第18話 ルレイの提案





 蓮也が言葉を失うどころか、思考停止にまで陥った数時間前。

 ルレイ達は蓮也を図書室に放り込むと、王城にある会議室……ではなくサロンに顔を出した。

 そこには手紙を出したアライル以外に、国王陛下に王妃がテーブルに着いている。

 加えてルフェス王国第二王女までもが、ルレイの登場を待ち構えていた。


「おやおや、お揃いで迎えてくれるとはね」


「三英雄の一人が王城に顔を出すことすら三年ぶりのこと。我らが出迎えるのは当然というものであろう……と言いたいところだが、今朝方アライルにルレイの訪問があると聞かされてな。慌てて時間を作ったのが実情だ」


 ルレイは王族を前にしても変わらず、いつも通りの態度。

 しかしルフェス王は見咎めることもせず、ルレイをテーブルに招き入れる。


「それはそうと久しいな、三英雄の一人である賢者よ。息災であったか?」


「まあね。国王陛下もご健勝のようで何よりだよ」


 ルレイは椅子に座り、フロストとフィノは背後でルフェス王に片膝を着いた。


「お前達も、この度はよくやってくれた。話し合いを会議室や謁見の間ではなく、ここでやるのはお前達を慮る意味もあってのこと。肩肘を張らずに会話してほしい」


「ありがとうございます、国王陛下」


「ご配慮、感謝致します」


 恭しく二人は頭を下げてから立ち上がる。

 そしてルレイの背後で直立の姿勢を取った。

 肩肘を張るなと言った側から、堅苦しい態度を取った二人にルフェス王は苦笑してしまう。


「そういえばレグルスには、もう一人いるとアライルから聞いているが……彼はどうした?」


「レン坊については私が話し合いに応じるよ。だから図書室に置いてきたのさ」


「置いてきた……? アライル、それでいいのか?」


「構わないよ、父上。レンヤからもルレイ様に全て任せてると聞いていたからね」


 ルフェス王の疑問にアライルは問題ないと返す。

 王太子である彼がスタンピードから救われたことに起因する話し合いであり、話題の中心人物は風見蓮也であることは明白。

 とはいえ彼が全幅の信頼を置いている上に祖母と慕っている人物は、あのルレイ・フェイニだ。

 そして彼女も蓮也を可愛がっているのは、ここにいることで証明している。


「レン坊を取り巻く環境は、ちょっとばかし面倒だからね。話し合ったところで、あの子のことだ。真面目な顔しながら内心で疑問ばかり浮かべることになるよ」


 ルレイが肩を竦めながら言うと、その光景が簡単に思い浮かんだフロストとフィノが小さく吹き出す。

 次いでルレイは同席している第二王女――アリアに目を向けた。


「聖女様も綺麗になったね。あんたは真面目で誠実だから、気疲れしてないか心配だったよ」


「ありがとうございます、ルレイ様。ですが私はこの通り、問題ありません」


「そうかい? 王家に生まれながら〝聖女〟のクラスを持っていることで、大変なことも多いだろう?」


「それは……、ですが自身の立場はしっかりと理解しているつもりです」


 王女にして〝聖女〟であるアリア。

 片方だけでも多大な支持を受けるというのに、両方を生まれ持つ彼女の立場は他の王族や〝聖女〟とは、比較出来ないほど高い場所に位置している。

