第11話 脱獄
その場所に日光が届くことなどなかった。
風も吹かず、ずっと灯り続ける人工的な光が時間の感覚を薄れさせていく。
娯楽などあるはずもなく、周りを囲む壁は世界一固い金属と言われるアダマンタイトでできている。
そこは、何もない虚無の空間。終わりの見えない、人によっては地獄よりもなお辛いとすら感じそうな空間だった。
「あーあ、捕まっちゃったよ」
「ふふっ、でも私は首輪がとれて嬉しいですっ」
弾んだ調子でそんなことを宣うのはエリシアさんだ。僕が助けた後魔力切れで昏睡状態に入るときには、心配する声が遠ざかる意識の狭間で聞こえたものだったが、今はもうこの調子だ。
「どうしますか、逃げますか?」
「それなんですけど、もうお互いに敬語を使うのやめましょうよ」
「どれなんですか。まあ、僕はいいですけど」
王女として平民に、あるいは奴隷になりそうだった奴にタメ語で話されることに対する抵抗はないのか、と訊こうとしたけどやめた。
首輪をつけられている時点でプライドは相当ズタズタだろう。それに、もとより彼女がタメ語を望んだのだ。
「じゃあ決定ね。早速脱出しよー! おー!」
「しぃーーーっ! 大きい声で脱出とか言ったらだめだって!」
首輪を外した瞬間に人ってこんなにキャラが変わるものなのかね。
でも、それは今まで首輪が彼女を強く縛り付けていたことの裏返しでもある。
彼女の苦労を思えば、僕の苦労なんて大したことがない。今からすることだって彼女のおかげで簡単になった。
「そーだよ! 私が『この人には魔力が覚醒したみたいです』って言ったから閉じ込められるくらいで済んだんだもん」
そう。ナチュラルに心を読んでくる点は怖いが、彼女が国王に魔力が目覚めたみたいだと嘘の報告をしたことで、今僕はここに居る。
この国で唯一他人の魔力を視認できる彼女だから吐けた嘘。僕に魔力なんて目覚めてはいない。
「僕の『
「うん。私もそんな魔力があるなんて初めて知った」
僕の魔力はこの世界にはない魔力。その魔力を手に入れられたのは、恐らく実験によるもの。
そしてその魔力が生み出されているのは、体の変色した部分。実験によって変色した体の一部分だった。
「だから、こんなことだってできる」
僕は今手錠をつけられている。当然と言えば当然だが、残念ながら僕はこの魔力を封じる手錠を外すことができる。
手から黒い靄が伸び、手錠を溶かしていく。それはエリシアの方へも伸びて行って、彼女の手錠も外した。
この黒魔術とは便利なもので、攻撃する対象までもを指定することができるのだ。
エリシアはんぅっと伸びをした。囚人用の服ではお腹が見えてしまうのでやめてほしい。こちとらまだ思春期の少年なのだ。
そんな僕の心情を知ってか知らずか、エリシアはなぜか、淡々と自己紹介を始めた。心機一転、というやつだろうか。
「私は元ジパング帝国第一王女エリシア=ジパング。そして今からはあなたの旅について行くパートナーですっ」
その綺麗な、照れくさそうな微笑はきっと一生忘れられない。
早速壁を溶かし、外の世界の光を浴びる。旅立ちの日にふさわしい快晴だ。
————僕たちの旅が、今始まる。
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