全てが平等過ぎるVRMMO

加部川ツトシ

偶々見つけたゲーム


『全てのゲーム内要素が平等なオンラインMMORPG、本日発売!』


 ふと気まぐれに立ち寄ったゲームショップの一角にあったそのポスターを見て、少し興味を持った。VRゲームが全盛となっている今、MMORPGというジャンルのゲームも人気が高い。

 だがVRが始まる前からの問題ではあるけども、どうしてもオンラインゲームというものには格差が生まれる。運によるアイテムの取得格差、注ぎ込める時間の違い、そしてプレイヤースキルの差。プレイヤースキルに限ってはVRでは元々の運動神経の差が多少なりとも絡んでくる。それに文句をつける者も多い。

 現実と違って、自前の筋力や体力の差は埋められているのでリアルほど格差はないと思うんだけど、気に入らない人は気に入らないらしい。……中には全くに逆でリアルではからっきしポンコツなのにVRでは人外な動きをするプレイヤーもいたりするんだけどな。


「……全てが平等か」


 気になる言葉ではある。VRMMO自体はいくつかやった事はあるし、それなりにどれも楽しんでプレイしてきた。それでもトッププレイヤーと呼ばれるプレイヤー達には遠く及ばない。それが悪い訳でもなく、気が合った友人と共に適度に遊ぶというだけでも十分楽しいものである。トップで攻略し続ける事だけがMMORPGの楽しみ方ではないからだ。

 だが一度くらいはあのトッププレイヤーと肩を並べるくらいのプレイをしてみたいという気持ちは僅かにあった。全ての要素が平等なゲームならもしかしたら……。



 ◇ ◇ ◇



「つい買ってしまった……。まぁ、やってみるか」


 平等という売り文句に釣られて、そのまま購入して家まで帰ってきてしまった。タイトルは『Equality World』という名前。単純に平等な世界という認識で良いんだろうな。サービスそのものは既にスタートしていて、この後に特に用もないのですぐにでも始められそうである。

 今時珍しいパッケージ版のみのゲームの様だった。まぁそれ自体は特に問題ないので、いつも使っているVR用のゲーム機にインストールを行えばすぐにゲームの開始が可能になった。


「『Equality World』起動!」


 そしてゲームを起動していく。この手のオンラインゲームはまずはアバターの作成からだろうな。さて、どんなキャラクターにするか。あ、そういや衝動買いだったし、まともに説明書も読んでないな。まぁやりながらでもなんとかなるだろう。


 暫くすると景色が切り替わり、キャラメイク用らしき場所へとやってきた。


「ようこそ、『Equality World』へ」

「あ、どうも」


 大体今時のゲームならば簡易的なものでもAIが採用されている。ゲームによっては高度なAIで人間と区別がつかなかったり、独自に一部のプレイヤーに贔屓をする事もあるとも聞く。まぁ後者は都市伝説みたいなものだが。


「プレイヤー名をお決め下さい」

「え、もう? じゃあ『シン』で」

「プレイヤー名『シン』でよろしいですか?」

「あ、はい」

「それでは15分ほどお待ちください」

「はい!? キャラメイクとかは!?」

「キャラメイクには作成時間に個人差が大きくなるので、平等の為に不可能となっています」

「は? なんだそれ? じゃあどんなキャラになるんだよ!?」

「全プレイヤーが同一のキャラクターになります」

「はぁ? 全員が同一のキャラ!? そもそも15分の待ち時間って何だよ!?」

「サービス開始時の混雑による待ち時間です。プレイヤー全ての皆様に平等になるように同じ時間だけお待ちいただいています」


 何だそれは……。確かに自分の時は混雑して、後から始めた奴がスムーズに終わったとかを聞けばモヤっとしたものを感じる事はあるけどさ! いや、平等を訴えるって事は自分と同じ事を他人に強要するという事なのか……? だからってこれはないだろ。そんな理由で待ってられるか! 始めたばっかだけどログアウトだ!