 それこそ他に類を見ないほどに。


「聖女様も無理だけはするんじゃないよ」


 ルレイはそう言うと、王妃とも軽く言葉を交わした。

 そして簡単な挨拶が終わったところで、ルフェス王が話を切り出す。


「我は簡単な触りしか聞いていないから、まずは確認させてもらいたい。スタンピードを壊滅し、超級の魔物を倒したのはルレイ――お前の孫で間違いないのだな?」


「ああ、その通りだよ。ルフェス王国の新人冒険者であるレンヤ・カザミは、間違いなく私が孫扱いしている家族であり、偽りなく三英雄の弟子だ」


 この時点で図らずも空気が若干、引き締まってしまう。

 何故ならルレイ・フェイニが蓮也のことを公に家族であり、弟子だと認めたからだ。

 ルフェス王も無意識ながら、表情に真剣さが生まれた。


「……三英雄の弟子、か。まさかお前達が弟子を取るとはな」


 それまでも冒険者として、彼女達はルフェス王国に対して多大な貢献があった。

 未踏領域の開拓に新種の薬草を発見し、依頼は必ず達成する。

 様々な功績もあって、ルフェス王国は一代限りの爵位すら彼女達に与えていた。

 けれどそんなアブソリュートが英雄と呼ばれ始めたのは、今から二十年前のこと。

 ルフェス王国の王都に、超級の魔物の中でも一種の天災と呼ばれるほどの存在――古竜が現れた。

 その部分を聞けば、大抵の人間は最悪の予想をする。


 王都は襲撃され、火の海になった……というように。


 けれど実際、王都の損傷は軽微だった。

 何故なら古竜が襲撃した時、そこにはアブソリュートが存在していたから。

 不意打ちのように現れたというのに、ルレイ達は初手で古竜を王都上空から吹き飛ばし、その上で叩きのめした。

 王都の住民が恐怖に叫ぶことも泣くこともなく、何かが壊れることもなければ悲劇が生まれることもなかった。

 そして、それを成し遂げてしまったアブソリュートに対して、皆が讃えたのだ。


 あの三人こそが英雄だ、と。


 先代の王もルレイ達に深く感謝し、今まで与えていた爵位を陞爵。

 一代限りの爵位としては歴代最高となる侯爵とした。

 もちろん三人は貴族らしい暮らしも政治に携わるのも嫌だと言って、冒険者稼業を続けてはいるが、それでもルフェス王国にとっては大恩人で誰もが慕う冒険者。

 だからこそ『三英雄の弟子』は、ルフェス王国では特に重く響いてしまう。

 今まで、誰一人としていなかったからこそ。


「どうしてルレイ様は、お孫様をルフェス王国の冒険者にされたのですか? 貴女様はディリル王国に登録している冒険者であるというのに」


 ふと気になったのか、アリアが疑問を浮かべた。

 家族であり弟子であるのなら、どうしてディリル王国ではなくルフェス王国で冒険者登録させたのか。

 普通に考えるのならディリル王国であるはずだ、とアリアはルレイに尋ねる。


「確かに私もライオスもミカドも、ギルドの所属としてはディリル王国だ。だけどレン坊の所属に関して言うのなら、ディリル王国だけはあり得ないし、私はルフェス王国を一番好ましく思ってる。だからこそ、あの子の所属をこの国にしたんだよ」


