第5話 塔ノ旅団
「女ぁ?」
佐藤は困惑した。
「お前、〈杜〉で女を殺したろ?」
「も……り?」
「しらばっくれるな。お前があいつらとつるんでいることは分かってる」
少年は凄んだ。気圧される佐藤は助けを求めるように周りを見て目をそらそうとした。
「……こ、殺したぁ? す、するわけねぇだろ!」
「女を殺したじゃなくて女に殺される、の間違いだろ?」
少年の後頭部で、カチャリ、と鋼が鳴る。その美貌を限界まで怒りに歪ませた晶が
「……そいつから離れろ、このクソガキ。さもなくば弾で頭吹き飛ばす、ていうか吹っ飛ばしてやるから離れるな、いいな?」
少年に舐められて頭に血が上っている晶は殺意むき出しで警告する。引金にかかるその指の震えは発砲衝動を押さえているが、完全に殺意が上回っていた。
「そこまでにしておけ、晶」
そこへファミレスからやってきたあきれ顔の玄至が頭を掻きながら制止した。
「ダンナ、いいから殺らせろ」
「今度やったらブルマ姿で仕事させるぞ」
「コレだってアンタの私物じゃねぇか、どこで手に入れた生臭坊主」
「「え」」
晶の言葉を聞いた佐藤と少年が玄至をガン見した。
「お前らそこに食いつくんかいいい」
晶は更にキレた。
「それはそれ、これはこれ」
「誤魔化すなぁっクソ坊主っ!」
「また撃つ気か?」
「――っ」
玄至のその言葉に晶は反射的に
少年は少し動揺している晶を尻目に、再び佐藤に詰問を始める。
「俺はあのレストハウスからお前が出てくるのを見た」
「――」
佐藤の顔がみるみるうちに青ざめていく。
玄至はその反応を見逃さなかったが、暫く様子を見ることに決めた。少なくともこの少年が佐藤を手に掛けるふうには見えなかったし、何より少年の詰問が興味深かった。
「お前もあいつらの仲間なんだろ?」
「ち、違う、俺は――」
「仲間で無ければなんであの下北沢のレストハウスから出てきたんだ?」
「下北沢――」
玄至にはその地名にある心当たりがあった。
「おい、まさかそれは――〈塔〉か?」
そう訊くと、先ほどのように佐藤と少年が同時に玄至の顔を見た。
だが怯えている佐藤と違い、玄至を見る少年の目は険しかった。
「……おっさん、〈塔ノ旅団〉知ってるのか」
「え」
竦んでいた晶が思わずはっとした。
「〈ワルプルギスの夜事件〉の首謀者がそこの〈勇者〉だからな」
「あ――」
玄至が口にしたその単語を聞いた佐藤が口を大きく開けた。
「……警察も無能では無いのだな」
少年は肩をすくめてみせる。そして佐藤を離して徐に立ち上がった。
「〈塔ノ旅団〉の事を知ってるのは警察関係者でもごく一部だ。この場では俺とそこの狂犬くらいだ」
「狂犬言うなオッサ――」
怒鳴る晶がその時、佐藤の異変にも気づいた。
佐藤は大きく開いた口から一本の柄を吐き出していた。
それは日本刀であった。
「おい、そういやそいつ日本刀持ってた――」
晶が少年を指した瞬間、佐藤ははき出した日本刀を掴み取り、鈍い光を放つ刀身を少年の背後に突き上げる。少年の胸部から顔を出した一閃は天を突いていた。
「野郎、道具袋に詰めていやがったか!」
道具袋とは、異世界へ召喚された〈勇者〉たち全てに与えられる特殊なスキルで、手荷物を体表を通じて異空間へ仕舞える事が出来る。それにより冒険で積載問題に悩まされる事が無くなり、彼らはそれを詰むと表現している。
ただ大半は掌や脇腹に異空間の入り口を設けており、このような腔内に入り口を設けている者は少ない。ただ相手の意表を付く場所としては効果的な面もあり、これ以外にも目や耳に設ける者も少なくなかった。
「ちいっ!」
晶は少年を刺殺した佐藤に銃を向けた。
ところがそれより先に、刺されたはずの少年が胸から刀身を生やしたまま、佐藤の顔面に回し蹴りをたたき込んでいた。
「お前――」
「日本刀を持っていたのは知っていたからな」
佐藤をノックアウトさせた少年は、唖然とする晶たちの前で背中に手を回して刀を悠然と引き抜いてみせる。よく見たら、あろう事か血は一滴も出ていない。
「身体の中で空間をねじ曲げておいた。所謂〈瞬間移動〉の亜流を応用したものだが、お前ら〈勇者〉には使えない大系の魔法だ」
そう言って少年は日本刀を道路に放り捨てた。
「……ふむ」
唖然としたままの晶を余所に、玄至は何かを察したように頷いた。
「……仮説を口にしても無駄だろうからストレートに訊く。お前は何者だ?」
訊かれて、少年は暫し沈黙した後ようやく口を開いた。
「俺の名前は
続く
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