第一章 マハラバード執政官府の計画

スジャータの手腕


 執政官府直轄領の住民、つまりは二つの旧海洋国家の生き残りの女たちは、虫の十年の占領の結果、本来のアールヴヘイムンの住民とは異質の存在となっていました。


 虫はライフラインを全て破壊、女たちをそのまま自活させたのです。

 そして年に一回捕まえ、食用にしてたようです。

 フルーツガールまでの人種改良ではなく、一応自立させて、経費の削減につとめていたようです。


 個体数として約九千万人ですからね、年に一回、十万人ほど捕まえていたようです。


 十年、女たちは虫とおりあって、生き延びました。

 年一回の『苦難の日』を受け入れる代わりに、授産施設の提供を要求、虫に受け入れさせたのです。


 『苦難の日』が過ぎると、授産施設が開かれ、『子孫の日』が始まる。

 五日間の間に、適齢期の女たちは受胎するわけである。


 この授産施設の装置は、洗脳もしていたようで、

……虫は神の使い、虫の命令は神の命令、我が身は神にささげられた物、神に従うことこそ喜び、その為には死をもいとわない……


 十年も続いたこの生活は、女たちを変えていきました。

 ネットワークが乗り込んできたころには、このような考えが社会に根付いていたのです。


 虫は最低限の食料も提供していたようです。

 『子孫の日』の五日間、穀物が提供されていたのです。

 女たちは廃墟やバラックに住み、農地を耕し、部族単位に生活をしていたようで、勿論、その間に死亡したものは、すべて虫に引き渡されました。

 この時、少量の塩と砂糖が支払われたのです。


 当時、虫はこのアールヴヘイムンの他の地域に興味を示しませんでした。

 この二つの、旧海洋国家地域から供給される食糧で十分だったのです。

 あまりおいしくない、これがアールヴヘイムンの食料に対する、虫の評価だったのです。


 しかし虫は、食料増産、特に高級食料の確保のために、根付きかけた社会体制を放棄、全面的に人種改良を行うことに決定します。

こうして残っていたアールヴヘイムン諸王国の侵略を始めたのです。


 諸王国は一致団結して抵抗したのですが、虫に蹴散らされて滅亡寸前の時、ネットワークが乗り込んできたのです。


 カンボージャ諸島とガンダーラ諸島は執政官府直轄領となり、暗殺事件後の、ネットワークが実行した報復爆撃も、この地から行われたのです。


 執政官府直轄領の占領行政は、見事なものでした。

 スジャータ執政官は社会体制を温存、神は虫を断罪され、代わりに神は自らの眷属を遣わされ、直接統治されることにされた。


 神は人々を喰らうような行為にたいして、虫を断罪された、つまりそのようなことは、神のご意志ではなかった。

 『苦難の日』はなくなったが、神に身をささげることは素晴らしいことで、奉仕こそが人としての第一の使命、それゆえ神は、この地の女たちを祝福される。


 執政官府成立から十年、執政官府直轄領は独自の繁栄を遂げている。

 この地の住民は、他のアールヴヘイムン諸王国住民を嫌っている。


 自分たちはマハラバード執政官府の住民、神の祝福を受けるしもべ、神に歯向かった諸王国住民とは違う。


 そもそも自分たちが多大な犠牲を払っている時、呑気に平和を満喫、神の助けがあったにも関わらず、感謝もせず逆恨みした者たち、そのような考えらしいのです。

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