第23話 偶然の再会
翌日、断絶の森を歩きながらレグルス、アグニ、レイダスは自分達が請け負った依頼内容に苦笑いを隠せなかった。
「昨日、あんなこと言ったのによ……」
「まさか依頼が被るとは驚きね」
「これも新鮮でいいのではないか? レグルスは初めて断絶の森で依頼を受けることから、お前達がいることで心強いことは確かなのだ」
リーダーの三人は目的地に向かいながら会話する。
もちろん先頭を歩く者として警戒は怠っていないが、この面子が揃っているのだから過剰な警戒は必要ない。
中衛、後衛担当のメンバーもそれなりに警戒しながらではあるが、会話に華を咲かせていた。
「そういえばレンヤって、どうして最初からクラスを固定してないの?」
フィノがふと思ったことを蓮也に尋ねる。
新進気鋭の三パーティをほぼ壊滅させた彼の能力は破格だ。
だというのに、何故最初から闘神なり剣聖を固定していないのだろうか。
「剣もそれなりで魔力障壁もそれなり、あとは魔法も使えるから中衛をするには便利だからだ」
対応力が高いと言えばいいだろうか。
前衛がいなかったり後衛がいなければ、最初からクラスを固定するのも有りだろう。
けれどフロストとフィノという優れた前衛と後衛がいる以上、クラスを固定している利点が薄い。
「レンヤは今、便利って言ったけど……固定すると便利じゃなくなるってこと?」
「その通りだ。クラスを固定すると飛躍的に実力が上がるメリットはあるけれど、闘神や剣聖で固定すると魔法が一気に劣る。そういったデメリットがある」
詠唱破棄した魔法での攪乱などが出来ない。
パーティとして考えた場合、クラスを固定することは正解ではないだろう。
「へぇ、そうなんだね。同時にクラスを使えたら剣も凄いのが使えて魔法も使えて便利なのにね」
「確かにな。それが出来るようになれば便利この上ない」
他にもアグニやレイダスの面々と雑談をしながら、今日の目的地に辿り着く。
今日は偶々、彼らで請け負える討伐依頼がなかったため、薬草採取が依頼だった。
「そんじゃ、さくさく採取して終わらせようぜ」
イグナイトの言葉に全員が頷くと、バラけて薬草採取を始める。
手際よく薬となる草を見分けていき、さくさくと引き抜いていく。
けれど二十分ほど経った頃だろうか。
不意に森の中が騒がしくなった。
森である以上、動物や魔物が生息しているのは当然だが、段々と響く音が大きくなっている。
蓮也は手を止めて音が響く方向に視線を向ける。
「何だか騒がしいな」
「ホントだ。複数の魔物が移動してるみたいだね」
近くで薬草を採っていたフィノも同意する。
話している間にも段々と音……というか地響きまでしてきた。
さらには草むらを掻き分けるようなものまで耳に届いてくる。
人間が襲われているのか? と疑問に思うと同時、二つの人影が蓮也達の前に現れた。
年若い男女は背後を振り向きながら走っており、前を向いた瞬間……蓮也達を見つけて足を止める。
しかも表情は蓮也を見て驚愕に染まっている。
「……か、風見くん!?」
「えっ? ……あっ、本当に風見だ!」
名前を呼ばれた蓮也は二人の顔をまじまじと見る。
そして思い当たる節があったのか、大きく溜め息を吐いた。
「……伊月と南か。そういえば、そんな顔だったな」
蓮也は二人のことを認識すると剣を抜いて突きつける。
行動を察したフィノも警戒に移った。
「ディリル王国の〝勇者〟が、どうしてここにいる? 境界は曖昧だとはいえ、ルフェス王国近辺にお前達がいる理由はなんだ?」
断絶の森に明確な国境はない。
だが蓮也達がいる場所はルフェス王国近辺の断絶の森であり、決してディリル王国に近い場所ではない。
フィノも蓮也の言葉に眉を寄せる。
「……〝勇者〟? この人達が?」
「その通り。この二人は隣国の〝勇者〟だ」
蓮也とフィノは唐突に現れた伊月と南を警戒するが、彼らにとってはそれどころではなかった。
「ま、魔物に襲われてるの!」
「たくさんいるんだよ!」
「魔物? それで〝勇者〟のお前達がどうして逃げてる?」
意味が分からない。
仮にも勇者であるのなら、どうにかして倒せばいいだろうに。
「不味いよ、レンヤ。たぶんこの音、二人を追ってきてる」
「……面倒なことになってるな」
フィノの言葉に蓮也は舌打ちする。
すると異変に気付いたフロストが蓮也に声を掛けた。
「レンヤ、どうしたのだ?」
「緊急事態だ。複数の魔物がこの二人を追っていて、会敵しそうになってる」
簡単に状況を説明すると、フロストはアグニとレイダスの面々をすぐに集めた。
そして蓮也は彼らにも同様の説明をしながら確認を取る。
「フロスト、どうすればいい?」
「……どうする、か。我々が揃っている以上は逃げるより戦ったほうがむしろ安全だろう」
「そうか。だとしたらフィノともう一人、悪いがこの二人を監視してくれるか?」
蓮也がくい、と伊月と南を指し示す。
「私は見知らぬ顔だが……レンヤの知り合いか?」
「ああ、この二人は隣国の〝勇者〟だ」
「……なるほど。レンヤを見捨てた連中なのだな」
フロストの表情が僅かに険しくなる。
イグナイトは二人のやり取りがどういったものかは理解出来ていないが、それでも蓮也のお願いに頷きを返した。
「よく分からないけど、魔物を引き連れといて味方と断じることは出来ないのは当然だな。いいぜ、俺のところから一人出す」
「上にいる死喰い鳥とも連携しているみたい。そっちは中衛と後衛だけで何とかなるわね?」
ラクティが上空を見ながら指示を出すと、アグニとレイダスの中衛と後衛は任せろとばかりに胸を叩いた。
それと時を同じくして、伊月と南をのことを追っていた魔物も姿を現す。
「これはご丁寧に、四体も到着だぜ」
「オークキングにジャイアントオークが三体ね」
上級の魔物が一体に中級の魔物が三体。
イグナイトとラクティが剣を抜き、フロストも剣を抜きながら指示を出した。
「レンヤ、オークキングは任せた。ジャイアントオークは私とイグナイト、ラクティで相手をしよう」
蓮也は頷きながら三人に声を掛ける。
「オークキングを倒したら、危なそうなところから助けに行く。それでいいか?」
彼らの実力であれば負けることはないだろう。
けれど念には念を入れるのが冒険者という職業だ。
だというのに三人は顔を見合わせると、
「最後でいい」
「最後でいいぜ」
「最後でいいわ」
ライバル心を剥き出しにしながら、各々がジャイアントオークに斬りかかった。
蓮也は三人の姿を仕方なさそうに笑うと、オークキングを真っ直ぐに見据える。
そして、
「スロット――〝闘神〟」
小さく呟いて、一直線にオークキングに突っ込んでいった。
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