永遠に歩く

猫屋 こね

ありがとう

 私は歩いていた。

 

 今までずっと。


 たまに走るときもあった。


 息を切らしながら、羽ばたけるように。


 立ち止まろうとしたこともあった。


 それが何を意味するかもわかっていたのに。


 私は歩く。


 そして、歩きながら考える。


 私をこの世界に繋ぎ止めているものは何なのだろう。


 数多くの言葉達。


 様々に入り乱れる感情。


 人と人との繋がり。


 同調。


 協調。


 人に合わせて生きること。


 悪いことをしている訳じゃないのに、みんなと違うことをすると敬遠されてしまう。


 真面目に生きているのに、報われることが少ない。


 私にとっては少し生きづらい、そんな世界。


 すべてが色褪せて見えてしまい、不確かなものに感じてしまうことがある。


 決まってそういうとき、立ち止まりたいと思ってしまう。


 でも、あなたのぬくもりは確かなもの。


 私の身体が、心がはっきりと覚えてる。


 あなたに抱き締められたこと。


 あなたの手の温かさ。


 あなたの背中から見た風景。


 あなたにぶたれた頬の痛み。


 あなたの悲しい顔。


 あなたの笑顔。


 その1つ1つ、あなたが旅立った今でも鮮明に覚えてる。


 ごめんね。


 ごめんね。


 なにもしてあげられなくて。


 ごめんね。


 あなたの最後のささやかな願いすら叶えてあげられなくて。


 ごめんね。


 手を握って、祈ることしかできなくて。


 ごめんね。


 謝ってほしい訳じゃないってわかってる。


 あなたが私に、最後に残してくれた言葉。


 本当は私が言わなきゃいけなかったのに。


 ごめんね。


 ごめんね・・・



 私は歩き続ける。


 この世界との繋がりを、あなたが教えてくれたから。


 あなたがくれたぬくもりを、今度は私が与える番だから・・・

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永遠に歩く 猫屋 こね @54-25-81

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