第十三話 本は砕け散る

先ほどの光景を目の当たりにして、反射的に彼の名が出る。


「琉夏?!!」


「琉夏君!!!」


望も水希も驚きの声を上げて唖然とした。




「嘘……でしょ」


「っ!!なぜ止めなかった!!既にボロボロだっただろう!?」


望は水希の肩を強く揺らした。


水希の顔色はとても優れず、絶望に打ちひしがれている。




「あのままじゃ……あのままじゃダメだと思ったからだよ!!戦えないと意味ないでしょ!?」


怒りも混じっていてそれが一体何に怒っているのか、本人達も分かっていない。


水希は止めなかった。望も占いの書も手助けせず、心配はしていたものの見ていただけだった。


誰も、責められる状況じゃない。




「あははははは!!!ザッコ!!能力たった一回で本当に消し炭かよ!!」


顔を抑えて高々と笑う炎の書。煽りが止まらない。


だが、そんな彼の顔スレスレを何かが横切った。


地面に落ちたのを見ると、ナイフのような物だ。


「あぁん?」




炎柱が起こした砂の舞上げと煙が薄くなるその先に答えはあった。


「危ない所だったわぁ」


にやりと笑う。そして唱えた。


「具現化、視界良好」


エネルギーの玉を握る。すると砂埃が辺りが一気に透き通った。




「さぁて、リベンジといこうか」


望、水希共に驚く。


「な……どうやってあれを防いだんだ。」


「……琉夏っ!!」




なんか主人公っぽいわー。正直死んだと思った。でも、体が勝手に動いた。


あの時、炎が地面から出てくるほんの一瞬のことだ。頭に声が響いた。




(おい!!ボケナス!!変われ!!)


聞いた声だ。夢の中で聞いたあの声にそっくりの声だ。


変われ。その言葉を聞いた後に体が勝手に動いて、具現化でバリアを体の形スレスレに張ったのだ。勿論自分の意思では1ミリたりとも考えてない。




バリアなんて小学生の鬼ごっこぐらいでしか聞かない。そんな非科学的なものまで簡単に作れるのに驚いた。


そこからは簡単だ。戦い方を教えてもらった。最初から最後まで。




(いいか、わしはまだ表には出れん。今回も応急的に出てきただけじゃ、よく聞け。具現化はこの世にあるない関係ない。基本の戦い方を教えるからその通りにするのじゃ)




「ほら、こいよ?」


「クソ野郎!!俺様を煽るなんざ、何千年早いんだよ!!炎拳!!」


まんま燃え上がる拳だ。それが自分めがけて飛んでくる。




「具現化!!剣!」


見た目は同じものをもう一度作り、その拳をはたき落した。


今回は軽い。物質なんて関係ない。そう、竹刀ぐらいの重さの鉄の剣を作ってやった。




敵は怒りが収まらない。少し後ろに飛んで距離を取ると両手を地面に突き刺し、大声で唱えた。


「俺以外は消えろ!!百炎柱!!」


俺めがけて右左交互に炎の柱が立っていく。


そんなの意味はない。基本を知った俺にはね!!




「具現化!身体強化、足!!」


エネルギーが両足に絡んでゆく。地面を強く踏むと、爽快な音が出た。


そして一気に足が軽くなる。否、軽くなったのではなく筋肉を強制的に発達させて瞬発力、脚力を上げたのだが。




その足は敵の脚力を圧倒する。炎柱の隙間を素早く通り抜け、発達したその足で炎の書を大空に蹴り上げる。


それに合わせて自分も大ジャンプ。地面がなければ炎は使えない。敵の動きからそう察していた。




そして特に型などもなく、無造作に剣を振った。


体、特に胸のあたりに当たるよう意識した。


理由は弱点だ。


(基本はこれでよし。後はとどめをさすためにどうしてもやらなきゃいけないことがある。それがコア、弱点を剥き出しにすることじゃ。あいつの場合は胸。そこを削っていけば、占いの書が一発でコアを出せる)


これが教え。あとのフィニッシャーの為にもこれは必要だ。




滞空中は独壇場。徹底的に切り裂き、ある程度で高く剣を振り上げる。


「落ちろぉぉぉぉお!!!」


力いっぱい腹に剣を叩きつけて地面に急落下させる。


砂埃が舞い上がり、落ちた所の地面が割れる。




それを見届けた水希は占いの書にアイコンタクトを送る。


うまく伝わったのかこくりと頷き、望の裾を引く。


「望、今です!」




それを聞いて望は少し緊張を覚えた。


だが、彼が生きていた以上格好をつけなければいけない。覚悟を決める。


「よし!!トドメだ!!」


両手の親指と人差し指を合わせて三角を作る。


そして深呼吸して目を見開いた。さっきと違い、真剣な顔つきだ。




「当たるも八卦当たらぬも八卦……」


その言葉と共に両手の前にサークルが現れる。魔法陣だ。


「その無意味な怒りを沈めよ!〈光線〉!!」


強くそう唱えると魔法陣の端から溢れるぐらい極太のレーザーが放出された。




あれに巻き込まれたらひとたまりもないだろう。


消し炭だよ消し炭。


かという俺はどこにいるかだが、空に浮いている。


正しくは具現化で羽を自分につけて飛んでいるのだが。




頭上から下の様子を見ていたが凄まじかった。


極太のレーザーは衰えを知らず、ワールドの壁に当たるまでその太さを維持していた。


砂埃も勿論立つのだがそれすらレーザーが焼き払う。だから上空からの見物は一種の映画を見ているようだった。




エネルギー効率が悪いのも分かる。というかそれに尽きる攻撃だった。

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