「……なんでログアウトが選択出来ないんだ?」

「平等の為です。初めてログアウトされた方の時間までログアウトは不可能となっています。なお、その時間になれば強制的にログアウトとなります」

「ログアウトするタイミングすら強制かよ!?」

「平等の為ですから」


 くそ、平等の為と言えば何でも許されるとでも思ってるのか!? それにしても自発的にログアウト出来ないとか厄介な事を……。ゲーム機本体の健康用の定期自動切断機能はオフにしてたっけ。普段は鬱陶しいだけだからオンにしとけば良かった。

 もしかして初めてログアウトしたやつって本体の強制切断でログアウトしたのか……? 誰かがログアウトしなけりゃ、平等とか言ってログアウトが出来ないとか? うわ、考えただけでゾッとする話だ……。


 もう既にこのゲームをやる気は無くなってきているが、自発的にログアウト出来ない以上は仕方ない。そして仕方なく15分待つことになった。


「お待たせしました。次にゲーム規約をお読みください」

「そんなもん待ってる間に出せよ、おい!」

「ここまで辿り着くのに最短の方で15分かかりましたので。平等の為にご了承下さい」

「何でもかんでも平等って言ってんじゃねぇよ!」

「それでは12秒にて全てを読み、同意ボタンをお願いします」

「そんなとこまで同じにしなきゃならんのか!?」

「平等の為ですから」


 ふざけんじゃねぇよ! あーもう、さっさとこのゲーム終わりにしたい。……多分何を聞いても平等の為とかしか返ってこない気がするから、もう言われるがままにさっさと進めてしまおう。それで時間が来たら終わりだ、こんなゲーム!


 そしてイライラしながらも何とかキャラメイク……ろくにしてない気もするけど、とりあえず終わった。職業すらも平等ですからとか言って、存在しないとまで言われたぞ。どうなってんだ、このゲーム。



 ◇ ◇ ◇



 ようやく辿り着いたゲーム内。そしてファンタジー感の溢れる町並みの中に俺は立っていた。周囲を見回してみると、同じ顔のプレイヤーが大量にいた。おいおい、マジで全プレイヤーが同じ見た目なのか?


「……なんじゃこりゃ」

「……おう、おたくも同じ感想か」


 隣にログインしてきたと思わしき人が話しかけてきた。いや、そりゃそう思うよな。


「くそっ! 何が平等だよ!? なんで10分間は町中歩いてNPCに話しかけるしか出来ないんだよ!?」

「一番初めにログインしたやつと同じ状態になるようにしか行動出来ないらしいぜ」

「ふざけてんのか、このゲーム!」


 同じ顔をした片方は初期装備っぽい普通の格好で文句を言いながらNPCに話しかけてる男に、同じ顔のもう1人の大剣を背負って防具を着け、両腕に野菜を抱えた男が状況を説明してくれていた。その俺達の目の前で繰り広げられたその会話を耳にして、このゲームのクソっぷりがよく分かった。いや、ここに来る前から大体予想ついてたけどな!


<10分以内に10以上のNPCに話しかけ、称号『大剣使い』と称号『料理人』の取得クエストを開始して下さい>


「うっわ、こんなの指定されんのかよ」

「……おう、お前ら諦めろ。初めにログインした奴が3時間後にログアウトするまでにやった行動を全部やらされるからな」

「……マジか」

「……平等ってなんなんだろうな」


 全てのプレイヤーに同じ事を出来るようにしろと、平等にしろと言うやつはいたけども、間違いなくこれは違うだろう。いや、確かに全て同じ行動をさせればそりゃ全部同じ結果になるだろうけどさ。


 それから称号『大剣使い』と称号『料理人』のクエストの開始フラグのNPCに話しかけ、それぞれのクエストを進めていくことになった。逆らおうとすれば、勝手に身体が動き出し自動で進められてしまっていた。


 強制的にクエストを進められて行き、『大剣使い』のクエストの最中で腕試しと称して街の外へと戦いに出ていくことになる。その際にこのクエストの帰り道だと思われる同じ顔の人達は、みんな同じようにイライラした感じであった。……このイライラもある意味では平等なのかもしれない。初めのプレイヤーはどうかは知らないけど。



 戦闘に関しても酷いものであった。大きなイノシシが相手で、普通に戦う操作は出来るようにはなっていた。そんな中での光景の一部がこんな感じである。


「くっそ! なんでこんなに動きが鈍いんだよ! なんか制限かかってないか!?」

「うわ!? 身体が勝手に動く! え、俺ってこんな動きが出来るの!?」

「え、これくらいが普通じゃねぇの?」

「んな訳あるか! 俺はもっと素早く動けるわ!」

「すっげー! 運動神経壊滅的な俺でもこれだけ動けるんだ!」


 普通に苦戦さえしなければ制限もないのだが、どうやら運動神経が良い人は初めのプレイヤーの可能な動作まで行動が制限され、逆に不慣れな人は自動でその水準まで動作が自動化されるらしい……。いや、確かにプレイヤースキルを平等にするって言ったらそうなるんだろうけどさ、それは違うだろう。しかし人によって捉え方が全然違うようだ。