 選択肢としてはルフェス王国か、ディリル王国以外の国か。

 これ以外にはない。


「国として私達の功績をちゃんと評価してくれたのは、ルフェス王国だけだからね。好意的になるのも当然ってものだよ」


「……ルレイ達のやったことを考えたら、普通は叙爵するのだがな」


 同じくらい、どころかルフェス王国以上の恩恵を受けているのがディリル王国。

 だが彼の国は叙爵をすることはなかった。

 それどころか国が三人に対して、何かしら報奨を与えたこともない。


「それではルレイ様は何故、今でもディリル王国に所属しているのでしょうか?」


「仕方ないさ。ディリル王国には、ライオスとミカドの家族がいるからね。それにルフェス王国は大丈夫だけれど、ディリル王国はそうもいかないだろう?」


 ルレイが言いたいのは冒険者にのしかかっている重要性のことだ。

 ルフェス王国は国内を騎士や兵士、冒険者が上手くバランスを取っており、どこかが疲弊して欠員が出たところで他がカバー出来る。

 けれどディリル王国は王都周辺や貴族中心に物事を考えており、地方や平民は蔑ろにされている。

 つまりは王都以外の場所や平民に対して、国が対応することは少ない。

 だからこそ『平民』と『辺境』という大部分を担っている冒険者の負担が大きく、三英雄と呼ばれるルレイ達が所属を変えてしまえば、影響力は計り知れない。


「そもそもディリル王国はレン坊を放り出した。そんな国に所属させるつもりは毛頭ないよ」


 断言すると、アライルを除く王家の面々が目を瞬かせた。


「王太子殿下はこの辺の事情も知ってるんだったね?」


「はい。レンヤより直接、話を伺いましたから」


 勇者召喚と、彼の身に起こったこと。

 アライルは一人の人間として許せないと思ったことであり、仲間としては激しい怒りを覚える出来事だ。


「いまいち、要領が掴めない話だが……どういうことだ?」


「国王陛下はディリル王国の勇者召喚について、どこまで知ってるんだい?」


「……あの馬鹿王が意気揚々とやらかしたことか。それならばディリル王国が公表しただけのことしか知らん」


 そう言って、ルフェス王もすぐに気付く。


「もしや、そういうことか?」


「そうだよ。ディリル王国に召喚されたけれど、レン坊は〝勇者〟どころかクラスを何も持っていなかった。故に放り出された唯一の人間だ」


 ルレイは召喚された蓮也がどうして自分達と出会い、そして家族となったのか。

 さらには風見蓮也の特殊性故に、三英雄の弟子となったことも全員に伝える。

 ルフェス王は全てを聞き終えると、眉間を揉みほぐした。


「……つくづく思うことだが、本当にクズでしかない」


「右も左も分からない、言葉は通じるけれど文字すら読めない。どんな世界かも把握してない状況でレン坊は放り出されたんだよ。クズで済む話じゃないと思うけどね」


 現にフロストやフィノでさえ、蓮也がルレイ達と出会った詳細を聞いて顔を顰めている。

 蓮也が三日三晩、水だけで凌ぎ四日目でようやく救われたと聞けば当然だ。

 救ったのがルレイ達で本当に良かったと思う。

 と、そこで重くなった空気を振り払うようにアライルが落ち着いた声を発した。


「それでルレイ様。レンヤに対しての報奨なのですが、ご希望はありますか?」


「そうだね。フロスト達に近い報奨でも構わないと思っていたんだが……さっき聖女様と話したことで、ちょっとした提案があるよ」


 ルレイはアリアを一度見てから、ルフェス王に視線を向ける。


「国王陛下。聖女様の婚約は決まったのかい?」


「いや、まだだ。欲する家は多々あるが、それ故に決まるわけがない」


 特に問題がなさそうに見えるルフェス王国において、最大の懸念とは何か。

 それはアリアの婚姻に他ならない。

 王女にして〝聖女〟のクラスを持つアリアを伴侶にすることは、即ち大きな権力を握ると同義だ。

 国内であれ、国外であれ、アリアの立場を欲する者は多い。

 けれど、そういった者の伴侶にしてしまえば必ず政治のバランスが崩れる。

 どれほど弱い立場だったとしても、逆転してしまう。

 そして誘拐等の危険性がないとも言い難い。

 なので政治に興味のない領地持ちの貴族で、さらにはそれなりの実力を持つ者と婚約できれば良かったが、そこまで都合の良い相手はいなかった。

 だからこそアリアの婚約者選定は慎重に慎重を期する必要がある……のだが、


「だったら、うちの孫はどうだい?」


 ルレイからの爆弾発言に、全員の息が止まったと思うほどに静寂が包んだ。

 思った通りの反応にルレイはくつくつと笑い、


「身内贔屓と言われるかもしれないが、レン坊は本当に良い男だよ。頭は切れるし、気も配れる」


