スタンクステンツヴァイ

エリー.ファー

スタンクステンツヴァイ

 殺し殺され、というようなそういう話をしようと思う。

 そのために、殺人を犯すようなそんな間違った人生は歩むつもりではない。

 あくまで、これは起きたこと。

 すべては過去のことだ。

 悔いてはいないが、だからといって何かという訳でもない。

 過去に起きた事実のみが今を語るのだ。

 嘘じゃない。

 本当のことだ。


 私は自分の知る限り、余りに無知であって、そのことを恥じる機会に恵まれていなかった。そんなことだから、殺人も十分犯してきたし、それを誇ってもいた。あくまで、若い頃は、ということである。

 だからこそ、これはあくまで昔の話なのだ。

 誰かに語る、であるとかそのことにピントを合わせて、自分なりに考えたということではない。

 私が私を語る上で必要な要素としてただ上げ連ねようとしているだけである。

 本当だからこそ、胸に迫る物語というのはある。

 その中の一つだと思って欲しい。


 よく、昔は悪いことをした。などと語る人間がいる。

 大きな間違いであると私は知っている。

 昔行った悪いこと、というのは永遠に消えてはなくならないものである。

 そうであるからこそ、若い頃というのは、そういうものに手を染めようと躍起になるのである。

 そこに、魅力を感じてしまうのだ。

 私はそのことを語るためにここに来たのだ。

 誰もが私の話を聞きたがる。

 私は。

 私は、避けてきたのだ。

 もう、よそう、と。

 やるだけ無駄だと。

 語って、何が残るのだ、と。

 けれど、人々は聞きたがる。

 そういうものを人は求めるのだ。

 私はいつも求められる存在だ。

 悲しいことにその役を皆が求めてくるのだ。


 語る語らないにかかわらず、私は自分の人生を誰かに伝えなければならない。

 それは多くの過ちを繰り返してきた自分にできる、償いの形なのである。時間が足らず、しかし、それでも時間の中でしか生きていくことのできない、人生への少しばかりのアンチテーゼ。その姿を言葉に込める。

 多くを語る気はない。

 しかし。

 語る語らないという思いだけで終わるものではない。

 誰かの中に、私の言葉が残り、その言葉が少しずつ増幅し、最後には溢れて誰かの胸へと飛び込んでいく。

 そのような瞬間を作り出す私でありたいのだ。

 本当だ。

 嘘ではない。

 私は嘘はつかない。

 今までの経験もすべて本当だ。

 だから、お願いだから。

 私は本当に少しだけ自分の生き方を大切にしようと思う。

 これは、私だけの物語だ。

 私だけが知り、私だけが大事に抱えることのできる物語だ。

 

 私はもう長く沈黙していた。

 誰とも喋らない。

 誰にも語らない。

 誰でもない存在となる。

 そう、決めたのだ。

 私は私のことを少しだけ素晴らしい人間であると思って嫌のかもしれない。ナルシズムの中にいるのも悪くはないと、本気で思ったのだ。

 哀れだと自分でも思う。

 けれど。

 それでも、人は寄って来る。


 別に話したいという訳ではないのだ。

 けれど、皆が求める。

 今日に限っては誰も求めてくるようなことはなかったけれど。

 しかし。

 油断はできない。

 どんなタイミングであろうと、人は話を聞きに来ようとするのだ。余りにも問題がある。私にも私の時間があるのだ。

 だからこそ、そういう時にはある程度モラルというものを持ってほしい。

 今。

 今、この瞬間であれば。

 私は対応することは可能である。

 話をすることはできるだろう。

 できる。

 今なら、直ぐに話をすることができる。

 聞きたいか。

 聞きたいのか。

 聞きたいのであれば、私に頼んでくれれば話そう。そんなにも求めるのであれば、しょうがない。話すことは一応は可能だ。

 話してほしいか。それならば、話すが。別に話してほしくないのであれば話さない。

 無理に話すようなことはしない。

 聞きたい訳では。

 聞きたい訳ではないのだな。

 そうか。

 そうか。

 しかし。

 今なら話してやってもいいが、どうする。

 聞くか。

 今ならいいぞ。

 今なら。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スタンクステンツヴァイ エリー.ファー @eri-far-

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