第4話 女王の仕事

『──!!』

『──!?』


何やら外が騒がしい。

今まで執務室で命名イベントをしていたので全然気づかなかったがかなり大人数で叫んでいる声が聞こえた。


「なんか……もしかして問題発生?」


傍にあった窓からこっそり外を見てみると、人がこの城の目前まで集まり騒いでいるようだった。集まる人々の表情を見るに、私の即位を祝うために来たようではないらしい。


「申し訳ございません、レナータ様。実は王が新しく即位なさった際はその日に国民に対して声明を行わなければならなかったのですが、何分レナータ様はお具合がよろしくなかったようなので、理由をつけて引き伸ばしていたのです」

「私があまりにも顔を見せないものだから、不満爆発って感じかな?」

「不満より、不安なのだと思われます」


サージェが申し訳なさそうに事情を説明してくれる。

確かに国民達からしたら王のスピーチというのは、自分たちの国の王が信用に値する人物か見定める良い機会なのだろう。それがいつまでたっても行われないというのは国の未来が見えない、不安が募るばかりだ。

王は無造作に選ばれる。私が暴君だったり、ずっと城に引きこもるヤツかもしれないし、そうだった場合は反旗を起こすつもりかもしれない。


「あ~大変大変!急いで国民達を落ち着かせなきゃ!!」


事態を直ぐに収めなくてはと、何を話したらいいか考えながら急いで城の正面にあるテラスまで向かおうと走り出そうとする。


「レナータ様、お召し物をお替えになられた方がよろしいかと」


しかしいつの間に来ていたのだろうとルイスが私の目の前に現れた。自分の服装をじっと見たあと、これじゃダメ?と尋ねるとコクンと頷かれる。

そんなに汚い格好でもないとは思うが、やはり王には王に相応しい格好というのがあるのだろう。


「衣装室へご案内致します。あまり時間がありませんので城内を走ることになりますがよろしいでしょうか?」

「その必要は無い」


ルイスの提案に、エンドが一歩前へ出て却下する。

何かいい案があるのだろうか。


「俺は転移魔法が使えますので、衣装室まで転移しましょう」

「魔力の方は大丈夫?」

「この場にいる全員を飛ばすとしても問題ありません」

「あー、とりあえず衣装室に行くのは私とルイス、それとエンド。他のみんなはテラスの手前で待ってて!!」


急いで指示を出し、皆が了解の意思を示したのを確認してからエンドに合図する。


「ルイス、そばで寄れ。ではレナータ様、御手を」


手を差し出され、咄嗟に手を重ねる。すると彼はとても嬉しそうな顔をした。


「〈テレポート〉」


エンドを中心に私とルイスの足元に魔法陣が浮かび、視界がほんの一瞬暗くなり気づくと衣装室の前まで着いていた。

私は転移魔法は習得していなく、初体験だったためはしたなくほぉ~と感動の声上げてしまう。

というか魔法陣の範囲内に入っていれば転移出来たので、エンドと手を繋ぐ必要なかったんじゃないかと疑問に思うが、今は一分一秒も惜しいので考えるのをやめにした。


「すぐ着替えるから待ってて!」


ガチャッと大きめの音を立てて衣装室へ入ると、私は小さく声を上げた。

そこには色とりどりの恐らく高価な衣装が並び、衣装だけではなく、これまた高そうな装飾品、鎧まである。

ハッと我に返り、早く着る服を探せと自分を叱ったあと、ぐるぐる部屋を周りそれっぽそうな服を探すが、あまりにも量が多いため目移りしてしまう。

もうここは直感だ、と目に付いた青色のシンプルなドレスを手に取る。

姿見の前まで急いで行き、ある事に気づき動きがフリーズする。


「待って、私ドレスの着方とか知らない……」


確かコルセットをしないといけないんじゃなかったか、そういえば髪型はこのままでいいのかと色々不安が込み上げてくる。とりあえず誰かに頼りたかった。


「ルイス!!近くにメイドさんいない⁉」


扉の向こうで待機しているはずのルイスに問いかけるが、返ってきた答えは私の希望を見事に打ち砕いてくれた。

メイドが居ないなら……


「エンド!入ってきて!!」

『お、俺がですか⁉』


明らかに戸惑った声が扉越しに聞こえるが、そんなの構ったことか。コルセットはよく分からないが多分紐を締める時、自分でするのは初心者には難しかったはずだ。


『レナータ様はこれからお着替えなさるのですよね⁉』

「そうだけど…あ~、命令!!入って来なさい!!」


流石に横暴だと自分でも思うが、ここは犠牲になってもらうしかない。

命令と言われたのなら逆らえないだろうと少々卑怯な手を使わせてもらう。


『か、畏まりました……』


素早く部屋に入ってきたエンドを見ると、仮面の下に見える目はぎゅっと閉じられていた。

それでもしっかりと私の側まで来れた。気配で分かるのだろうか?


