第2話 結婚できる?

どうすればいいのか分からない合コンは、やっと終わりを迎えた。

「この後、二人で呑みに行かない?」

「いいよ。」

友達は、合コン相手と二人で、呑みに行ってしまった。

更に友達の友達も、連絡先を交換して、ラブラブな状況に陥っている。


「俺達も、行くか。」

社長が話しかけて来た。

「いえ、滅相もない。社……」

社長と言う前に、片手で口を塞がれた。

「そうか。ワクワクするか。それはよかった。」

はああ?

「いやいや。それは社……」

「あっ、その店は嫌か。じゃあ、あっちの店に行こうか。」

そして引きずられるようにして、私は社長に連れて行かれた。

「よし。ここまで来たら、他の奴らにバレないだろう。」

勝手に息が上がっている社長を見て、呆れた。

「社長、どうしてそんなに”社長”って言う言葉に、過剰反応するんですか?」

「俺は、奴らの中では、ただのデザイナーだという事になっている。それに、社長ですなんて言ったら、女の餌になるだけだ。」

「ぷっ。」


なんで友達なのに、社長だって事隠してるの?

しかも女の餌って、餌!


「面白過ぎて、笑いが止まりません。」

「だろうな。おまえにとっては、異次元の話だろうし。」


異次元?

今度は、異次元!?


「あはははっ。ヒーヒー。」

私はお腹がよじれる程に笑った。

「おい、いつまでも笑ってないで、どっかの店に入るぞ。」

「あっ、待って下さい。置いて行かないで。」

足のコンパスが長いだけに、社長はいつの間にか、数メートル先にいた。

必死に追いついて、社長の背中にぶつかりそうになった。

「社長、危ないじゃないですか。」

「店、ここにしよう。」

看板を見ると、怪しい小料理屋さんだった。

しかも、お店の中は汚い。

「えー社長。ちょっと雰囲気が……」

「こういう汚い店程、料理は上手いんだよ。」

「そうだ、この先のイタリアンにしません?」

「おまえに、決定権はない。」

「そんな。」

ガクっときている私の手を引き、社長は小料理屋さんへと入って行った。


「順番に座って。」

店主の言う通りだが、空いている椅子は、真ん中の二つしかない。

しかも椅子は、ガタガタ言いそうな、古い丸椅子。

「いいなぁ。この店の雰囲気。」

「はぁ……」

子供のように目をキラキラさせている社長が、私にはもう分からない。

とりあえず、メニューはと。

見れば、ビールと日本酒しかない。

アンラッキー。

私、ビールも日本酒も、あんまり飲めないんだよね。

「ビールでいいか。」

「はい。」

社長はビールと、適当なおかずを頼んでくれた。


「で?なぜ合コンに来た?」

ストレートな質問に、私の心も踏ん切りがついた。

「……結婚相手を、探そうと思って。」

「東村は、いくつだっけ?」

「28歳です。」

「なんだ、もうそんな歳か。」


大好きなデザインに没頭していたら、いつの間にかこんなになってしまった。

仕事に集中していたら、彼氏もいないし。

仕事で成功している訳でもない。

「東村は結婚したら、仕事は続けるのか?」

「さあ、どうですかね。両立は難しいから、辞めるんじゃないですかね。」

そう、結婚相手の面倒を見ながら、仕事もするなんて、今の私にそう言うビジョンは見えない。

「仕事は、好きか?東村。」

「えっ?」

私は驚いて、社長の方を向いた。

「あっ、楽しい……ですけど……」

「だったら、結婚を考える前に、今の仕事に集中したらいいんじゃないか?」

なぜか、もやっとした。

「もちろん、婚活しているからって、手は抜きませんよ。」

「そうじゃなくて、仕事をもっと頑張れって事だ。仕事ができない奴は、恋愛も上手くいかないからな。」

胸がチクッとした。


「じゃあ社長は、仕事も上手くいってらっしゃるから、恋愛もさぞかし上手くいってるんでしょうね。」

嫌み半分に言ってやった。

「まあな。誰かさんよりは、上手くいってるよ。」

完全に、社長のペース。

「今は恋愛よりも、まず仕事だ。」

「余計なお世話です。」

私は財布からお金を出すと、社長を置いて、お店を出た。

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