第4話 異世界

 僕は幼いころから変わった子だと言われてきた。時にはマザコンだのシスコンだのと言われたこともある。

 それを嫌がらないで誉め言葉と受け取ってしまうから、僕はまた変わっていると言われるのだけれど。

 

 でも、僕だってれっきとした男の子である。

 英雄にだって、勇者にだってなりたいし、世界を救うことだって夢見たりする。もちろん可愛い女の子と結婚だってしたい。

 そんな思春期真っただ中の少年が異世界に飛んだらどうなるか。


 結論。ガッチガチに緊張するに決まっている。

 何ならロボットみたいなぎこちない足取りで歩いているまである。


「あ、あの、エリシアさん。僕はこれからどこに行くんですか?」

「私はこう見えても姫なので。王に謁見しに行くんですよ」

「お、王様ですか⁉」

「ええ」


 普段は聞き慣れない響きにびっくりしてしまった。

 王への謁見なんて、まるで本当に異世界から召喚された英雄みたいだ。夢が膨らんで、代わりに緊張が薄れてきた。


 落ち着いた状況で辺りを見回してみると、周りには中世ヨーロッパにありそうな異世界らしい建物が立ち並んでいた。

 でも自動車は走っているし、文明のレベルは現在の日本とそれほど変わらないのかもしれない。


「色んな種族の人がいるんですね」

「ええ、人間に近いものだと、亜人や獣人、エルフが有名ですよ」

「わあ……何か、本当に異世界に来たんだなって感じがします」


 今まではあまり実感が湧かなかったけど、地球にはいない種族を見ると、異世界に来たんだなって感じがしてきた。

 しかし、そんな感動する僕の様子を見て、エリシアさん——お姫様は不思議そうに首を傾げた。


「おかしいですね。いつも日本人はエルフに関心を示すのですが」

「ああ……友達から借りた本にはきれいな種族って書いてありましたね」

「ふふっ……あなたは変わった人なのですね」

「よく言われます」


 苦笑しつつ、言葉を交わす。まともにしゃべれないほどにガッチガチに緊張していた最初からは考えられないような成長ぶりだ。

 と、そこで一つ頭の中に疑問が浮かんだので、聞いてみることにした。


「日本語が喋れるんですか?」

「ええ、ここは地球の上位世界。その日本に位置する部分ですから」


 何となく理屈は理解できた。もしかしたら、ここも日本と同じように島国なのかもしれない。文化は随分と違うようだけれど、共通する点もあるのだろう。

 そんなこんなを経て、遂に王宮に到着した。

 さっきまでの成長はどこへやら、僕は元通りにガッチガチに緊張していた。


 重厚な門がギギギと重そうな音と共に開き、その中にゆっくり足を踏み入れる。物凄く広い屋敷だ。


 ここから僕の華々しい異世界生活が始まるのだと思うと、体のぎこちない動きとは裏腹に、心は踊り始めていた。

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