第2錠 株式会社REAPER

私は22歳の女子大生。今は就活真っ只中。そんな私の元に、1つの荷物が届いた。差出人は『株式会社REAPER 生命科学薬品部』。箱の中身は錠剤が1つ。そして、「人生には死にたいほど辛い時があります。そんな時、この錠剤は貴方の救いになります。」と、メッセージカードが添えられていた。恐らく、私が就活中の大学生であるという情報を手に入れた製薬会社が宣伝に送ってきたサンプル品のサプリメントだろう。しかし、今の私にはそんなもの必要なかった。企業研究にOB訪問。忙しいが充実していた。


ある日私は、一流企業のOBを訪問する事になっていた。時間はOBの仕事が終わる18時から。この日のために入念に準備をしていた。OBの三井さんは時間通りに待ち合わせ場所に来た。そして、一緒に食事をしながら、会社の話を聞かせてもらうことにした。会話も弾み、会社の話も十分聞くことが出来たし。その上、三井さんはとても親切な人だった。食事の最中、お酒を勧められた。飲むつもりは無かったが、OBの機嫌を損ねたくなかった私は飲む事にした。その後、お礼のあいさつをして、自分のホテルに戻ることにした。三井さんがホテルまで送ってくれると申し出てくれた。断りづらかったので、付いてきてもらった。ホテルに向かって歩いている途中、違和感を感じた。耐え難い眠気が襲ってきたのだ。お酒はそんなに飲んで無いはずなのに、足元はふらつき、三井さんに支えてもらった。そして、ホテルの部屋まで送ってもらった。部屋に入ったその瞬間、三井さんは豹変した。無理やり私をベッドに押し倒し、服を脱がして犯し始めた。全て、三井の思い通りだったのだろう。きっと、あのお酒に睡眠薬でも入っていたにちがいない。気づいた時にはもう遅かった。私は抵抗する力も無く、首から下が人形の様だった。でも感覚だけは残っており、彼の悪意で私の子宮が満たされていくのを感じた。そうやって一晩中、彼の好きなように弄ばれた。


次の日の朝、彼はもういなかった。私は、自分の体と周りの状況を見て、自分が何をされたのか、改めて理解した。震えながらシャワーを浴びていると、生ぬるい液体が太ももをつたってきた。諦めにもにた気持ちと、嫌悪感から、体の中に入っていた沢山の彼の悪意を洗い出した。


家に帰ってからは、自分のベッドから一歩も出る事が出来なかった。自分の体が汚されたというよりも、汚染されたような感覚に襲われ、自分の汚染された体と魂を分離したく気持ちになった。そして、頭の中を「なんで私が?なんで私が?」という考えだけが廻っていた。そのまま固まった状態でいると、視界に以前送られてきたサンプル薬品が目に入った。私は、ベッドから這いずりながら出て薬品とメッセージカードを見た。すると、奇妙なことに、メッセージカードの内容が変わって、こう書かれていた。「人生には死にたいほど辛い時があります。そんな時、この錠剤は貴方の救いになります。この薬は死の錠剤デッド・ピル。飲めば、魂が抜けるように死ぬことが出来ます。」


藁にも縋るような思いでいた私は、この薬を飲む事にした。急いでコップに水を注ぎ、死の錠剤デッド・ピルを手に取った。その瞬間に思った。


(もし、私が死の錠剤デッド・ピルを飲んで死んだら、あの男三井はどうなる?これからも同じような犯行を続けて、被害者は増えていく一方なんじゃじゃないのか?)


私は薬を飲むのを止めた。



翌日、私は警察に被害届を出そうとした。そこで、思い出したくも無い事を洗いざらい話さなければならなくなった。その間考えていたことは


(何で被害者の私が?何で被害者の私が?)


