第9話 出港
「うーん、朝か……」
「ララティナ、起きたか。ならば、すぐに準備しろ」
ララティナが、起きると、シュバルツが声をかけてきた。
現在、ララティナはタルブの町に滞在しているのだが、先日とある手がかりを掴み、ディヴランへ渡ることになっていた。
タルブで友人となったクーナから、クーナの伯父の船に乗せてもらえることを昨日伝えられた。
今日は、その船に乗せてもらえる日だ。朝早く起き、港に向かわなければならない。
「ララティナ、しっかりと目を覚ませ、早くしなければ間に合わんぞ」
「わかってるよ、もう、シュバルツは心配性なんだから」
今は、部屋で二人っきりのため、シュバルツは声を出している。
「我に心配をさせるほど、貴様がマイペースなのだ。もっと、自覚するのだ」
「はーい」
適当に返事をしながら、ララティナは準備を進めた。
◇
港にララティナが着くと、すでにクーナが待っていた。
「あれ?」
『ほう……』
クーナの隣には、初老の男性がいた。その男性は、ララティナ達も見覚えがあった。
「ああん?」
向こうもこちらに気づいたようだ。
「誰かと思えば、いつかの嬢ちゃんか」
初老の男性は、ララティナが最初にクーナに会った時、クーナに注意していた男性だった。
「あれ? 言ってませんでしたか?」
「クーナ、お前な……」
クーナは、笑顔で迎えてくれた。
「あの、おはようございます。ララティナといいます。今日は……」
「ああ、いい、いい。事情は聞いてるからよ。堅苦しい挨拶とかはよせ」
ララティナが挨拶しようとすると、初老の男性はそれを遮った。
「伯父さんは、細かいことを気にしない人ですから」
「そういうことだ。俺はゲンジという。よろしくな、嬢ちゃん」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「まあ、すぐに出発するから、別れでも済ましときな」
そう言うと、ゲンジは二人の元から去っていた。
「伯父さんは、ああいう人なので……」
「あはは、でも、気楽でいいかも」
残された二人は、互いに見つめ合った。
「ララティナさん、頑張ってください。私、応援してますから」
「クーナさん、何から何までお世話になりました」
「いえ、私の方こそお世話になりました」
クーナの目には、涙が滲んでいた。それに釣られ、ララティナも泣きそうになる。
ララティナは、クーナを抱きしめた。
「クーナさん、お元気で」
「ララティナさんも、お元気で、それから」
『むっ……』
『シュバルツさんも』
『心得た』
それだけ言って、体を離す。そして、急いで、船に乗り込む。
船に乗ると、ゲンジがいた。
「ゲンジさん」
「甲板に上がりな」
「はい、よろしくお願いします」
ゲンジは、ララティナの考えを読んでいたようで、すぐに、甲板の元に案内してくれた。
甲板に上がると、クーナが見えた。手を振ると、振り返してくれた。
「そろそろ、出るぜ」
ゲンジが、言うと、その通りに船が動き始めた。
ララティナが手を振り続けていると、クーナが叫んだ。
「ララティナさん!」
「ク―ナさん?」
「また! いつでも! 遊びに! 来てくださーい!」
その言葉に、ララティナも大きな声で、答える。
「はい! 必ず!」
それから、港が見えなくなるまで、ララティナは、甲板を離れなかった。
「嬢ちゃん、ありがとな」
港が見えなくなった時、ゲンジが呟いた。
「えっ? なんですか?」
「クーナの奴は、内気でな。嬢ちゃんみたいな友達は、少なかったのさ」
「クーナさんが……」
「まあ、離れちまう訳だが、また、あいつの所に遊びに行ってやってくれ」
ゲンジは、かなり嬉しそうに、そう語った。
◇
甲板から離れれたララティナを案内してくれたのは、船員のクックだった。
クックは、ララティナを部屋に案内しんがら、話しかけてきた。