「とりあえず鎧脱ぐのと、あとコルセット着けるの手伝って」

「俺の様な者が御身に触れてもよろしいのですか…?」

「全然大丈夫!急いでるし私も貴方の裸見たし五分五分だよ!」

「……畏まりました」


自分でも意味の分からない理屈だと思うがやっと決心してくれたのか、エンドが鎧の上腕部のベルトを恐る恐る外し始めたのを見て、空いている方の手でネクタイや腰のベルトを器用に外していった。

ガントレットやサバトン、グリーブもバンバン外して床に落としていく。

残りは下着とスパッツと手袋、ニーハイソックスだけになった。


「嗚呼…俺はなんて不敬なことを……」


いきなり現実に戻ったエンドに軽くチョップをくらわし、やっとコルセットの出番だ。どんな物か知ってはいるがやはり初めて見るのものなのでどこが前で後ろでとくるくる回したあと、諦めた。


「……凄い情けないんだけどコルセットの付け方知らないいんだよね…エンドは分かる?」

「はい、一応知識として」

「じゃあよろしく」

「!!」


まだ目をつむっているエンドにはい、とコルセットを渡すと「俺は今日が命日になるかもしれない」とボソッと呟いたのが聞こえた。


「では……」


やっとエンドが目を開く。私がエンドの方を向いていたからか、しばらく硬直した後、姿見の方に体を向けて下さいと言われそのようにする。


コルセットを背後から腰に覆わせ、手前にある金具を器用に留めていく。背後から抱きしめられているようでこっちも緊張してしまう。エンドの手を見ると、同じく私とは別の意味で緊張しているのか手が震えていた。そして失礼しますと一言かけられ、背中部分にある紐をぎゅうっと引っ張られる。


「うぅ…キツ……」

「も、申し訳ございません!!」

「ごめん、つい。大丈夫だから続けて」

「はい」


今度はキツすぎない程度に紐を絞めてもらって、お礼を言う。

さっき見つけたドレスをエンドに持ってこさせ、確かこうだったかとドレスの中に入り、そのまま肩の部分を持って引き上げる。背中のスナップをエンドに頼み、ようやくドレスを着ることが出来た。


「あ~大変だった…エンドも手伝ってくれてありがとう。無理言ってごめんね」

「いえ、お役に立てて大変光栄です。ですが……」

「?」

「この事を他の従者達には内密にしてはいただけないでしょうか。もし知られてしまったら俺の命が危ういので……」

「う、うん」


やはり男性従者に着替えを手伝ってもらうのは不味かったかと考えるが今はそれどころではない事を思い出し、ぼさぼさになってしまったお下げのゴムとそれを覆っていた金具を外した後、軽く手ぐしでといてエンドと衣装室を出る。


「レナータ様、大変お綺麗にございます」

「ありがとう」


ルイスから褒めてもらい、少し照れるがそれよりルイスが大事そうに持っている物が気になった。 彼の両手に乗っているのは薄い水色でとてもシンプルかつ美しい王冠とマントだ。


「それって……」

「はい、初代王から代々受け継がれているマントと王冠にございます」


初代王から受け継がれたというからにはもっとボロボロだったりするのかと思ったが、予想より全然綺麗な状態だった。むしろ新品ではないかと疑う程だ。

今から自分がこれを被るのかと思うと少し緊張する。

ルイスが差し出してきたので、それらを丁寧に受け取り、マントを軽く羽織ったあと王冠をそっと被る。


「どう?王様っぽい?」

「はい、とても強靭で叡智溢れる偉大なる女王に見えます。見た目だけではなく、実際レナータ様はそのような女王殿下でございます」

「ほ、褒めすぎだよ……」


照れて緩んだ頬をきゅと引き締め、パンッと手を合わせる。

これからスピーチをするのだ。いつまでも今までのふわっとした気持ちではいけない。


「よし、エンド。みんなが待ってるテラスまで飛ばして」

「畏まりました。ではいきます、〈テレポート〉」


何故か置いていかれそうになったルイスが急いで魔法陣の中へ入り、無事にテラスの前まで飛ぶ。ドキドキと心臓が早く脈打つのを感じながら、ゴクリと唾を飲んだ。言いたい事をある程度まとめ、あとはぶっつけ本番だと決心する。


