は考えてなかった。もしそうなるなら、おそらく従者達も消えるだろう。それを考えると……恐ろしい。
伝承では宝は【3人の王が協力して手にはいる】と言われていて、私はそうなると自然に思っていたが、それは間違いだったようだ。
「……ブラフマー王はどうなの?」
シヴァ王が非協力的だと知ってブラフマー王にふるが、私の事がやっぱり気に入らないのか黙ったまま。
そしてまた舌打ちした後、退屈そうにテーブルに肘を置いてそこに頭を乗せる。
「俺は宝を攻略する」
良かったと思いじゃあお互いよろしくと言おうとしたら、だがと言葉を続けられる。
「お前とは組まない」
「……また女だからってこと?あのねぇ、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ」
「そうじゃねぇよ。俺はシヴァ王とも組まない」
「じゃあ……」
「俺は1番になる、ならなきゃならねぇ。だから誰とも協力はしない」
もう言うことはないと言わんばかりに私から視線を逸らすブラフマー王。
あまりの二人の非協力的な意志に少々ため息を付きつつ、これかどうすればいいか少し考え会議室がしんと静まり返る。
「私は、みんなと協力して宝を目指したい。どうしても伝承が嘘だとは思えないから」
「強情な女だ、誰も仲良しごっこはしねぇっつってんだよ。それとも力ずくで従えるか?」
そう言いついに立ち上がり私に体を向ける。
従者がボックスから大剣(おそらく従者自身の武器)を取り出し、ブラフマー王に渡す。
それを彼が思いきり振ると、その風圧だけで後ろにいたサージェが少しよろめいた。
「従えるとかじゃなくて、あくまで同盟のようなものだよ!」
「うるせえ!やっぱりお前は気に入らねぇ、ここで消しておく!!」
すぐさま距離を詰めてきたブラフマー王が狙うのは、私ではなく……サージェだ。
旅人であった頃の経験が役に立つ。視線が少しの間だけ私ではなくサージェに向いたのを私は見逃さなかった。
立ち上がり、腰に下げていた神器の片方を抜きサージェを庇うように立つ。
「──なっ!」
「狙いはバレてるよ!……私の大事な仲間に手を出すなっ!!」
「チッ」
彼はサージェを諦め、私に上段から切りかかる。それを両手でしっかり剣を握り、受け止める。
やはり運命に選ばれし王だけあって力が強く、受け止めた剣への圧が凄かった。しかし所詮は従者の武器。神器で対抗している私への力勝負では、彼は勝てない。
「ぐっ、このぐらいっ!!」
ギリギリと音が鳴る中、押していたブラフマー王の剣がどんどん戻されていく。
そしてついに、力の衝突に耐えられなくなったブラフマー王の持つ大剣が真っ二つに割れ吹っ飛んだ剣先が音を響かせ床に落ちる。
「……」
「くそっ、使えねぇ」
カランと折れた大剣を床に放り、後ろで警戒態勢を取っていた従者が申し訳ございませんと謝り剣を拾う。
「ちぇ~、もう終わったの?まあ、楽しかったけど」
他人事だと私達の戦闘を鑑賞していたいシヴァ王。
そして不意に立ち上がり、従者を連れて扉の方へ向かっていく。
「ちょっとシヴァ王、何処に……」
「ボクは協力しない、それは変わらないから。疲れたしもう帰るよ」
ばいばーいと手を振り扉から出ていくシヴァ王に続くように、ブラフマー王も扉のへ。
「じゃあなポンコツ女王。せいぜい早くくたばれ」
ムカつくひと言を残し出ていく。最初から最後まで私に敵対心剥き出しのようだ。何がそこまで彼の怒りを買ったのだろうか。私は再び静かになった会議室でぽかんとする。
「な、何なの?運命に選ばれし王ってのは皆こうなの?」
「申し訳ございません、レナータ様。先程は何も出来ず、貴方様に守られる事しか……」
サージェが悔しそうに私に謝ってくる。
彼は何も悪くないのに、私の向こう見ない行動のせいで悲しませてしまった事に胸が痛む。
「私こそごめんね。協力関係、できなかった……」
「いえ、レナータ様が謝ることは何もございません。ですのでどうか、悲しい顔をなさらないで下さい……」
「うん、ありがとう。これからどう行動すれば最善か、それが重要だね!!」
「はい」
元気を取り戻した私に、いつもの微笑みを向けてくれるサージェ。
会議は上手くいかなかったが、これから取れる行動はいくらでもある。
まあその辺は私の頭は役に立たないだろうけど、私には優秀な従者達がついている。そう思うと、さっきまでの不安も薄れていくように感じた。
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