 ある程度、相手に合わせる部分も持っている。


「性格だって私が家族扱いするんだから、相当なもんだと分かるはずだ」


 偏屈とまでは言わないが、多少は癖のある性格だと自覚しているルレイが蓮也を孫として可愛がっている。

 その点も蓮也を紹介するにあたっては加点となる部分だろう。


「だがな、ルレイ。アリアの伴侶については――」


「相手が厳しく制限されているのは分かってる。政治に関わることなく、あとは……聖女様が婚約者とはいえ彼女を守れる実力も必要だろう?」


 それぐらいはしっかりとルレイも把握している。


「けれど、だよ。どこまで問題を先送りに出来るのか、分かったもんじゃない。だったら条件に見合う自慢の孫を紹介しても、罰は当たらないんじゃないかい?」


「とはいえ、どうするつもりだ? いくらお前の孫といえど難しいぞ」


 ルレイが薦めるからには、問題ないような人間だとルフェス王も分かっている。

 しかしながら実際問題、王女を降嫁させるにはそれなりの立場が必要だ。

 だからルレイは指を一本、立てる。


「私の提案を了承するのなら、国王陛下から承った一代侯爵の爵位。これを遠くない将来、レン坊に譲りたい」


「……お前の爵位を?」


 出てきた提案に、ルフェス王は顎に手を当てて考える仕草をした。

 ルレイはさらに言葉を続ける。


「王太子殿下が考えた報奨の案には、一代限りの叙爵案もあるはずだ。王家直轄領地を分け与えることも含めた叙爵とかね」


「その通りです、ルレイ様」


「単なる狼藉者から守ったわけじゃない。必死とも呼べる状況を覆したのだから、相応に報奨が大きくなるのは道理だよ」


 高価な宝石を与えられたり、良い武器を与える。

 狼藉者からアライルを守ったのなら、それぐらいのものだろう。

 しかし今回は違う。


「レン坊に関してはスタンピードの壊滅に超級の魔物を打破したこと。色は付けないと難しいだろうが、私の爵位を譲渡予定だと通達するのは不可能じゃないはずだ」


 誰でも出来ることではない。

 というより三英雄以外に誰が出来るのかを問われて、明確に答えられる人間はいないだろう。

 それほどのことを蓮也はやってのけた。


「そして私に国王陛下が与えて下さった爵位を、レン坊に引き継がせる意味が分からない馬鹿は、あんまりいないだろうね」


「レンヤの後ろに三英雄がいる説明であり、その縁者となる予定のアリアには三英雄の守護が得られる、というわけか」


「いいや、それだけじゃない」


 ルレイは胸を張り、自慢するように笑った。


「ルフェス王国の最高戦力となる存在。そんな秘蔵っ子を私は置いたつもりだよ」


 だからこそアライルは助けられた。

 必死の状況から無傷で生還することが出来た。

 その事実を蔑ろにしてはいけない。


「しかも家族の私は政治にあれこれ、首を突っ込んだ覚えがない。レン坊だって面倒な政治に関わるつもりは毛頭ないだろうね」


 本人が政治に興味なくとも、親戚縁者が興味あれば婚約者には相応しくない。

 けれど蓮也唯一の家族であるルレイは叙爵されたところで、今まで政治に関わってこなかった実績がある。


「だからレン坊に王家直轄の領地でも与えれば、聖女様にとって政略結婚するに最上の物件が出来上がるわけだ」


「……ふむ。確かにお前の提案は魅力的だ」


 しっかりと説明を聞けば、賢者の言うとおり有望株だと判断せざるを得ない。


「しかしルレイよ。どうしてアリアに目を付けた?」


「聖女様も良い女だ。レン坊の家族としては、良い女に伴侶となって欲しいからね」


「それだけの理由で三英雄の一人が仲人をするとは、随分と驚かせてくれる」


「私の孫は誠実だが奥手でね。出会いの場くらいは準備しないと、いつ曾孫が見られるか分かったもんじゃない」


 今まで生きてきた環境が環境だったせいで、蓮也は女性に対して酷く消極的だ。

 フィノには普通に接しているが、それも女性のカテゴリーではなく仲間として見ているからだろう。

 要するに、


「言い方を変えれば、ヘタレチキンなんだよ」


 身も蓋もない祖母の言い分に、レグルスの面々が小さく笑った。


「それに私はレン坊にちゃんと宣言したんだよ。さっさと恋人を見つけなかったら、政略結婚させるとね」


 実際のところ、そうするつもりはなかったが……蓮也の立場とスタンピードでやったこと、そこにアリアの状況を鑑みてしまえば政略結婚も一つの手だとルレイは考え直した。


「お前の話、断ればどうなる?」


「どうもこうもするつもりはないさ。これはルフェス王国への気遣いと、孫が可愛いからこその提案だ」


 あくまでアリアと話してから思い付いたことで、断られたところで気にしない。

 アライルもルレイの提案が魅力的だと思ったのか、確認するように質問をする。