「お待ちしておりました、レナータ様」


サージェを筆頭とし、従者達が私の前に跪く。よく見るといつの間にかエンドもそこに加わっていた。みんなはテラスへの一本道を作るように、左右に4人ずつ並んでいる。

衣装室までは聞こえなかった声が、ここからはよく聞こえる。


『早く王を出せ!!』

『本当はクリファス様はご存命なのではないのか⁉』

『この国は見捨てられたのか!!』


あっちこっちから国民達の悲痛の叫びが聞こえ、胸がきゅっと痛くなる。全部私のせいだ。ちゃんと事情を説明して、分かってもらわないと。私の考えを、ちゃんと伝えないと。

息を大きく吸って、ゆっくり吐く。


「みんな、ついてきてくれる?」

「はい、勿論でございます」


私の不安をかき消すように、サージェの優しい声が胸に響く。他の従者達も笑顔で私に頷きかけてくれた。

私にはみんながついているから大丈夫。では、舞台女優志望だった私の実力を見せるときだ!!

心の中でスイッチを切り替え、私はテラスへ歩き出した。


          ──


「えぇい、下がれ下がれ!ここからはお前らのような者が気安く入れる場所ではない!!」

「いいから早く国王に会わせろ!!」


国民と城の兵士達の攻防が続く。

いわゆる過激派と呼ばれる者達が先導し、ここまで大事になっているのだろう。

私は飛行の魔術が込められたネックレスをつけ、テラスの手すりの上に立ち、そのまま外にいる人達に見えやすい位置まで飛ぶ。


「静まれ!我がイデアーレ王国の民たちよ!!」


エクステションは人の声帯に直接かければ拡張器のようにも使える。そのおかげで声が皆に届き、騒がしかった城下が一気に静かになる。


「我がイデアーレ王国第15代目国王、レナータ・ヴィシュヌである!」


名乗りをあげると、先ほどよりは小さいがどよめきの声が上がった。

一応皆を私に注目させることは成功したようだ。


「まずは皆に謝罪したい。情けない事に私は即位して直ぐに従者召喚よる疲労から動けずにいた。この5日間さぞ不安だっただろう、本当に済まない」


頭を下げると、王が頭を下げたぞと驚きの声が聞こえた。これは王に相応しくない行動だったかもしれない。でも私はちゃんと謝っておくのは大切なことだと思うので、あえてそれをする。


「そしてまずは皆に紹介したい!我が優秀なる従者達を!!」


私がテラスの方に手を向けそこに視線を向けさせると同時に、従者達8名が一斉にお辞儀をして挨拶をする。

約1名、というかエルバトが両手をブンブンと振りやっほーなどと言っているのが見えたが、今は見なかった事にした。

従者の平均敵な数は2名から3名。前王のクリファス殿下も3名を召喚したらしい。驚異の8名という人数に国民達は驚きを隠せないようだった。


「そして皆には決断してもらう事になる!私は……185年続いたこの国の鎖国状態を取りやめ、開国を宣言する!!」


一瞬しん、とした後皆が騒ぎ始める。

まあそうなるよねと心の中で呟きながら、まだ話は続くぞという意味で手を思い切り叩き、またこちらに注目させる。


「私は運命に選ばれる前は旅人として広い世界を見てきた。その私が言おう、イデアーレ王国は文明があまりにも遅れすぎている!このままではこの国は滅ぶだろう!!」


やはり不安なのだろう、当然だ。私が同じ立場なら暴言でも吐きたい気分だ。しかしながら私はこの国の国王になった。しっかりと国を導かなくてはならない。


「変わる事を恐るな!外の世界に怯えるな!もし不安が、恐怖があるなら私達が取り除いてやろう!!……そしてその第一歩として、私の従者達のうち5名を街で生活させる!皆卓越した才能を持つ有能な者達だ。かならず皆の助けになることを約束しよう!」


