第3話 保護者ルレイ・フェイニ
話し合いが終わると、ライオスとミカドは家へと戻っていった。
休みのところをわざわざ出向いてくれたらしい。
「今日から私が保護者だ。だから坊やのことは、レン坊と呼ぶことにするよ」
ルレイは昨日、蓮也を見つけた理由を話してくれた。
三人はディリル王国王都での依頼を終わらせて、帰る途中のこと。
そこであまりにも不審な服装をした、挙動も怪しい人間がいたので声を掛けた。
「昔はディリル王国、ルフェス王国の王都にパーティハウスを構えていたんだけどね。年老いてからはゆっくり暮らすために、両方とも国境沿いに変えたんだよ」
そして今、二人がいるのはディリル王国のパーティハウス。
これから隣国であるルフェス王国側にあるパーティハウスに移動する。
「ライオスとミカドは家族がいるから、ここから歩いてちょっとのところに暮らしてるんだよ。私はルフェス王国のパーティハウスで暮らしているから、レン坊にはちょうどよかったってところだね」
奇しくも目的とする場所が蓮也と一致していたし、これからのことを考えてもちょうどいい。
ルレイは屋根付きの荷馬車を用意すると、荷台に蓮也を座らせる。
おそらくは国境を普通に通ることは無理なのだろうと察したが、ルレイが大げさに隠れる必要はないと笑い飛ばした。
なので言われた通り座っていると、馬車が動き出して三十分ほどした頃だろうか。
ゆっくりと馬車が止まった。
蓮也が耳を澄ませると、外からルレイが会話している声が聞こえる。
「ルレイ様、馬車とは珍しいですね」
「まあね。ちょっと良い素材が入ったから、これに乗っけたのさ。収納バッグはライオスに預けたままだから仕方ないんだけど、馬車で運ぶのも中々楽しいもんさ」
「中を検めることは可能でしょうか?」
「強力な結界魔法を張っているから、出来るならやめてほしいもんだね。それに危ないんだよ、あれは」
「左様ですか。でしたらこのままお通り下さい」
「ああ、いつもありがとう」
淡々とした会話ではあったが、それでもおかしいと思った蓮也は正しいだろう。
ルレイが拒否したら、それがすんなり通るとは普通じゃない。
馬車が動き始めて十分後、蓮也はルレイに声を掛けられて御者台に座る。
「会話の内容から察するに、普通は検品とか何とかあるんじゃないのか?」
「まあね。だけど私はディリル王国にもルフェス王国にも信頼されているから、問題はないんだよ」
案の定、荷台を覗かれなかっただろうとルレイは笑う。
一方の蓮也は簡単に言われたからこそ、恐る恐る訊いてみる。
「ルレイさん達って、とんでもなく凄かったり金持ちだったりするのか?」
「これでもディリル・ルフェスの両王国から『三英雄』と呼ばれているからね。多少の無茶は通るし、金も有り余っているんだよ」
三英雄。そう言われたことに蓮也は息を呑む。
「いかにも凄そうなんだが……言葉通りでいいのか?」
「言葉通りでいいよ、レン坊。呼ばれるだけの実績があるからね」
どうやら自分は相当、凄い人達に助けられたらしい。
蓮也は自身の幸運に感謝していると、ルレイが疑問を投げかけてくる。
「レン坊はどうやって国境を越えようと思ったんだい?」
「来てみないと分からなかったから、方法は未定だった。素通りできるなら良かったし、無理なら色々考えたと思う」
「何も分からないんだから、そうだろうね。亡命って手段もあるけど、ディリル王国に照会されたら面倒になるはずだ。だから私もこういった方法を取ったんだよ」
そしてルフェス王国であれば身分の登録もやり方があるので、そこは任せろとルレイが胸を張った。
どうやら一安心できそうで、ほんの少しだけ蓮也は表情を崩す。
「本当にルレイさんには感謝しかない」
「別に構いやしないよ。魔法に傾倒した独り身としては、こういった面白いことは大歓迎だ」
ライオスとミカドは家族がいると言っていた。
けれどルレイの言い方からすると、彼女自身に家族はいないようだ。
「レン坊は家族、いたのかい?」
「一応は。父親と母親、それに妹がいた」
何も感情が込められていないことは、蓮也自身が一番分かっていた。
ルレイも気付いたのか、平然を装いながら会話を続ける。
「あまり仲が良かったわけじゃなさそうだね」
「まあ、そうだと思う。俺には幼馴染みが二人いて、両親も妹もずっと二人のことを羨ましがってた」
蓮也は目立つタイプじゃない。
幼馴染みである光輝や詩織のように、周囲を惹き付ける華やかさも持っていない。
だから、だろうか。
親も妹は常々、言っていた。
「光輝みたいな息子が欲しかった、詩織みたいな娘が欲しかった。妹も光輝お兄ちゃんや詩織お姉ちゃんが本物だったよかったのにって。なんかずっと、そう言ってた」
自分が悪いのだろうか、と思ったことがある。
息子として、兄として落第なのかと思ったこともある。
けれど結局のところ、蓮也が何をしようとも関係なかった。
家族の幼馴染み贔屓がひっくり返ることはなかった。
なので蓮也は勝手に、隣の芝生の青さに家族は目が眩んだのだろうと結論づけた。
「家族も家族だったし、周囲も周囲だった。だから上手くは言えないんだけど、とりあえず会いたいとは思ってない」
家族に関しては、徹頭徹尾どうでもいい……という感想しか出ない。
光輝と詩織については友達だと思っていたので、ほんの少しばかりショックを受けたが、そんなものは城を出て一時間程度で消えて無くなった。
だから幼馴染み二人に対しても、今はどうでもいいとしか思ってない。
「なるほどね。まあ、レン坊が気にする必要はないよ。当然ってもんさ」
「……ルレイさん」
「もっと気軽に、婆ちゃんとでも呼びな。さっきも言ったが独り立ちするまで、私がレン坊の保護者だからね」
ルレイが蓮也の頭をポンポン、と撫でる。
そんなことは蓮也の記憶にある限り、一度もないことだ。
手の平から伝わる温もりを享受しながら、蓮也は感謝の言葉を伝える。
「婆ちゃん。ありがとう」
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