第8話 黒魔術

 これほどまでに首輪が強力なものだと知らなかった。

 堂々と宣言した僕を他所にどんどん彼女の首輪は締まっていき、いくら全力で首輪を壊そうとしても壊れてはくれなかった。


 それならばと僕が首輪の主である王に首輪をさっさと外せと襲い掛かってみたはいいものの、横からすっと現れた近衛騎士たちによって攻撃を阻まれてしまった。

 僕に打てる手など、もうなかった。


「こんな風に自分の娘を殺して、何とも思わないのか!」

「私は一国の長である身。国家の秘密を守る方が優先事項だ」


 ふざけやがって。何が国家の秘密だ。

 体中を駆け巡る怒りは、吐き出しても吐き出しても近衛騎士を倒すことにはつながらない。僕の全身全霊をかけての攻撃はまるで効いていないようだった。


「君が倒されるのも時間の問題のようだ」

「はや……にげ……」


 エリシアさんはもう言葉を話す余力も残っていないようだった。このまま戦闘を続けても彼女を助けることはできないだろう。

 なら、今までとは違う何かをしなければならない。


 くそ。何も思いつかない。

 こんな状況で頭が真っ白になって、役に立たない。どうすればこの状況を打破できるかなんて考える余裕はなく、近衛騎士たちの相手をするので精一杯。

 だんだんと押されていき、壁が近づいてくる。


 と、そんな中で近衛騎士の一人の剣を弾くことに成功した。あの剣は当たり前だが特注で、間違いなくこの状況を切り抜ける鍵となるだろう。

 ここぞとばかりに駆け出し、剣を掴む直前————胴体が、ずれた。


「あ?」


 気づいたときにはもう遅い。ずれた胴体から血が噴き出し、言い表せないような痛みが全身を襲う。

 もう、ダメだ。もう、救えない。

 諦めるしかない。そう思った時、ぼやけた視界の端に、剣で刺されそうになっているエリシアさんの姿が見えた。


「やめろおおおおおおおお!」


 自分でも考えられないような大声が出て、同時に伸ばした手から何か黒い気体、あるいは液体が噴出して、剣を刺そうとした騎士を包み込んだ。

 その靄は僕の胴体もつつみ、そして僕のずれた胴体をつなぎ合わせた。


 騎士を包み込んだ靄が晴れると、そこには——ドロドロに溶けて腐った近衛騎士の死体があった。


《スキル:黒魔術を習得しました》



 そのとき、脳内に機械的な音声が響いた。

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