第十一話 本と戦いを始める
暗い廊下をしばらく走ると外の光が微かに小さな窓から覗いていた。
前に見える扉は閉まっているのに先輩は減速することなく突っ込んでいく。
扉から数メートル離れたところに先輩が差し掛かったとき、扉が勢いよく自動的に開いた。
爽快な音とともに外の光が一気に中に取り込まれる。
どんな自動ドアだよ。
「あぁ……。この間は邪魔な女に負かされかけたからなぁ。今日こそこの校舎を炎で燃やし尽くしてくれるっ!!!」
炎を纏った男は手のひらで火の玉を転がしながら物騒に語る。
「んん?おぉ、肩慣らしに丁度いい人間がいるじゃねぇか?!」
目の前を逃げる零に視線を落とし尋常ではない脚力でその背後に追いついた。
首根っこを捕まえて零を足先一つ分浮かす。
「ぐっ……がぁっはっ……!離せぇっ!」
「あぁ!!もっと苦しめぇ……!なんだ、女って弱いんじゃねぇか!!!」
顔に沢山シワを寄せて悪魔のような笑顔を浮かべる。
そして高笑いを校庭中に響かせた。
「3日前に懲らしめたのにまたズケズケと出てきたのか!!生徒から手を離すんだ!ワールドオン!!」
「あぁん?!」
先輩が敵が目に入るなり瞬時にワールドを展開。
ワールドが俺たちと敵を囲う前に水希は飛び出し、炎を纏った男に飛び蹴りを食らわせた。
「その子を離せぇ!」
首筋にダイレクトキックが決まり、ぐぇっ!という汚い声と共に男は零から手を離す。
そこから地面に崩れ落ちた零を抱えて男から遠いところ、ワールドの端に大ジャンプした。
「がはっ……転校生ちゃ……ん?」
「歩けるよね?ここは危ない。早く校舎に逃げて」
「……今回は言うこと聞いてあげる。さっきの件は後で決着つけるから」
「あー。うん」
零は水希の腕から離れるともたつきながらもワールドの外に逃げていった。
「よし、一般人はいなくなったし始めようかぁっっ!!」
首に相当なダメージが入ったのであろう起き上がらない敵を、大ジャンプでさらに踏み台にして水希がこちらへ戻ってきた。
敵の口からは微々たるほど小さな声で嗚咽が聞こえた。
「ふむ。弱っているうちにとどめといこうか。当たるも八卦……」
「先輩ストーップ」
先輩が突き出した両手を水希がチョップで下に落とす。
「なんだい?君は今がチャンスと思わないのか?」
「先輩さぁ、3日前にもあいつと戦ってるんでしょ?」
「ん?あぁ。」
「攻撃、何発撃った?」
「3発かな」
「そんな無茶な……。自分らのエネルギー効率が悪いことも攻撃の役割が違うことも分かってるんだよね?」
先輩は首を傾げた。
「なんだ?攻撃の役割って?」
その言葉を聞いて水希は少し怒ったような顔で占いの書に視線を向ける。
「説明してないの?」
ちょっと低くなった声が強い威圧感を感じさせる。占いの書は目をそらして俯き加減でこぼすように言った。
「私たちしか、いなかったので……」
「………。とにかく、琉夏も含めて説明しておいて。私はあいつを止めとく。」
急に攻撃の、腰が低い姿勢になるとぴったりのタイミングで敵が首を抑えながら立ち上がった。
「この……クソあまぁぁぁ!!!」
殴りかかってきた敵の手をいとも簡単に掴むと足を軸にして右手側に力一杯投げた。ワールドの壁に当たって校庭の砂が舞う。
「急いでね!」
そう言い残して、自分も右手側に走っていった。
占いの書はなにか不都合なのだろうか、ゆっくりとこちらを向くが少し口を結ぶ。でもすぐに覚悟を決めて息を深く吐くと話し始めた。
「えっと、簡潔に言います。私たち本にはタイプがあります。契約者または本のみが力を使うことができる単性、どちらとも力が使える双性。そして、アタッカー、サポーター、フィニッシャー、例外にオーラー。」
はー、まるでゲームだな。アーケードゲームとかによくありそうな設定だ。
「ちなみに琉夏さん達は契約者のみが力を使える単性で、オーラーです。一人で先ほどの役割を全てこなせます。」
「ん?それでは私たちは?」
先輩の疑問にうっ……。と言葉を詰まらせる。
「……フィニッシャー。一発が強烈な代わりにエネルギー消費が極めて激しく、最後の最後に敵のコア、弱点を表面に出すための役割です。」
なるほどな。それはつまり不安定な契約状態なのにエネルギー消費が酷い力を前回通常攻撃と同じように何回も打ち込んだわけだ。
当然占いの書はボロボロになるだろう。だが、自分たちしか戦える人がいなかったのもあり、先輩に余計な心配をかけないよう喋らなかった、というあたりだろうか。
「はぁ、私への気遣いは嬉しいが、そういう事はちゃんと言ってくれないと困るな……。」
「……ごめんなさい。」
この問題は解決なんだろうか?というか、右と左の温度差が凄すぎる。
そう、俺を挟むようにして右、バカスカと戦う水希。左、互いに反省するペア。なにこれ。
というか水希は能力使えないのになんであんなに強いのか。基礎体力がやはり違うのだろうか……。まぁ後で聞こう。
そんな呑気に考えていると水希が吹っ飛んでくる。
いや、正しくは自ら地面を蹴って突っ込んできたのだ。
反射的にその体を抱き止めると背中から地面に擦り倒れた。
「いったすぎるぅ……!!」
絶対背中血だらけ。もうそんぐらい痛い。
「はぁ、はぁ。ナイスキャッチだけど情けないぞぉ?さ、説明聞いたでしょ?私は非力なの。頑張ってご主人様。」
何を頑張れと。背中痛すぎて話になりませんぞ。
水希は起き上がると俺の手を勝手に取って起こす。
「背中スリスリして回復してあげるから、実践だよ」
言いながら背中をさすってくる。やはり凄い。触られているだけなのに痛みが引いていき、ほんの少しでなんともなくなった。
「あいつは炎の書。火を使う攻撃ならなんでもできる。気をつけて。」
優しく耳打ちしてくれた。それだけ伝えるとゆっくりと後方へ下がって行く。
やるしかねぇのかぁ。正直分かんないし怖いけどやってやる。どこまで行けるかはお楽しみだ。
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