十年ひと昔


 執政官府のあるマハラバードという町は、惑星アールヴヘイムンの赤道から、南回帰線の辺りに散在するカンボーヂャ諸島に位置し、海に面した港湾都市です。


 惑星アールヴヘイムンに虫が侵攻したとき、真っ先に占領されたのがカンボーヂャ王国、この諸島の名前が国名となっていました。


 海洋国家であり、世界の国々と貿易で繁栄していた通商国家、ライバルのガンダーラ王国とともに、惑星アールヴヘイムンの経済を握っていた通商国家。


 両国とも、軍事力という点では海上艦艇が主力で、陸戦兵力では他の十四王国の足元にも及ばないが、十四王国の海戦兵力の数倍の戦力を所有、海上覇権を握り、ゆるぎない繁栄を手にしていたようです。


 虫は陸戦兵力の弱さに注目したようで、揚陸宇宙艇を降下させ、あっという間に占領、全ての男たちを食料として加工したのである。


 二つの王国の人口は当時あわせて一億八千万、半分を占領直後に抹殺、備蓄食料とし、それを食べつつ、残された女たちを放牧、生肉の供給地世界を目指していたようです。


 ほぼ十年たった頃、虫の本星より、食材増産の命令が届き、惑星アールヴヘイムン全土に侵攻を開始。

 アールヴヘイムンの各王国を蹴散らしたとき、ヴィーナス・ネットワークの介入により、本星が無条件降伏、仕方なくアールヴヘイムンを、ネットワークに引き渡したのです。

 

 その後、ネットワークはこの二つの王国領を執政官府直轄領とし、このマハラバードに執政官府を設置、ここより、惑星アールヴヘイムン全域に睨みを利かせているのです。


 暗殺事件後の、十四王国への報復攻撃は、このマハラバード執政官府で計画、実行されました。


 最後通帳が手渡され、王都からの避難勧告が通告されました。

 しばらくすると上空に、USー3不死鳥と呼ばれる三機の飛行艇がやってきて、爆撃をしたのです。


 爆弾はいわゆる『全ての爆弾の父』と呼ばれる、マルスのロシア帝国が開発したものを、ナーキッドが徹底的に改良したものです。

 これを、手ごろな惑星制圧用兵器を探していたミリタリーが採用したようです。


 核でも古代兵器の範疇にはいるミリタリーですからね、ナーキッドの技術は重宝するようです。


 十四王国軍は壊滅、各地の王都は王宮を中心に、三発の『全ての爆弾の父』が爆発、王都は灰燼に帰したのです。


 それから十年、惑星アールヴヘイムンの各王国の王都は再興され、昔のようににぎわっています。

 虫の侵略は遥かな昔、ただ執政官府の報復攻撃が人々の口に上がりますが、近頃その話題は恐怖から憎しみへ変わってきているようです。


 しかし王国政府の中枢部は、ネットワークの軍事力、ヴィーナスさんの冷酷さを骨身にしみているようで、表立っての排斥運動は起こっていない、起こさせないのです。


「じわじわと不満がたまっていますね、まぁほっとけばいいだけよ、スジャータさん、優しいわね」

 これがスジャータさんの報告を聞いた、ヴィーナスさんの返事でした。

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