「いやあ、ララティナちゃん、ごめんね。ここさ、貨物船だからさ、あんまりいい部屋は、ないんだよね」
「いえいえ、乗せてもらえるだけで、ありがたいです」
「いや、そんな。やっぱりいい子だね。君みたいな子なら、大歓迎だよ」
「はい、ありがとうございます」
部屋に案内される際、周囲の人々を見渡した。屈強な男達が、働いていた。
「ああ、怖そうなお兄さん達で、ごめんね。けど、一応はいい奴らだよ」
「あ、いえ、そんなことは」
そんな会話をしていると、周囲からクックを睨みつける視線が多数あった。
「いや、ごめんって」
「ふふ、皆さん、仲が良いんですね」
ララティナが、そう言うと、皆、笑顔になっていた。
「よおし、ここが、ララティナちゃんの部屋だよ。ゆっくりしててよ」
「はい、色々とありがとうございます」
「いやいや、あ、そういえば、船長のあんな顔、初めて見たよ」
「そうなんですか?」
「うん、いつもは鬼みたいな人なのにさ。女の子には、甘いんだなあって」
部屋に案内されたが、クックは、まだ話していた。どうやら、この話がしたくて、しょうがなかったらしい。
「あの人、怖い顔してるのに。姪っ子のクーナちゃんとかには、甘いんだから」
「悪かったなあ、クック……」
そんなことを言っていると、クックの後ろから、声が聞こえた。
「えあ? 船長……どうしてここに?」
「お前が、中々、帰って来ないから、見に来てやったんだ」
「俺は、何も言ってませんよ。ね、ララティナちゃん」
「えっ?」
話を振られると、思っていなかったララティナは、思わず硬直してしまった。
「すまんな、嬢ちゃん。こいつの軽口は、いつものことなんだ。ちょっと、連れてくぜ」
そのまま、クックは引きづられていった。
『なんだか、大変そうだね』
『まあ、無事に船に乗れて、何よりだ』
ララティナが、シュバルツに話しかけると、気楽に応答が返ってくる。
『うーん、とりあえず、一眠りするかな』
『寒くしないように、気をつけるのだぞ』
いよいよ、シュバルツが優しくなりすぎているのではないかと、ララティナは思うのだった。
◇
「うーん、朝ではないね」
『ララティナ、起きたか? 外を見てみろ』
『うん? ちょっと待ってね』
シュバルツに言われ、部屋の窓を見てみると、かなり荒れていた。
『うわ! すごい荒れている』
『ああ、かなり揺れているが、気分は問題ないか?』
『うん、酔い止めの薬飲んだから、大丈夫だよ』
しばらくシュバルツと会話していると、ドアを叩く音が聞こえた。
「ララティナちゃん、いいかな?」
ドアを開けると、クックがいた。
「クックさん、どうかしたんですか?」
「ああ、ララティナちゃん、ちょっとまずいことになってね。しばらく、騒がしくなると思うけど、ごめんね」
「何か……あったんですか?」
ララティナが聞くと、クックが神妙な顔で語り始めた。
「ララティナちゃんは、海の王の話を知っているのかな?」
「海の王? すみません、聞いたことないです」
「そっか、なら、端的に話すよ。この大いなる海は、かつて一体の王が支配していたのさ」
「海を支配……?」
「その王は、無数の部下を持ち、陸をも海にしようと目論んでいた。その王は、超古代に封印されたんだけど、その部下達は、放たれたままなんだ」
「それが一体……?」
話しの全容が見えてこないため、ララティナは困惑していた。海の王と、今の嵐が何か関係あるのか、わからなかった。
「この嵐の原因は、その部下によるものなんだよ」
「えっ? ちょっと待ってください。理解が、追いつかないんですけど」
「うん、まあ、そうだよね。聞き流してくれていいよ。つまり、普通の嵐じゃないってことだけ、理解してくれるといい」
それだけ言って、クックは去っていった。残されたララティナは、今の話を理解するのに必死だった。
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