「レンヤが冒険者として頭角を現した際に、もう一度同じ提案を頂くことは可能でしょうか?」


「いいや、蒸し返すことはないよ。というより不可能だね」


 あくまで今だからこそ出来る提案だとルレイは言う。


「レン坊が優秀なことも、私達の弟子であることも、私の孫であることも、いずれは周知の事実になる。どこもかしこも我先にとレン坊を手に入れたがるだろうさ」


 ルフェス王国内の話では収まらない。

 ルレイのことを三英雄と呼ぶのはルフェス王国とディリル王国だけだが、それでも勇名は他の国にも轟いている。

 その孫である蓮也が頭角を現し、三英雄の弟子だと周知されたらどうなるか。


「王家が国内も国外も抑えきれるなら、話は別だろうけどね。そんなことは不可能だろう? そもそもレン坊だって、縛り付けるだけの婚約からは逃げ出すよ」


「……確かに国へ縛り付けると取られても仕方ない発言でした。申し訳ありません、ルレイ様」


「まあ、年寄りのお節介だ。国王陛下や王太子殿下が気にすることじゃないよ」


 急に提案をしたところで、ルフェス王国の至宝についての婚約だ。

 受け入れるのも難しいだろう。

 なので当初の予定通り、フロスト達に近い報奨にしようと考えたルレイだったが、



「そのご提案、受けさせていただけないでしょうか」



 凜と響いた声に、思わず苦笑してしまった。

 発言した先――アリア・ルフェスにルレイは視線を向ける。

 たった今、自身の孫を婚約者に薦めた相手だ。

 彼女は至極真面目に、真っ直ぐにルレイを見る。


「私の結婚は国内において最大の懸念事項となっています。王族は大抵が十歳までに婚約者が出来るというのに、私は自身が持つクラスも相俟って婚約者がおりません」


 それどころか人付き合いすら制限してきた。

 王都にいる貴族はほとんどが政治に関わっており、その家族である令嬢と懇意になることは難しい。

 唯一の例外は侍女だけだ。

 そんな彼女にとって、ルレイの提案は心から魅力的だった。

 問題の先送りでしかなかった自身の婚約に光明が差したのだから。


「お兄様、お父様。お二人はその御方以上の良縁が私に舞い降りると、本当に思っておられるのですか?」


 問うたところで、答えが返ってくることはないだろう。

 ルレイが示してくれた以上の良縁などあり得ない。

 今までの経緯が、ここに至るまでの結果がそれを教えてくれている。


「現状ですら手詰まり。この提案とてルレイ様から格別のご厚意があって、初めて実現可能なもの。急いては事をし損じるでしょうが、遅きに失するのも愚かでしょう」


 アリアが婚約出来るのは、ルレイ自身の持つ爵位を譲渡する前提での話だ。

 さらに言うと蓮也は相手に対して条件なく自由に結婚出来るのだから、わざわざアリアを選ぶ必要がない。

 だから格別な厚意だと彼女は言っているわけだ。


「私としてはルレイ様のご提案をお断りする理由がありませんが、お父様はどのように考えておられますか?」


 この話を逃せば、また問題の先送りになるだけ。

 そして周囲から、周辺諸国からずっと請われ続けるだろう。

 アリア・ルフェスの立場と権力を狙って。


「……そうだな。遅きに失するのは愚かであろうな」


 ルフェス王は目を瞑って、大きく息を吐く。

 それにルレイの話を聞いて、一つ気付いたこともあった。

 風見蓮也の特殊性も今後、大きな問題になる。

 三英雄の弟子であり、ルレイ・フェイニの孫。

 さらにはクラスを入れ替えて、応じた実力を持つ特殊な能力を持っている。

 周囲に公然と知られてしまえば面倒になるのは必然であり、彼を手元に置こうとする連中の手段として最も有効なのが嫁を宛がうことだ。

 蓮也の祖母として、ルレイもそれを潰しておきたいから提案をしたのだろう。

 誰にも文句を言わせない婚約者を用意することで、面倒事を回避しようとした。

 ルフェス王は目を見開くと、アリアに大きく頷く。


「断る理由はなく、問題もない。だが一目、彼のことを見ておきたい」


「そうですね。私もお目に掛かりたく思います」


 結論が出ると、ルフェス王とアリアは二人揃ってルレイに視線を送った。


「だったらフロスト達の話し合いが終わったら、皆で行けばいいよ。レン坊のことだから、本を読むのに熱中してるだろうさ」


 騙し討ちするのも楽しそうだ、とルレイは楽しげに言う。

 そのあとフロストとフィノの報奨については、アライルが出した幾つかの案を二人が唸りながらも考え抜いて選択し、ひとまずスタンピードを発端とした話し合いは終わった。





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