第10話 真実
そんな不毛な日々を送っていたある土曜の昼下がり、僕は見てしまう。
小野崎学と慄木乃々華が、二人仲良く歩いている所に出会してしまう。
慄木乃々華は……小野崎学と手を繋ぎ歩いていた。
「え……?」
戸惑いを隠せない僕の表情なんてお構いなしに、彼らは笑顔で僕に手を振り話しかけてきた。
「豊本くん!久しぶりだね!えーと……三人で会った日以来だよね!?」
「あ……うん。」
「どうしたのでござるか? とよもっちゃん?」
「えーと、なにしてんの?」
二人は顔を見合わせ、頬を赤らめていた。やめろ。
「なんと言えばよいのでしょうか、この関係は……名状し難いのでございますが……」
「私と学くんね! 付き合ってるの!」
「ふぁっ!?」
「ごめんね。豊本くんにはすぐに報告しようと思ってたんだけど、学くんにね、とよもっちゃん今は忙しそうで当方等が邪魔をしてはいけない気がするのでございます。って、本当に優しいよね学くん! だから、豊本くんに暇が出来たら報告しようかなって思ってたんだけど……」
「い、いつから、付き合ってんの?」
「えーと、その……。」
なぜかノノちゃんは言い辛そうで、そして目を伏せてしまう。
そんな彼女とは正反対に、小野崎はあっけらかんとした調子で、普通に応えてくれる。
「三人で会った日から一ヶ月ほど後でござるよ! とよもっちゃんが帰った後、二人でお話に華を咲かせ仲良くなったのでございます! それから当方が運営するチャンネルの手伝いなんかもノノ殿は進んで手伝ってくれましてな! いやー! そんなこんなしている内に、ノノ殿に愛の告白をされたのでございまする!」
慄木乃々華は顔を赤らめながらに、一度コクりと首を立てに振っていた。そして小野崎の肩をちょんちょんと突きながら、「もう! 愛の告白とか恥ずかしいよー」なんて言って惚気ているのであった。
僕はその光景に拒絶感を抱いてしまい、遂には、ハヒィハヒィハヒィ。と過呼吸になってしまう。
――呼吸が上手くできない。苦しい。
「だ、大丈夫でござるか!? とよもっちゃん!?」
「と、豊本くん。えっ? どうしよう……救急車呼ぶ?」
視界をぼやけさせながらに、僕の事を心配する二人の顔を睨みつけ、そして吐く。
さっき食べたラーメンを盛大に吐きながら僕は呻くように、「う、うるせぇ。」と、心配し僕の側まで歩み寄り、背をさすろうとしてくる小野崎の手を払いのけた。
「えっ。」
「僕は、お前がッ大っ嫌いだッ」
周囲に吐瀉物をまき散らし、そしてその臭いは公害となっているが、しかし僕はようやく息を整えられる。
「な、なにを……急に……」
「最悪だよ。なんなんだよッお前ッ。ぶち壊しだよッ。バ美肉で忙しいっつってたじゃんかよッ。なんだよッ最近の更新頻度の下がりようはッそういうことだったのかよッ。慄木乃々華と乳繰り合ってたからかよッ。クソックソッ。僕の努力はなんだったんだよッ」
「いや、それは……。というか……努力とは?」
「お前のバ美肉ちゃんねる荒らしの事だよッ」
「あの非人道的劣悪なコメントは全部……。ひ、ひどいですぞッ豊本氏ッ。なぜにそんなことをッ。と、と友達だと思ってたのに……」
「うるせぇッ。慄木乃々華に好かれる事の全てが気に入らねぇんだよッ。それにッ僕はッお前の事を一度として友達だとは思ったことはッないッ」
「ぶ、ぶぉぉぉぉぉぉぉ」と、小野崎は泣き出した。
「んぐッんぐッ」と喉を鳴らしながら、僕も泣く。
慄木乃々華は、僕に一言「……最低」と呟いていた。
――ああ、そうだよ。僕は最低最悪の人間だ。でも僕をそんな人間にしたのは、君への愛故になんだよ。どうして分かってくれないのだろう。どうして理解してくれないのだろう。もう嫌だッ。
こんな世界、ぶっ壊してやるッ。
僕は、泣き続ける小野崎へと、指差し、怒鳴り叫ぶ。
「決闘だッ。ノノちゃんを、慄木乃々華を賭けた決闘だッ」
自分よがりにも程があった。
それは自分自身でも、十分なほどに理解していた。
でも、それが若さだ。と、そんな思い込みはイタいと理解しつつも、どこかでそう信じ込みたい自分がいた。
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