第13話 空の旅

 空を飛ぶのは何度目か分からないけれど、風を感じながら空を飛ぶ、つまり剥き出しの状態で空を飛ぶのは初めてだった。

 下からは見えないように靄は最低限の大きさで飛んでいる。

 そのせいでスリルが物凄い。


 というのも、昨日から作戦を立ててどうしたら靄を利用して住民にバレずに、なおかつ安全に移動できるかと考え、計算して見つかった答えがこれだった。

 黒い靄と言うか、もうこれは上に乗れている時点で靄ではない気がするのだが。


 密度で言えば、とても小さい。軽い方が飛ばすのに必要な魔力が少なくて済む。

 それに密度が小さい方が下から見て影が濃くならないような仕組みになっているので、一挙両得だ。


「風が涼しいねー」

「エリシア……その、密着するのはやめて欲しいんだけど」

「だめっ。だって怖いもん!」


 後ろから体重を乗っけてくるせいで、僕よりも温かい体温とどことは言わないが柔らかさが伝わってきて恥ずかしい。

 顔が真っ赤になっている僕を見て、くすくすと笑う姿は悪戯好きな少女のよう。

 ついさっきまで姫として振舞っていた人とは思えない。


「はぁ……エリシアは美人としての自覚をもってよ……」

「びっ、か、揶揄うんじゃないよっ!」


 いや揶揄ってないですけど、寧ろ揶揄ってきてるのはそっちでしょ、と言おうとしてさっきの自分の発言に気づき、はっとした。

 瞬間、顔がゆでだこのように真っ赤っかになった。ここまで真っ赤になったのは初めてかもしれない……じゃなくて。


 こんなに真っ赤になってたらまたエリシアに揶揄われるに決まってる! 余裕の表情でくすくす笑う様子を脳内に思い浮かべ、恐る恐る横を見ると。

 あらびっくり、エリシアはエリシアで負けず劣らず真っ赤になっているではありませんか。


 姫だったわけだし、こんなお世辞何回も言われてるはずなのに。

 不思議に思っていると、エリシアの首がぐりんとこっちを向いた。


「お世辞かお世辞じゃないかくらい分かるよっ」


 もう心を読んでくるのにはツッコまないことにするよ、うん。

 何か恋人とイチャイチャしたような気分になって浮かれつつも、やっぱり気恥ずかしくて。

 会話の糸口を見つけられず、空白の時間が過ぎたのち。


 大陸が見え始め、旅の目的地が見つかった。と同時に気まずくなっていた僕らの間にやっと言葉が生まれた。


「あ! チナ王国だ!」


 チナ……? ああ、チャイナか。

 僕らの旅の始まる新天地に、僕は密かに心躍らせた。

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