これには従者達もあまり顔には出していないが驚いているようだった。それもそのはず、そんな事誰も一言も聞いていないからだ。だって誰にも言ってないんだもの。


「私は運命に選ばれた王として、この国の繁栄を望んでいる!皆、私を信じてついてきて欲しい!以上だ!!」


立ち去る私の背にみんながみんな大声で叫んでいるので、もう何言ってるのか聞き取れないがテラスへ降りて城内へ戻る。

周りに従者たちとルイスしかいないのを確認し、はぁ〜っと大きめのため息を吐いた。


「もう無理、駄目。あれ多分みんな怒ってるよね……」

「お疲れ様です、レナータ様」


ルイスが何処からか持ってきた椅子を差し出してくれたので、それに行儀が悪いが勢い良くどかっと座り両手で顔を覆ったあとサージェに声をかける。


「仕事の出来そうな女王パターンBでいったけど、どうだった?」

「はい。仕事の出来そうな女王パターンB、あまりの威光に私共は失神しそうでした」

「え、そこまで⁉」


にこりと笑うサージェの嘘か本当かわからない台詞に若干戸惑いながらも、それよりも先に従者達に言わなければいけないことがあるのを思い出す。


「あの…みんな黙っててごめんね」

「我々のうち5名を街に住まわせる事でしょうか?」

「……うん」


その事を国民達に話ながら見た従者達の顔は、少し曇っているように見えたのだ。恐らく従者にとって王のそばを離れることは精神的な苦痛になるのだろう。それでも私は告げなければならない。


「……エンド、ルポゼ、アタリル、ディーフェル、エルバトには街に居住を持ってもらおうと思ってる」


やはり、名を呼ばれた5人は悲しそうな顔をしている。


「さっきスピーチで言ったように国民の力になって欲しいっていうのも理由にあるけど…、私はみんなに普通の、人としての幸せを知って欲しい」

「それはどういうことでしょうか?」

「従者は召喚されたらずっと王を守るために傍にいるって言うのは、私は従者の世界はそれだけで終わっちゃう気がするんだ。だからみんなには役職……仕事をしてもらって、もっと周りと関わりを持って欲しいと思ってる」

「それではレナータ様に何かあった場合、私共の本来の役割が果たせないのではないでしょうか?」


サージェが言うことはもっともだ。だけど私は──


「私、みんなの事…その、家族みたいに思ってるから、だから…家族の幸せを願うのって普通じゃない?」


皆が俯く。やはり説得は難しかったのだろうか。

するとううっ、と声が聞こえる。少し顔を傾け、うつむいた従者達の顔を見ると、泣いていた。


「ご、ごめん!!そこまで街に行くの嫌だった⁉えっとじゃあ…その……」

「いえ、ぢがいっ、ますレナータさま…」


ルポゼが泣きながら喋り出す。色々ぐずぐずだ。とりあえずマジカルボックスからハンカチを取り出しみんなに配る。8枚もハンカチ持ってて良かったと思う。何故そんなに持っているかは自分でも不明だが。


「わたしだちをかぞくだと…そうおっしゃっでいただいて…わだしたちは…ゔぅ……」


ポロポロぐすぐすズビズビ、従者達の泣く音が響き私とルイスはポカンとするしか無かった。素直な感想を言うと、「え、マジで?」という感じだ。私の従者達はどうやら涙脆いらしい。それよりテゾールが白地にピンクの刺繍がされた可愛いハンカチで涙を拭っているのが面白くて笑いそうだ。

あとエルバト、その鼻をかんだハンカチは返さなくていい。


「それで…5人は街で生活する事に反論とかはない?」

「反論など、寂しくないと言えば嘘になりますが主が決定した事であれば喜んで従いましょう」


エンドがキリッとした顔で返事をしてくれたが、目と鼻が赤かったので今度こそ笑った。


          ──


「では、みんなの役職を発表したいと思います」


従者達が落ち着いた頃に再び謁見の間へ戻り、話を始める。

実はもう命名イベントの辺りから誰にどんな仕事を任そうか考えてはいた。


「まず……エンド・ストーリア」

「──はっ」

「貴方に教会の神官を任せます」

「畏まりました。お任せ下さい」


この国の教会でどういう神を信仰しているかは分からないが、彼が適任だと思った。ルポゼでもいいかと思ったが、彼女は来る人全員の悩みを重く抱えて自滅してしまいそうな気がするので少々淡泊な彼の方が向いていると判断した。


