第11話 勇者、死すべし
「救済――〈帰還者〉をか?」
「ええ」
幻影の忌頭樹来は頷いた。
「だってそうでしょう? せっかく異世界を救うためにこちらの人生を棒に振ってまで召喚されたのに、負けて死んだだけで元の世界に送り返され、挙げ句厄介者にされる」
「役立たずを救済する義務も無いだろうに」
「しかし彼らには価値がある」
「魔力リソースとして、か」
忌頭樹来はにやりとした。
「彼らはあちらの世界で魔力に目覚めた。こんな価値のある人間たちを厄介者と呼ぶこの世界は間違っておるのです。我らは彼らを救済し、この世界に革命を」
「そうやって塔の世界を滅ぼしたのか」
「いかにも」
否定する気は一切無いらしい。吾嵐は忌々しそうに舌打ちする。
「あの国で得られた魔術は素晴らしかった。おかげで私は多くの同志を得て塔ノ旅団結成にまで至った。この世界で地下迷宮の勇者たちの力も得れば更に私の理想も」
「少しいいか」
「話の腰を折るのが好きですねあなた」
「察するに、地下迷宮に勇者を送り込んだのはお前の仕業では無いのか」
「……」
忌頭樹来の幻影がフリーズした。どうやら応えられる質問では無いらしい。
「やはり、〈勇者症候群〉はお前の仕業では無いのか」
「……何故そう思ったのです?」
「塔の世界に異世界へ渉る魔法は無い。そして地下迷宮の世界にも無い」
「確かに」
「ならば答えは簡単だ。――お前、誰の差し金だ?」
再びフリーズする幻影。吾嵐は想定内だったらしく詰問を続ける。
「そもそもどうやってお前が塔の世界へ渉れたのか疑問だった。我が塔の世界破滅に追い込み、今度は〈勇者症候群〉を引き起こして次々と勇者を増やす。――魔力リソースを増やす事で今度はこの世界を滅ぼすのか?」
「いえ、世界の革命です」
鬼頭従来は同じ笑いを浮かべる。吾嵐は始めから会話が成立出来るとは思っていなかったが、溜まらず仰いだ。
そして、ため息を吐いて、やれやれ、と呟く。
「……良いだろう。今はそれで充分だ」
吾嵐は忌頭樹来を指した。
「ならば俺は宣戦布告する。お前の勇者を皆殺しにするだけだ」
その指先に青白い光が宿る。
「
次の瞬間、青白い光が破裂し、レストハウスは一瞬にして灰と化した。
数日後。
三田にある皇南学院校門前の早朝は、通学する学生たちで賑わっていた。
その中に、丸眼鏡に詰め襟を着た生徒がスマホを弄りながらやってきたのを確かめると、スーツ姿の玄示が校門の裏からぬうっと現れた。
「よお」
玄示が丸眼鏡の生徒に声を掛ける。他の生徒たちは玄示の姿に困惑して二人から距離を取っていた。
「ここの生徒の高等部か」
「さあ」
「俺はここの小等部なんだぜ」
「マジか」
溜まらず丸眼鏡の生徒が立ち止まる。
眼鏡を掛けているが、その顔はまさしく麻生吾嵐その人だった。
「なんとなくその坊主頭には見覚えあった理由がやっとわかったよ」
「学部が違うから俺もお前さんがうちの生徒だとは全く知らなかった」
「しかし小学生の担任か、怖がられているだろ」
「怖すぎで逆に珍しがられて人気教師だ」
「そうかい」
吾嵐は再び歩き始める。
「残像に瀕死の人間を治癒したり強化された魔導を使う人間を瞬殺する魔力リソースを残して、ビル一つ吹き飛ばす魔導使いを放置出来るわけ無いだろ」
「断る」
「いやいや」
一瞥もくれず袖にする吾嵐に玄示は苦笑しながらついて行く。
「お前さんの目的が忌頭樹来なら、俺たちと協力した方が都合が良い」
「やなこった」
「俺たちもお前さんみたいなバケモノ放っておくわけにはいかなくてな」
「知るか。勝手にしろ」
「じゃあ勝手にやるわ」
玄示は、そうかい、と笑った。
第一部 完
勇者様が多すぎる。 arm1475 @arm1475
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