という思いばかりであった。幸い、ホテルの監視カメラにフラフラの状態の私を部屋まで連れていく三井の姿が映っており、三井は被疑者として逮捕された。同じようなことを何回も聞かれ気分が悪くなった私は、次第に体調も悪くなり、ついに病院に行った。


「おめでとうございます。」


医者の悪気の無い笑顔とは裏腹に、私は青ざめた。私はこの世で一番嫌いな男の子どもを孕んでいだ。嫌悪感と自然と湧き出る母性愛が、私を狂わしていった。そして気がつくと私は謝っていた。


「ごめんね。ごめんね。ごめんね。ごめんね。ごめんね。ごめんね。ごめんね。ごめんね。ごめんね。ごめんね。」


私が悪い訳では無い。でも、お腹の中の子どもに謝らずにはいられなかった。私は病院を予約し、子どもを堕ろした。



これで一段落したかと思ったが、そんなことは無かった。彼が一流企業の従業員であったこと、大学生のOB訪問を利用したその悪質さが注目され、センセーショナルに報道された。事件の事をなるべく思い出したくない私は、メディアに触れないようにしたが、それでも、外に出れば、嫌でもその話題は耳に入った。そして私に、あのおぞましい記憶を思い出させるのであった。病院からは抗不安薬、抗うつ薬を処方され、なんとか1日1日を生きていた。



裁判が始まり、状況は一層悪くなった。隔離するための壁が用意されているとはいえ、大勢の前で、事件当時を思い出しながらの証言を余儀なくされた。思い出したくもない記憶を何度も何度も、無理やり思い出させられる事によって、忘れたい記憶はより鮮明に脳裏に刻まれていくことになった。そんな私を支えていたのは、これ以上被害者を増やしたくないという思いと、日増しに増える精神安定剤だった。そして、判決の日、裁判所は三井に有罪の判決を下した。三井側は控訴した。控訴審は検察と弁護士が争うのみで、私が直接証言を行うことは無かった。そして二審も同様に三井は有罪となった。上告は棄却され、三井の有罪は確定となった。私はその知らせを聞いて安堵した。



判決から数日後、私は手紙を書いていた。これまでのことと、そして、両親、姉妹、友人、支えてくれた人達への感謝の気持ち。これらを丁寧に記していった。汚染された体も、少しは浄化されたような気持になっていた。その手紙をポストに入れると、家に帰り、大好きなルイボスティーを入れ、死の錠剤デッド・ピルを飲んだ。ここ数年、味わったことの無いくらい安らかな気持ちになった。だんだんと心地よい眠気に包まれていった。



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俺の名前は三井。一流企業に勤めるサラリーマンだ。高学歴高収入高身長。古い言い方で言う3Kだ。趣味はOB訪問してくる女子大生を犯すこと。警戒心が低く、内定を取ろうと必死な女子大生はたいてい、こっちの言う事聞く。そして、睡眠薬入りの酒を飲ませて体を弄ぶのが大好きだ。それに女子大生の方も被害にあったことを口外することは無い。自分が汚されたなんて、誰が他人に言えるだろうか。これまではそう思っていた。


しかし、この前犯してやった女は違った。この俺を訴え、逮捕させ、刑務所にぶち込みやがった。全く腹立たしい、だが数年もすれば社会に戻れる。その頃にはほとぼりも冷めているだろう。自分で起業して、また上手い事生きていくさ、なんたって俺は頭がいいからな。


刑務作業をしていると、同じ監房の屈強な男に聞かれた。


「あんた何の罪で捕まった?」


俺は答えた。


「まぁ、女とちょっとな。」


そいつは言った。


「なるほど。強姦か。」


男は続けた。


「俺も強姦で捕まったんだよ。あんなもん犯されるほうが悪いのさ。まぁお互い、同房同罪同士、仲良くやろうぜ。」


俺はそっけなく


「ああ。そうだな。」


と答えた。


その夜だった、俺は体に何かが触れるような感覚で目が覚めた。すると、同じ監房の例の男が俺を押さえつけて、ズボンを脱がしていた。


「おい、お前何やってんだよ。」


俺はそう言って、睨み付けた。すると男が言った。


「あぁ、昼間は言い忘れてたけど、俺は男を犯して捕まったのさ。まぁ、仲良くヤろうぜ。」


そう言うと、男は俺の口に脱がした下着を詰めた。


「もがあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


声にならない声が監房内に静かに響いた。






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