第十二話 本は見守り、俺は戦う

さっきまで舞い上がりまくっていた砂埃が段々収まってきて、炎の書の輪郭が見え始める。


殴りかかればいいのか、そんなことしたら死ぬんじゃないか。不安が立ち込める。でも、水希があそこまでできるなら自分にも。そう言い聞かせて一歩を踏み出す。




「ああぁぁ!!!クソがぁ!!どいつもこいつも生意気だぁ!!俺より強い女?!許せねぇぇ!!」


相当ご立腹のようだ。前回は先輩に能力で負かされて今回は水希に体術で実力負け、と。


男として悔しすぎるよな。大いに分かる。


敵ながらに同情していたが、向こうはそうでもないらしい。女どもの仲間というだけで憎いのだろう。




怒りに身を任せて一発腹にぶっ込んできた。


「ぐえぁ……!」


情けないのは分かっているが鉄人ではない。酷い激痛と共にワールドの壁まで吹き飛ばされる。


背中にも来る痛み。正直人生で2番目ぐらいに痛い。




「おい、クソ坊主。てめぇは俺を楽しませてくれんだろうなぁ!!」


いつの間に近づいてきたのか、そんな事考える暇もなく胸ぐらを掴んで宙に浮かされるとそのまま地面に叩きつけられた。




少しの間呼吸が困難になる。声が出ない。もがき苦しむ事が出来ないぐらいの衝撃だ。


「ぐぁ、はぁあぁ。負けてられるか……」


力を振り絞って手を伸ばす。炎の書の手を掴んで下に自重をかけるもののびくともせず、足で盛大に蹴られた。




「何してんの琉夏!!!具現化して!武器を作って戦うの!!」


水希のアドバイスが聞こえた。


そうか、具現化だ。俺は体術は出来ないけどそれなら出来るんだ。たった一回しかやった事ないが今は死活問題。なんとなくでもやってやる!!




何処からか希望が見えたような気がして、よろよろと立ち上がる。


「ただの人間のくせにまだ立つのか?死にてぇのか?まぁ、毛頭その気だがな!!」


また尋常じゃない脚力で殴りかかってくる。




「くらえぇ!!具現化!!剣!!」


右手を突き出して唱える。あの時と同じく青色のエネルギーが手の前に集まり、焦る気持ちからピンポン球ぐらいの大きさでそれを握った。




爽快な音と共に、気づくと剣が握られていた。


想像した通り、ファンタジー世界の人間が使うような代物だ。本当に“イメージ通り”になんでも作れるのか。




あの時よりも大きく体に圧がかかったような気がしたが既にボロボロの体にはなにも変わらない。


目を瞑って大きく剣を振った。


鈍い音が耳に入る。


目を開けると炎の書の頭に剣の平たい所が当たっていた。そして重さに耐えれず地面に剣先が突き刺さる。




「生意気な!!」


痛くもなかったのか、その姿勢を立て直して拳が飛んでくる。


だけどこっちは剣がある!!バカが!!


「甘い!!」


あれ?


気づいたら俺は殴られていた。顔面直撃ストレート。華麗に宙を舞って呆気なく地面に落ちた。


剣はビクともしなかった。地面に突き刺さったまま上に持ち上がらなかったのだ。




「バカ琉夏!!本物イメージしてどうすんの!!」


罵倒が飛ぶ。そう、ご都合主義じゃねぇんだ。剣っていうのは重い。クッソ重いんだ。だって鉄の塊なんだもん。


それが剣のイメージとして固定されていたんだ俺の中で。




で、この結果に至ったと。


「俺によくも一発当てたな。人間風情に当てられるとは思ってなかったぜ。だけどな、我慢の限界だ。ここで死ね。」


炎の書は地面に右手を突っ込むと、体に纏っている炎の火力をあげて高らかに唱えた。




「燃え尽き、消し炭になれ!!炎柱!!」


その瞬間、琉夏の倒れ込む地面が隆起し、炎の大きな柱が天まで貫いた。




その炎は地面一帯を焦がした。軽く瞬間的な温度は数千度は超えるであろう。普通の人間ならば一瞬で蒸発する。




戦いは、幕引きか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る