第4錠 死刑希望者
─死刑になりたかった─
男の名前は田西勝太。真っ昼間の交差点で5人をナイフで刺し、内4人を死に追いやった。田西は警察署での取り調べは驚くほどスムーズに進んだ。田西は素直に罪を認め、犯行の手順を事細かに説明していった。
裁判でも、それは同じだった。検察官側の主張を受け入れ、弁護もまともにしなかった。ただ、証言台に立った田西の言葉に人々は怒りを覚えた。
「殺すのは誰でも良かった。なぜなら俺は死刑になりたくて人を殺したんだからな。それにしても、俺に殺された人間の人生には一体、何の意味があったんだろうな。俺を死刑という幸せに導くために生まれてきたんだろうな。はは・・・あははははははははははは!!」
傍聴席から怒号が飛び交い、裁判は一旦、休廷となった。そして、判決の日。予想通り、死刑判決が下った。世間の多くが望んだ判決だったが、判決を聞いて小躍りする田西を見て、皆、素直に判決を受け入れられなかった。田西は控訴せず、死刑は確定した。
田西は独房に入れられた。そして死刑になる日を毎日、心待ちにしていた。だが、なかなかやってこない。それでも、衣食住は保障されている。田西は気長に“その日”を待つことにした。
ある日の夜、田西が独房で眠ろうとしてると声がした。
「おじさん。ねぇ、おじさんってば。」
目を覚ますと、独房内に子供がいた。その子供は、見た目は6歳から7歳くらいで青い服に赤い蝶ネクタイを身に付け、メガネをかけていた。その子供が言った。
「おじさん。すぐに死にたいらしいね?」
「ああそうだよ坊主。お前を殺せば死刑が少しは早まるかもな。」
すると、子供はクスリと笑って言った。
「残念だけど、それは無理だよ。だってボクは死神だから。おじさんには殺せないよ。」
田西には目の前の子供が言ってる事が嘘だろうと、本当だろうと、どうでも良かった。ただ、夜中に騒ぎも立てずに独房に入り込む芸当ができるヤツは人間じゃないということだけは解った。
「それで、死神が俺に何の用だ?」
田西の問いかけに、死神は答えた。
「すぐにでも死にたいおじさんにこれをあげようと思ってね。」
死神は小さな錠剤を田西に手渡して言った。
「それは
田西が
「まぁ、どのみち死ぬつもりだったんだ。試しに呑んでみるか。」
田西は
(なんだ。やっぱりまやかしか。)
田西がそう思っていると、死神が再び姿を現して言った。
「ごめん。やっぱりさっきの錠剤返してくれる?他のと間違って渡しちゃったみたいでさー。」
死神のその言葉を聞いて、田西は既に
「実はさっき渡したのは、
それを聞いて、田西の胸がざわついた。そして恐る恐る聞いた。
「
死神は頭をポリポリとかきながら、申し訳なさそうに言った。
「実は
死神はそう言うと、持っていた鎌で田西の両足を切断した。
「ぐあああああああぁぁぁぁ!!」
田西が悲鳴をあげてる間に、切断された両足は煙のように消え、新しい足が生えてきた。
「こういうこと♪」
死神が笑顔で言った。
田西はとんでもないことになったと思った。
(今すぐにでも死にたいと思ってたのに、不老不死だと?)
田西はすがるように死神に聞いた。
「もう一度、
死神は首を横に振り、答えた。
「それは無理だよ。一旦、心臓が止まっても直ぐに再生しちゃうからね。もう、どうしようもないよ。ゴメンね。」
田西は絶望した。死刑が執行されても死なないなら、これから永遠に刑務所ぐらしなのか?永遠に生き続けるなんて耐えられない。田西は絶望のドン底に叩きつけられた。
死神はいつの間にか姿を消していた。
スーツ姿の死神が、蝶ネクタイの死神に聞いた。
「あなた、本当に
蝶ネクタイの死神がニヤニヤしながら答えた。
「本当に間違って渡しちゃったんだよねー。
ケラケラと、小さな死神の笑い声が闇夜に響いた。
死の錠剤─デッド・ピル─ 結城彼方 @yukikanata001
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