「次に、ルポゼ・マータ」

「はい」

「貴方に宿屋の宿主をまかせます」

「承知しました。お任せを」


宿屋と言ったら人にとっては癒しの場だ。客への対応や部屋の清掃、ベッドメイキングなどは細かいところに気づける彼女にぴったりだと思う。それにルポゼが笑顔で迎えてくれたらそれだけで癒されるだろう。


「アタリル・イブズ」

「はいっ」

「貴方に武器屋の店主を任せます」

「分かりました、お任せ下さい!」


彼女は武器に関しての知識が豊富だと言っていた。手入れが趣味なようだし、喜んでやってくれるだろう。商人としての才能があるかは分からないが、人当たりの良いアタリルなら大丈夫だろうと任命した。


「ディーフェル・アダムズ」

「はい!」

「貴方に防具屋の店主を任せます」

「分かりました、任せてください!!」


ディーフェルは防具に関しての詳しいようだったしアタリルと同じように手入れが趣味だと言っていた。それに彼らに任せる武器屋と防具屋は隣同士のため、夫婦関係の二人には良い役職だと思う。彼に商売をさせることに少々不安はあるが、アタリルがしっかりしているので大丈夫だろうと考える。


「エルバト・スキート」

「はいっ!!」

「貴方に道具屋の店主を任せます」

「分かりましたっ!頑張ります!!」


エルバトもマジカルアイテムに関しての知識があるようだったし、街で暮らしてもらう事が決まったあと私に道具屋をこっそり志願していたのだ。

8歳の子供に店をまかすのはどうなのだろうかと思ったが一応従者なので空気の読めない発言は多いが、どうやら普通の8歳の少年とは違うようだった。

それより不安なのはアイテムを使って実験してみる事が好きだと言っていた事だ。……少々嫌な予感がする。


「以上の5名にはさっきも言ったけど街で暮らしてもらう事になる。けど、居住の方は魔法で部屋自体を広く出来るみたいだからそんなに荷物が多くても大丈夫だと思うよ。もし自分だけで対応出来ないことがあったら私に相談してね」

「畏まりました」


エンドが代表して返事をする。

あとは残り3名。


「そしてテゾール・ゴルド」

「はい」

「貴方に宝物庫の管理を任せます」

「承知致しました、お任せ下さい」


彼は価値のあるマジカルアイテムや、武器や防具、とりあえずRank4やRank5の高価なアイテムが好きなようだ。硬貨を数えるのが得意だと言って金貨、銀貨、銅貨を驚きのスピードで仕分けたあとキレイに並べ、指でなぞっただけで何枚あるか把握し合計金額を当てた時はそれはもう驚いた。これはアビリタではなく本当に彼のただの特技らしい。


「ヴィゴーレ・アルマ」

「はっ」

「貴方に城の兵士達をまとめる将軍を任せます」

「ご期待に応えられるよう、努力致します!」


彼女は努力家で真面目、そして指揮能力もあるようなので兵士達の長に相応しいと判断した。戦う事が好きらしく、兵士達と模擬戦などが出来ればと思ったが実力差がありすぎて瞬殺で終わりそうだ。一応もしもの時に備えて従者同士での模擬戦も考えている。


「最後に、サージェ・ミタリー」

「はい」

「貴方に図書室の管理を任せます」

「承知致しました、どうぞお任せを」


図書室には膨大な量の本がある。彼は私がダウンしている間にその卓越した記憶力で図書室の本をあらかた覚えたと言っていたのだ。恐るべし頭脳派。それに本人も読書が好きだと聞いているので、最高の職場になるだろう。


「あと…サージェには悪いけど、参謀として私の傍についてくれないかな?負担が大きくなるかもしれないけど私も努力するから」

「畏まりました。私の負担などお考え頂いて大変恐縮です。恐らく私が貴方様と多くの時間を過ごせる従者になると思いますので誠に嬉しく思います。どうぞよろしくお願いします」


サージェの心底嬉しそうな、そして若干他の従者達に自慢しているかのような言葉に周りの従者が嫉妬の眼差しを向けていた。う、うーん…複雑だ……。


「さて、みんなの役職が決まったところで、発表!!サージェをリーダーとし、貴方達従者をキーパーソンと名付けます!」


ちょっと安直過ぎたかな、と皆の様子を伺うが賞賛の嵐だったため安心する。チーム名を決めたのはあった方が呼びやすいだろうと言うのと、ただ単に格好よいかもという考えからだ。