「私、魔法使いたかったんだけど!」

「俺は弓が良かったわ!」


 そもそも職すら平等という言葉で強制的に足並みを揃えさせられている。……究極的な平等は等しく全てが同じ事なんだろうけど、これはいくらなんでも酷すぎる。……何を考えてこんなクソ仕様なゲームを作った!? 



 そしてイノシシを倒した後に街へ戻れば次は『料理人』で材料となる野菜を集めろとの事だった。もうここまで来ると思考停止して淡々と作業を進めるだけの人が増えている様子である。あ、新たにログインしてきた人がいた。


「……なんじゃこりゃ」

「……諦めたほうがいいぞ。初めにログインした人が3時間後にログアウトするまでにやった行動を全部やらされるって話だぞ……」

「……マジか」


 あ、俺が言われたような事をつい忠告的に話してしまっていた。……これすらも平等な情報とかいうのであればもう、思考的にもヤバイのかもしれない。もう2時間くらいは経ったはず。早く終わってくれ。



 そして1時間後。称号『料理人』の為に野菜を切るのまではまだいい。でも初めの人がその時指を切ったらしく、平等の為に強制的に身体を動かされて指を切らされたのは……いや、もういい。もうすぐ解放されるんだ。


<ログイン時間を平等にする為、強制的にログアウトします>


「ははっ、こんなとこまで平等にかよ!」


 ログアウトしていく人達がみんな残していく捨て台詞を俺も言いながら、そして遂にログアウトする事が出来た。



 ◇ ◇ ◇



「何が全てが平等なゲームだよ!? とんでもないクソゲーじゃねぇか!」


 あんなものは平等でも何でもない。確かにあれならば誰がどうやっても同じ結果にはなるだろうが、あんなものはゲームじゃない。娯楽ですらない。あんなのをするくらいなら、VR型の映画を見てる方が遥かに有意義だ。

 ……後で売りに行くか。まだこのタイミングなら、買取価格はかなりマシなはず。パッケージ版のゲームそのものはオンラインゲームでも生体認証キーは別発行だから一応買い取ってくれるからな。おっとその前にトイレ、トイレっと。


「……は?」


 トイレから戻ってみれば、『Equality World』のパッケージが何かに叩きつけられた様に折れ曲がり無残な姿へと変貌していた。……ちょっと待て、何が起きた?



 ◇ ◇ ◇



 とある掲示板にて……。


146:先駆者

 今日発売の『Equality World』な。とんでもないクソゲーだ!


147:名無し

 え、あの平等を謳ってゲームか?

 平等なのを要望してたやつ多いじゃん?


148:名無し

 プレイヤースキルに差ができるのに文句つけまくってた奴らいたじゃん。

 念願のゲームじゃねぇの?


149:先駆者

 あれはそんなもんじゃねぇ!

 何が平等だ!

 折角スタートダッシュ決めたと思ったら、どいつもこいつも同じ行動しやがって!


150:名無し

 はい? どういう事?


151:名無し

 一番乗りってあんたか。

 あのゲーム、平等の言葉の元に1番乗りのプレイヤーと同じ行為しか出来ないんだよ……。


152:名無し

 は? ……は?


153:先駆者

 こんなゲーム二度とやるか!


 xxxxxxxx.jpg


154:名無し

 あ、パッケージが折れ曲がってる。

 どっかに叩きつけた?


 勿体無いな、今日発売なんだからパッケージ版なら売れただろうに。


155:名無し

 うわっ!?

 な、何事!?


156:名無し

 >>155

 何だ!? どうした!?


157:155

 俺の持ってた『Equality World』のパッケージがいきなりぶっ壊れた……。

 え、どういう事?


158:名無し

 >>157

 今すぐ画像上げろ!


159:155

 お、おう!

 これで良いか?


 xxxxxxxyyy.jpg


160:名無し

 傷の位置まで全く同じじゃねーか!

 自演してんじゃねぇよ!


161:155

 自演じゃねぇよ!?



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