「我らキーパーソン、貴方様にご満足頂けるよう日々精進し、一層至大なる忠誠を貴方様に捧げる事を約束致します」

「うん、期待してるよ」


皆がより深く頭を下げ、私にその意思を示す。

視野を広げて欲しいと勝手に色々決めてしまったが、彼らにとっての本当の幸せとは何処にあるのだろうか。


「レナータ様?如何なさいましたか?」


少々空を見つめ思いふけってしまっていたようで、心配させてしまったが何でもないと答えておく。



今伝えることは伝えたので皆を解散させ、1人謁見の間でぼーっと考える。


「こんな王様でいいのかな……」


歴代のヴィシュヌ王や、他の王のことなどよく分からないが、自分の方こそみんなに相応しい王なのだろうか。

そう考えると嫌なことしか浮かばなくなる。いつか裏切られ、見捨てられるのではないか。私は本当に彼らを守れるのか。

腰にさげた、本来は体内にしまっておく神器に軽く触れ、今考えたネガティブ思考を全て内にしまい込む。

今の私を動かしているのは、彼らを守りたい、その気持ちだけだ。


プーッという音で私の思考は途切れる。誰かからメサージュで連絡が来た時の音だ。

ふぅっと一息付き玉座の背もたれに身を預けながら、はいと返事をする。


『レナータ様。ルイスでございます』

「ん、どうした?」

『実は今しがた会議の招待状が届きました』

「……え、会議の招待状?」


なぜ会議に招待状が必要なのだろう。舞踏会じゃあるまいし。

ルイスから話を聞くと、運命に選ばれし王は5年に1度集まり会議を開くらしい。議論する内容ははもちろん我々の目的である宝についてだ。

だが、歴代王達はとても仲が悪く会議がまともに出来たことはあまり無いとのこと。


「私以外の運命に選ばれし王ってどんな人?なん100年も王様やってましたとか威張られたりしたら怖いんだけど……」

『いえ、それでしたら問題ございません。現ブラフマー王様とシヴァ王様もレナータ様と同時に即位されましたので』

「それって……前王はみんな同時に亡くなったって事?」


そう言えばイデアーレのクリファス前国王は亡くなる前に何処かへ出かけたと言っていたなと思い出す。

もしかして、他の王に会いに行ったというのは、運命に選ばれし王の事ではないのだろうか。


『レナータ様にはまだお話出来ていませんでしたが、クリファス殿下の死因は毒死でした。どうやら他の王達と祝杯を挙げた際に毒を盛られたようです』

「祝杯?何を祝ったの?」

『宝を探すためにお互いが協力し合うと協定を結んだ事に対してだと思われます。某もその事に関しては、失礼を承知でクリファス殿下の日記を読んで初めて知ったのです』


毒対策など容易いはずの王たちがそれを出来なかった理由。探偵などでは無い素人だがある程度は予想が付く。


「3人同時に亡くなったっていうのは…もしかしてお互いに毒を盛って殺そうと企んでたってこと?」

『はい、そうでございます。運命に選ばれし王が亡くなった際、ご遺体は塵ひとつ残さず消滅してしまうので詳しくは分かりませんが、それぞれの杯に毒が付着していたという状況を見るとそうだと判断致しました』


表では仲良く協力しようと謳ってその裏で全員が裏切ろうと目論んでいたなんて、人は怖いなと思う。

協定を結んだ以上、それを祝うための祝杯に毒が盛られていないか確認するというのは裏切り行為だと思われる可能性がある。その為誰も確認せず、というか確認したくても出来なくてポックリ逝っちゃったのだろう。

それよりも私が死んだら塵ひとつ残らないとか聞いてないぞと心の中で叫ぶ。


「とりあえず、会議には出席するよ。それでいつ頃?」

『1週間後にございます』

「1週間…分かった。ありがとう」

『詳しくはサージェ様にお伝えしておりますので』


了解、と返事をしメサージュをきる。

やっと一息つけると思っていたが王に休息は無いらしい。


「あ~、これから忙しくなるぞぉ!!」


誰もいない謁見の間に、私の愚痴が大きく響いた。

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